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言葉の力

アマゾン・ジャパンのジャスパー・チャン社長。45歳。もう言うまでもない、本の売上高で紀伊國屋書店を上回るともいわれるあの大手ネット書店の代表である。売上高などは公表せず、ベールに包まれている部分の多い企業という印象が強かった。

6月2日、商品を撮影してフォト検索し、受け渡し先のコンビニ検索も可能なiPhone/iPod touch向け無料アプリのサービス開始で記者会見した同社。会場の東京・渋谷の本社にはチャン社長も立ち会った。

説明が終わったあとの質疑応答は予定の15分を過ぎても止まらない。終了後にもチャン社長と担当者の周りには囲み取材で人垣ができていた。

質疑応答の前には「当件と関係のないことは質問しないで下さい」とアナウンスされていたが、チャン社長を囲った報道記者は皆、キンドルによる電子書籍について聞いていた。

私は少し出遅れてその輪に入れないでいたが、突っ込んだ質問に対してチャン社長が丁寧に受け答えている声は聞こえた。キンドルにおける「日本語版の発売日」、「開始する必要条件」、「紙の本を売るネット販売への影響」、「電子書籍と紙の本の市場予測」「先行した発売したiPadの感想」「プリント・オンデマンドとの関連」などなど。

テレビも新聞も雑誌社もみんな、聞きたい事は同じなんだなあ、なんて思いながら聞いていたが、ビックリしたのはその対応だった。どの質問に対しても決定的な発言は避けていたが、実に丁寧に的確に答えていた。

本当は本件と関係ない質問はしてはいけないのに、いやな顔を見せず、上手な日本語で一生懸命に話していた。その答えは「品揃え」と「顧客利便」の企業理念からなるものだった。細かなことはわからないが、その言葉からはビジョンと自信が感じられた。

周りの記者たちはいつの間にか笑顔に変わっている。すごい人だと思った。私はちょっとずつ前に進み、やっと1つ質問ができたのだった。

そういえば、ある出版社の社長に呼ばれて、いいのかなあと思いつつ株主総会に行ったことがあったが、減収減益の決算報告をしたその社長はビジョンを語った。大きな声で、明るく夢を語るようだった。質疑に入ってからは「頑張って下さい」とエールを贈った株主は一人ではなかった。

会場はまるで大増益の決算だったかのような空気。人を引きつける言葉の力は大きいと思った。今回、ジャスパー・チャン社長の囲み取材に交じりながら、ふと思い出した。

 

社長 丸島基和

(2010/6/2)

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