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忘れられた本

 地下鉄の中の忘れ物、ベスト3は「傘」、「衣類」、「定期」である。JR東日本のベスト3は「衣類」「袋(バックなど)」「傘」であるらしい。東京メトロの広報部によると「本」の拾得物は昨年1年間で4472冊。全体のランキングでは第18位だったそうだ。1日当り12冊余ということだが、これはきっと氷山の一角で本当は相当多いと思われる。

 興味深いのは、書籍、文庫、新書などは「拾得物」として扱われるが、週刊誌のような雑誌は「ゴミ」と判断されるケースが多いということ。基本的に拾得物は本に限らず保管することが義務付けられているが、本の汚損状態から察して「捨てたもの」と判断されているらしい。実際、「雑誌を車中に忘れた」と問い合わせる人はほとんどいないから現場の駅員さんの判断は正しいことになる。

 東京メトロでは本に限らず拾得物は最寄り駅の事務室に1日、その後、上野駅のお忘れもの総合取扱所で3〜4日保管され、警視庁に移送されるらしい。

 「例えば、いま売れている『1Q84』っていう村上春樹の本がありますが、名乗り出ても、本人のものかどうか判別できませんよねえ」と私。
 「あっ、それは忘れた日時と路線、車両を特定すれば、お渡しできますよ。記録は全てとってありますから」
 「あっ、そういえば、そうか」

 帰宅途中、ある駅の駅員さんと立ち話をしながら、取材(?)をすると、車中の棚に置かれた本は年々減っているという。拾子(ひろこ)と呼ばれるホームレスの人たちがきれいに持っていってくれることや、お父さんやお兄さんの小遣いが減って雑誌を拾い読みする人が増えていることが原因と推察している。自然発生的リサイクルである。

 いまから十数年前、私がセブン-イレブンの雑誌販売と流通についての連載をもち、取材していた時、文庫の取り扱いを始めた理由について同社の担当役員の方が「文庫は消費者にとって消費財であるから」と答えた。

 「駅ホームのゴミ箱に文庫を捨てている人をみて確信した」とし、それがセブン-イレブンの取扱い商品になった理由の一つだと言った。一括りに文庫といってもいろんなシリーズやタイトルがあるから何とも言えないところだが、「消費財ってそういうことなんだ」と思わされたことを思い出す。

 近年、本の寿命が短くなったことと、こうした世間の見方はどこかで交錯しているようだ。出版界がコンテンツ産業なんて呼ばれるようななってからだったかは定かではないが、文化財だった本は変わっていた。

 

社長 丸島基和

(2009/8/11)

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