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第7回 エンターブレイン
アクセス数より「勘と口コミ」
 エンターブレインの文芸局ホビー書籍部は、ツイッター連載小説『ニンジャスレイヤー』や2ちゃんねるに掲載されアニメ化もした『まおゆう魔王勇者』、さらに「小説家になろう」発の『ログ・ホライズン』『オーバーロード』といった人気ネット小説の書籍化を手がけている。
 
 
 いずれもシリーズ累計20〜65万部と好調だが、「お客さんはバラバラ。『オーバーロード』なら中心読者の年齢層は30代から40代で、感想をネットに書き込まない方が多いようです。『ニンジャスレイヤー』なら20代から30代のツイッターでよくツイートしている人たち、『まおゆう魔王勇者』はアニメ化以降、10代の読者も増えました」と編集長の久保雄一郎氏は語る。ファン層が異なるため、装丁から紙、フォント選びまで、1作品ごとにこだわる。
久保雄一郎氏
 
 「我われの編集部は他社とは違って『レーベル』として展開していません。統一感を出すより、個別の作品のファンの方たちが『持っておきたい』と感じてもらえるものを目指しています」
 
 ネットでなら無料で読める作品に対して読者が「お金を払ってでも欲しい」と思う本をつくるために、編集者は作品を読み込み、ファン同士のコミュニケーションを吟味した上で「このやり方はアリかナシか」、作品ありきでジャッジする。「それはマンガやドラマCD、アニメにするときも同じ」だという。読者が納得しないだろうと感じた展開にはNOを出す。判断基準は「ファンは喜ぶか? 驚くか?」。この2つを守るかぎり、編集部と著者で齟齬は起きないようだ。
 
 販売戦略においても姿勢は一貫している。営業担当者から、コミックZIN、とらのあなといった専門店やネット書店にいる、もともと作品が好きだったスタッフにまずアプローチする。そのうえで、ファンにアピールできる店舗特典を付けるなどして、売り場の温度を上げる。作品を知らない書店スタッフでは、その特典の価値や効果などが判断できないからだ。
 
 「まずはコア層から。そこでいい評判が得られれば、まわりにいる人も気になり始めて、自然と部数も伸びていくんです」
 
 編集部では、著者のネットでの活動には口を出さない。書籍化しても、ネット上にある作品を削除してもらうこともしない。「ネットにはネットの、紙には紙の良さがある、別のものですから。著者がネットに書いた作品が『原作』で、それを加筆修正いただいて商品化した『ディレクターズカット』のようなものが書籍版だと捉えています」。
 
 紙の人間の発想では出てこなかった企画のおもしろさを活かしつつ、いかに「本」としての付加価値をつけるか。
 
 
 「そもそも声をかけるのは『これは』とピンと来た場合だけです。アクセス数の多寡よりも、紙の編集者としての長年の勘や、周囲の口コミを大事にしています」  ネットと紙の違いを理解し、互いの良さを最大化する方法を一作ごとに模索する。これからの本づくりのベースとなりそうな考えである。
 
(飯田一史・ライター)
(2013年8月9日更新/ 本紙「新文化」2013年8月8日号掲載)
飯田一史プロフィール
1982年生まれ。ライター、編集者。コンテンツビジネスに関するジャーナリスティックな活動から創作理論の講義まで、文芸とサブカルチャーを中心に活動を展開している。著書に『ベストセラー・ライトノベルのしくみ』(青土社)、共著に『21世紀探偵小説』(南雲堂)などがある。
               
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