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ターフと台車

 ある大きな書店の偉い方とゴルフをしていた時、その方は自分のターフ跡に目土を盛っていた。普通なら足でならすようなことを自分の手で平らにしていた。

 「なんでそんなに丁寧にやるんですか」と問うと、近くのターフを見ながら「あのターフはスライスの跡ですね」とはぐらかす。そんな方だった。

 私が風呂場で体を洗っていると、周りにある桶や椅子をピラミッド型に積んでいる。こちらは慌てて手伝おうとするが、「いいですよ。私のコースですから」と言って寄せ付けない。

 その後、反省会と称して所沢インター近くのそば屋に立ち寄った一行。その専務は私に向かって「君の身長、体重、握力は?」と聞き、「なんだほとんど同じじゃないか。私はまだ君のように上手くなれるね」と笑う。 年は20歳ほど離れているが、冗談か本気か分からない口調がいまも忘れられない。

 その後、その書店に本を買いに行った時、私の前にふとその方が現れて背中からこう言う。「見てください。あの社員。台車を押しているでしょう。店内に限らず台車を移動させる時は引かなくてはいけないですよね。ウチの書店は2流です」

 それは、押せばお客のアキレス腱辺りに当たる可能性があり、当たれば痛い。しかし、引けば当たるのは人の肩あたり。キチンと声をかけて行けば好印象すら与えられる。聞けばその通りだが、考えたこともなかった。

 その方からは仕事やゴルフ、いろんな事を教えていただいた。柔らかい物腰だが、視点は鋭かった。

 先日、東京国際ブックフェアで書店の成功事例について講演をした。それから数日後、書店に勤める女性から電話があり、赤羽で会った。「接客についてもっと詳しく教えてほしい」という。

 それについて話し始めると、彼女は泣き始め、理由を聞くと「近隣に出来た競合店の接客が素晴らしい。足許にも及ばなくて悔しい」という。

 私はその時、ゴルフ場で一緒にプレーしたあの方を思い出した。

 

社長 丸島基和

(2010/8/4)

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