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『出版通信』を支えた戦前の出版界

吉田: 『出版通信』に掲載されている広告を見ますと、それも戦前の貴重な資料だと思いますが、量的にも多く業界全体がこの新聞を支えていたのだということがわかりますが、当時の出版業界について、時代背景について植田先生からお話しいただけますでしょうか。

植田: 私も今回『出版通信』と『出版同盟新聞』のコピ−を読ませていただき、改めて戦前の出版はどのようなものだったのかということについて考え直してみました。結局、戦前の出版界、あるいは現在の出版界もそうなのですが、そもそも日本の出版界の特色というものをさかのぼりますと、やはり明治期にいきます。

 日本の出版史というのはヨーロッパなどに比べて少し不幸な事情があり、近世から近代にうまくつながっていない面があります。書籍出版については、江戸時代までに商業出版としてきちんとしたシステムが出来ていたのです。本屋という形で出版もやりかつ卸、小売もやってしまうという形で商業出版を行なっていたのです。これはこれで良いシステムだったと思います。

 明治期に雑誌という新しい媒体ができたとき、出版のシステムが変わってしまったのではないかという感じがします。明治以降は雑誌というものが非常に大きな存在になっていったと思います。講談社、中央公論社、小学館、新潮社等、明治以後発足した出版社で現在も続いている大きな出版社というのは、みんな雑誌出版社として出発しています。

 つまり雑誌を発行して、それから後に単行本を出すという形でやっています。雑誌というものが非常に大きな存在になり、雑誌をうまく流通させるシステムとなってきたのです。これは実に良くできたシステムで、欧米よりも進んでいると思います。欧米では今でも雑誌は書店では売らずに、マガジンショップやニュ−ススタンドで売るかダイレクトメールという形で送るのが大部分です。

 ところが、日本の場合には雑誌も書店できちんと売っています。そういうシステムを明治のころに作り、そのままずっと今日まで続いているのです。結果として書籍の方がはじかれてしまったという感じがします。雑誌の流通ルートに、何かお添えもののように書籍が乗っているように思われます。

 そういうシステムを作る上で非常に大きな力を発揮したのが、明治二十年に創業した博文館です。博文館の創業というのは、近代出版史を語る上では非常に大きな存在だと思います。博文館もまた雑誌から出発しています。さらに博文館は自社で作った雑誌を流通させるために、全国の書店を組織化し、やがて東京堂という取次会社をつくりました

 日本の近代出版というのはシステムの面では、雑誌を中心にして成り立ったという事情があるのです。そのような流れの中で、大正末から昭和初期にかけて、今度は出版のマス化という現象が生じます。そのときも、やはり非常に雑誌的な出版物が大量化を進める上で大きな役割を果たします。

 まず第一は、改造社が大正十五年に『現代日本文学全集』を刊行し、これが三十六万部の予約をとり、昭和二年に新潮社が『世界文学全集』で五十八万部という予約登録者を獲得します。考えてみると、全集というのは書籍の形ではあるけれど、ある意味では定期刊行物です。単行本ではなかったのです。定期刊行物としての全集というものを大量に発行していくという日本独特の全集のようなものを作り出しました。

 同時期の大正十四年一月に、講談社が『キング』を創刊します。これが、いきなり七十四万部という大量部数を獲得しました。大正末から昭和初期にかけて、出版の大衆化、マス化ということが顕在化します。

 先ほど博文館の果たす役割が大きかったと申しましたが、もう一つは実業之日本社だったと思います。実業之日本社が明治四十二年に『婦人世界』という雑誌で委託販売制というものを作り出しました。この委託販売制というシステムをうまく使ったのが『キング』だったと思います。

 キングが七十四万発行できたというのは、やはり委託販売セールスというシステムを使った成果だと思います。明治に作られた大量出版のためのシステムが完成したのが、昭和初期ではなかったかと思います。『出版通信』が創刊された昭和五年とはそのような時代であったと思います。

小林: 丸島誠さんについてもう少し話しますと、『出版通信』創刊の二年後に『である』という雑誌を発行しています。十号ほどで廃刊したようですが、堀内敬三・徳川夢声・古川緑波などが編集同人で、編集部には久江京四郎・森岩雄が在席しているという、モガモボ全盛時代の“銀座調”がベ−スの映画・音楽・漫文誌です。紀伊國屋書店の田辺茂一さんとは生涯非常に親しかったことなどを考え合わせますと、彼の知的ネットワ−クが見えてくるような気がします。

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<座談会出席者>
植田康夫氏(上智大学文学部教授・日本出版学会会長)
小林一博氏(出版評論家・元「新文化」編集長)
吉田則昭氏(立教大学大学院博士課程・日本出版学会理事)
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