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田中社長の古くて新しい店

 鶴林堂、王様の本に続いて、千葉のアークが倒産した。

 千葉、福島県に多店舗展開する有力書店で、日本書店大学や日販が主催する出版流通学院を通じて、田中茂雄社長の業界人脈は広く、信用も得ていた。

 同社の危機的状況については、実は少し前から聞いていたが、現実に自己破産申請した第一報が入った時は耳を疑った。

 田中社長と知り合って何年になるだろう。

 コンピュータシステムに精通している田中社長は、約6年程前に「日次決算システム」を自社開発し、その帳表類を私にみせて、取材に応じていた。当時としては画期的な管理システムとして記事で紹介させてもらったことを覚えている。

 また、子どもたちへの「読み聞かせ会」も他の書店にさきがけて、いち早く取組み、ある暖かな土曜日にお店に出向いたこともあった。

 「今日は僕も本を読みますよ。でも、丸島さんがいると緊張しちゃうな〜」

 田中社長はそう言いながらも、JPICのスタッフとともに、子ども達をあやしながら楽しそうに絵本を読んでいた。その優しい空間に鳥肌が立った。

 「本屋さんの現場って、こんな地味なものなんだよ。読み聞かせで、その時に本が売れなくても、必ず戻ってきてくれる」

 デジタルとアナログの両面を持ち合わせた田中社長には、いろいろなことを教えていただいた。

 2005年7月、同社は浦安市のホテルで初めての「経営方針発表会」を行う。3年間で既存10店から20店を出店する「店舗3倍」「売上げ3倍」計画を発表し、関係者を驚かせた。

 3年後に年商100億円にし、4億円の経常利益を計上する方針を複合型の店舗づくりと合わせてプレゼンテーションしていた。

 詳細は省かせてもらうが、店頭とパソコンを融合したCRMシステムを特許申請し、“出版社の販売代理”から“お客様の購買代理”を訴え、書店業の構造・役割を変えようとしてもいた。

 その説明の後、食い下がるように話を聞こうとする私には「実は・・・」と、もっと壮大な計画もあると「オフレコ」で教えてくれた田中社長。

 05年12月8日、900坪で開店した八文字屋の天童店を取材した後、福島で下車し、同日に開店したアークの13店目の店、南福島店に立ち寄らせてもらった。その時に「山形の帰りなんでしょ。お疲れさま。取材はいいからゆっくりしていってよ」と労ってくれた言葉が忘れられない。

 そして、「オーバーストアのなかに大型出店していくいまの書店界はどうなんでしょう。私は競合しない地に出店していきます」と話し、応接してくれた。

 しかし結果的には相次ぐ出店で資金繰りが悪化し、今回の破綻に結びついてしまったようだ。

 いまはもう田中社長とは連絡がとれなくなってしまったが、社長、いま一度、書店業について私に話しを聞かせてもらえませんか。そして、またアナログで新しい業態の書店をつくって下さい。

 壮大なあの計画なんか無くたって、社長のいう「地域の書店」はそれだけで十分に意義があると思います。

 

社長 丸島基和

(2007/4/20)

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