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第69回
想いを込めてPOPを
 コテンパンだ。何度も読んで、ゴワゴワになった文庫を抱えて蹲っているうちに、この連載の締切りが静かに過ぎ去っていった。
 
 ベッドのシーツは私の涙を吸って土になり、その上で長いこと死んだように動かない体には、たぶん苔が生え始めている。POPを書こうと思って、ちょっとした事実確認のために本を開いたのではなかったか。結果この体たらく。POPは書けていない、締切りは過ぎる、洗濯物は溜まったままの休日。遠田潤子さんの小説『雪の鉄樹』(光文社文庫)による、甚大な被害である。
 
 庭師の三代目は、血も繋がらない少年を、自身が二十歳の頃から十三年間も面倒を見ている。少年に両親はおらず、唯一の肉親である祖母は、三代目に感謝するどころか、彼を奴隷のように扱う。懐いていたはずの少年も、ある時から三代目を拒絶し、凶器のようなことばを投げつける。なぜされるがまま。一体過去にどれほどのことがあったのか−。
 
 POPで「どうかこの本を読んでください」と強く勧める行為は、「限りあるあなたの人生の時間を、この本に分けてください」とお願いすることだ。その上、面白さの度が超えている小説は、読者をコテンパンにして、庭木のように動けなくさせる。
 
 しかし、その激しい消耗をもってしても、私はこの本が愛しい。何度自問しても、答えは変わらない。
 
 想いを込めてPOPを書こう。重すぎる責任に震える手で、堂々と。
 
(三省堂書店/新井見枝香)
(2017年2月13日更新/ 本紙「新文化」2017年2月9日号掲載)
               
 
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