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第71回
わかるよ! “お幸どん”
 かつてこの日本には、書店の店頭に本を積めば勝手に売れていく時代があったそうな。その夢のような過去を懐かしんでいた上司は、まだ存命だ。定年にもなっていない。前世の記憶でもないそうだ。うーん、信じられない。
 
 積むだけでいいなら、商品さえ切らさなければいい。売れ残る心配がないなら、出版社はバンバカ刷ってくれるだろう。売上げ絶好調なら、店長が人件費に頭を悩ませることもない。
 
 それはとても素敵なことだが、燗c郁さんの時代小説『あきない世傳 金と銀』(角川春樹事務所)が面白すぎて言葉尻が訛ってしまうほどのめり込む私には、ちょっと物足らないのでおます。
 
 ものが売れないのは平成の今だけじゃない。物語の享保期も同じで、奉公先の呉服商は、遊郭通いに夢中のダメ長男が店主となったせいもあって、大変苦しい状況だった。女子に学は要らんと言われた時代。それも女衆である主人公の幸は、ただひたすら鍋の底を磨くだけで、美しい羽衣に触れることも許されない。
 
 しかし幸には、商いの才能があった。工夫をしてものを売る能力に長けていたこともあるが、何よりそういうことが楽しくて仕方なかったのだ。わかる、わかるよ、お幸どん!
 
 売れない時代に売れたら、喜びもひとしお。工夫の成果が見えるのも、売れない時代ならでは。
 
 さあさ、1冊でも売れるように、POPでも書きまひょか!
 
(三省堂書店/新井見枝香)
(2017年3月13日更新/ 本紙「新文化」2017年3月9日号掲載)
               
 
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