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第6回 PHP研究所
「ボカロ小説」を開花させた編集者
 初音ミクをはじめとする「ボーカロイド」を使った楽曲が、ニコニコ動画などで人気を博している。100万回以上再生された有名曲を原作に、その作曲者や作詞家などが小説化した「ボカロ小説」というジャンルがある。
 
 
 さきがけとなった、悪ノP氏(mothy)の「悪ノ娘」シリーズは小説4作、ガイドブック2冊で累計80万部超。版元であるPHP研究所の伊丹祐喜氏は、同社のコミック出版部で「萌え系擬人化本」をヒットさせた編集者だ。「擬人化ブームも落ち着いてきたときに、編プロのスタジオハードデラックスさんから『ボカロが人気だから、これを元にライトノベルをつくりたい』と持ちかけられたんです」。
伊丹祐喜氏
 
 「悪ノ娘」という曲は中世風ファンタジー世界を舞台に、ボーカロイドの鏡音リン・レンをモデルにしたキャラクターを主人公にした“泣ける”悲劇。自身も聴いてみて、「いける」と思った。いわゆるオタク専門店の売り場スタッフにはボカロ好きが多数いたこともあり、創刊時から引きは強かった。
 
 “レッドオーシャン”であるライトノベルの文庫本市場を避け、四六判で刊行。悪ノP氏本人が執筆し、製本に凝り、イラストを大きく、たくさん見せ、小冊子を付けるなどしたことが好まれた。「こだわりが強くて、作品を周囲に『広めたい』と思っている熱いファンが多いですね」。中心読者は、もともと楽曲を好んで聴いていた10〜20代前半の女性。都市部や関東近郊でとくに人気が高いが、どの地方にも熱心なファンがいる。「朝の読書」用に買う層も少なからずいるようだ。
 
 「いまの若い女の子が熱狂できる音楽や物語って、少なかったんじゃないでしょうか」。ゴールデンタイムのTV番組のほとんどは大人向け、深夜アニメは「オタク向け」と言っても男性を向いたものが多い。そこにきて、彼女たちが求めるものがネット上で勃興してきた。「ボカロ小説は『女の子が支持している』と言っても、ボーイズラブ好きともまた違うみたいですね」と伊丹氏は語る。
 
 一般に、女性向けライトノベルは男性向けより市場が小さく、初版1万部以下の文庫レーベルもある。だが同社のボカロ小説は平均3〜5万部、『こちら、幸福安心委員会です。』が6万5000部、『桜ノ雨』が7万部とヒットが続く。彼女たちに購買力がなかったのでなく、欲しいと思う作品がなかったのだ。
 
 PHP研究所では今年春から販売体制を強化、書店の棚づくりや初音ミクのパネル頒布などに力を入れる。「自社でのコミック化もいくつか進めていますし、有名楽曲ありきではない、版元発の作品づくりも増やしていきたい」。他社の参入も相次いでおり、まだまだボカロ小説の盛り上がりは過熱していきそうだ。
 
(飯田一史・ライター)
(2013年7月17日更新  / 本紙「新文化」2013年7月11日号掲載)
飯田一史プロフィール
1982年生まれ。ライター、編集者。コンテンツビジネスに関するジャーナリスティックな活動から創作理論の講義まで、文芸とサブカルチャーを中心に活動を展開している。著書に『ベストセラー・ライトノベルのしくみ』(青土社)、共著に『21世紀探偵小説』(南雲堂)などがある。
               
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