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第5回 主婦の友社
重版率100%の「ヒーロー文庫」
 ネット小説のプラットフォーム「小説家になろう」の人気作品を、現在主婦の友社が書籍化している。2012年9月に創刊した「ヒーロー文庫」は、重版率100%を誇る。
 
 初版は最低3万部、直近では6万部を発行したタイトルもあるが、刊行した全点を増刷。読者層は20〜30代男性が中心で、発売後1週間の消化率は「とらのあな」や「アニメイト」などのオタク専門店では9割以上、一般書店でも7割以上を達成する。書店からの注文が引きも切らない。赤雪トナ『竜殺しの過ごす日々』は早くもシリーズ6巻まで刊行、累計発行部数は30万超だ。
 
 しかし、刊行点数は月に1、2冊と少ない。これは、現場の編集者が高原秀樹氏だけだからである。オタク専門店のスタッフが「えっ!本当ですか?」と思わず言葉を発するほどの人気作家に加え、四季童子氏をはじめとする一線級のイラストレーターを高原氏が口説き落とした。以前、同社がケータイ小説を単行本化していたときも、「高原がつくる本は必ず重版がかかる」と言われていた実績の持ち主。同氏の丁寧な本づくりにより「引き」の強さを実現している。
 
 高原氏の上司にあたる第3編集部部長・前田起也氏は「社内のほかの人間にも任せてみようとしましたが、高原と同レベルの編集はできない。だから無闇に点数やスタッフを増やそうとは思いません。『面』ではなく『点』で勝負する、打率の高いブランドにしたい」と語る。ライトノベルの新興レーベルは通常、創刊時から毎月5、6点刊行で展開し、書店の平台や棚に押し込み、認知度向上を目指すことが多い。同社は逆張りだ。しかしスーパー編集者がひとりでやっているからこそカラーは鮮明になり、「ヒーロー文庫にはハズレがない」と言われるクオリティの高さを実現、返品率が極端に低いレーベルができあがる。
 
 また、同社はかつて、電撃文庫の立ちあげ期にメディアワークス(現・アスキーメディアワークス)と提携しており、そのとき培った営業ノウハウを投入したことも大きいという。たとえば、人気の本は書店が発注しても満数入荷されないことはざらだが、同レーベルでは極力対応しているほか、特約店制度を導入し、指定配本に応えている。角川グループの販売施策「電撃組」を中小書店にもやさしいかたちでアレンジしたものと言える。
 
 プラットフォームが本を作るのではない。競合レーベルがマネできないのは編集者の持つ属人的なスキルとセンスであり、クリエイターの調達から営業・販売までが連動した戦略の一貫性である。ネット小説の書籍化といえど、それは変わらない。
 
 「弊社は他社よりリソースがない。そこで知恵をひねった結果、支持してもらえていると思っています。今後はメディアミックスもしかけていきたいが、それも、出版社に多額のキャッシュアウトが必要な従来型ではないやり方を模索していきたい」
 
(飯田一史・ライター)
(2013年6月14日更新  / 本紙「新文化」2013年6月13日号掲載)
飯田一史プロフィール
1982年生まれ。ライター、編集者。コンテンツビジネスに関するジャーナリスティックな活動から創作理論の講義まで、文芸とサブカルチャーを中心に活動を展開している。著書に『ベストセラー・ライトノベルのしくみ』(青土社)、共著に『21世紀探偵小説』(南雲堂)などがある。
               
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