出版業界スケジュール 情報掲示板 連載コラム 編集長のページ 出版業界 専門紙 新文化

夜の著者オーディション

夜8時過ぎ、東京・池袋にあるカラオケボックスの一室。ドアを開けると、真剣な顔をした30〜50代の知らない方々から一斉に注目を浴びてしまい、緊張感が走った。案内されるまま座ると、1人の若者が話し始めた。

ここは、様ざまな職業につく方々が出版社の編集者に対して、自著を刊行してもらえるようプレゼンテーションをする「オーディション」会場であった。そのことは着席して間もなく分かった。知人から誘われるまま、義理を果たす程度の気持ちで来たものの、時間が経つにつれ、徐々に引き込まれていくことになる。

出席者は20人を超えていただろうか。大手から中小規模の出版社がいたようだったが、私の隣にいた出版社の方は資料に目を通しながら、話を聞いて、なにやらメモをとっている。著者への質問タイムでは、質問されない著者の方は肩を落としているのが分かる。シビアな時間が流れていった。

懇親会は、同じカラオケボックスで部屋を変えて行われた。主催者はこの店がよほど好きなのだろう。私の隣には、あの石原裕次郎のモノマネをしている「ゆうたろう」さんが座った。氏も出版を希望していた。

聞けば3人の男の子をもつ方で、その子育てや教育について世にメッセージを出していきたいという。昭和の良き時代に習い、妻と子を愛し、家庭を大事にするパパの姿を取り戻したい、いじめ問題は親の愛情で守る。テレビ画面に映る氏からは想像できない姿があった。小樽から神戸に移動し、今日のために上京、明日は山形で子どもたちのボランティアをするという。こんな熱い人がまだいるんだ、と聞き入っていた。

振り返ると右隣には、マレーシアに移住して12社のIT会社を経営する方がいた。出版したいという思いが強くなったと語る。日本の労働者6500万人は、10年後に3000万人になるという。それは少子化と人手のいらないIT会社が今後もっと増えるからと話す。ボタン1つで世界の不動産を売却する時代。マレーシアは税制も違い、起業しやすい。日本人は破産する経済のなかで、海外に行かなくてはいけなくなると訴えている。

「超アナログ人間」と「スーパーIT人間」と私はなぜか、意気投合していく。そこに2点の著書を上梓したという女性が現れる。その女性は「出版社の編集者は原稿を受け取るだけで、アドバイスもくれないんです。本は簡単にできるけど売れないですね」という。

この著者は出版事業を全く知らない。編集する者の価値も見い出せないでいる。気にしているのはアマゾンのランキングだけ。こうした方々にも出版界の奥行きを知ってもらいたいと思った。
隣では、ゆうたろうさんが眉を上げながら「ブランデーグラス」を唄ってくれていた。

 

社長 丸島基和

(2012/8/3)

バックナンバーへ

購読お申込み
「新文化」案内
会社概要
アクセス・地図
出版物
お問い合せ
メール送信
リンク

新文化通信社