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「父と子のカード」

 相賀徹夫氏(小学館・相談役)のお別れの会が営まれた。照明が落とされた入り口を抜けると故人の遺影が目に飛び込んできた。清々しい写真に見惚れるようである。別室の会場には幼少から晩年までの写真がパネル展示されていたが、まるで俳優のような容姿に驚いたのは私だけではなかったようだ。

 ある出版社の方が「はあー、こんなにハンサムだったんだ」と独り言をいうと、隣にいたあのデヴィ夫人が「そうよ、昔は凄かったのよ」と合いの手をいれていた。

 私にとって相賀徹夫氏は雲の上の存在で、会合ではいつも控えめに目立たぬ所にいた氏の姿を遠くから眺めているだけだった。1996年、再販研究委員会の新年会で相談役として挨拶した氏は公取委の中間報告に対して「出版社の価格設定は消費者の意向を組み入れて、市場メカニズムが働いている」と反論しながらも、「再販運用に柔軟な姿勢をもったベンチャー企業の多様な取り組みを期待したい。消費者にとって良い方法で対処したい」と語った。

 公取委が再販廃止が前提であることを明言していたなか、各団体の代表が躍起になって維持・擁護を主張していた時のことであった。消費者の立場を尊重して、業界に提言できるリーダーはこの方なんだ、と勝手に思っていた。公取委や関係省庁と何十年もわたり合ってきた方に、生半可な知識で近づいて挨拶するなんて失礼だと思って、足がすくんでいた。

 お別れの会で配布された冊子「追想録」は深く、重く、迫力がある。特に長男である相賀昌宏社長の「追想」は秀逸である。

 「父の性格は、誰でもそうであるように複雑でしたが、むしろ複雑過ぎるところがあった気がします」 徹夫氏の人間形成や性格の土台に何があったかを紐解き、「優しさと冷たいとも思える言動」を活字にして、父・徹夫氏を偲んだ。親子の距離感と大手出版社を背負うことがなんたるかが描かれていた。

 同冊子に掲載された作家・沢木耕太郎氏の「与えるだけで」も、瀬戸内寂聴氏の「炭置小屋と本堂をまちがえた人」も故人の横顔を紹介するのに充分な作品である。

 最後の「語録」では社史に記した文章や創業記念日での挨拶が6篇にわたって掲載された。いずれも出版を営む関係者に目を通してほしいものである。参列した出版社の間でも「凄い冊子だ」と話題になっている。できることならここに全文を転載したいぐらいだ。

 香典返しの図書カードには、「高ク 広ク 新シク 徹夫」という徹夫氏直筆のメッセージがある。これは昭和35年、昌宏氏に向け揮毫した一枚の色紙から作成されたもので、「昌宏へ」という3文字を削除してカードにしたという。

 業界の喧騒のなかで、父と子の見えない絆をかたちにしていただいたような気がする。そんなカードを本屋さんで使えるわけがありません。

 

社長 丸島基和

(2009/3/12)

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