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第18回 太田紫織氏
“逆張り”の執筆スタイル
 2012年に「E★エブリスタ電子書籍大賞」ミステリー部門(KADOKAWA 角川書店)優秀賞を受賞した太田紫織『櫻子さんの足下には死体が埋まっている』は、角川文庫で刊行されシリーズ累計40万部を発行している。
 
 イラスト付きの装丁だが読者の大半は40代女性、次いで20代男性。ライトノベルとは、さほど併読されていない。
 
 ネット小説ではファンタジーやホラー、恋愛ものが主流であり、書籍化されたものを見渡しても、ミステリ作品のヒットは珍しい。「エブリスタでは全く人気がなかった」と太田氏は語る。ネットで人気のものを紙で出すのがこのジャンルのセオリーだが、同作は違った。
 
 角川書店(当時)は「キャラクター文芸」の部署を2011年に発足。「大人向けだがキャラクターが立っているシリーズもの小説」を模索していたところ、エブリスタと組んで行った新人賞で『櫻子さん〜』と出会った。
 
 選考ではネット上の人気は度外視し、角川文庫のなかに入った時に長く支持されるかどうかを重視した。エブリスタの人気投稿者の多くは、スマホで閲覧するユーザーのことを考えて1ページあたりの文字数を400〜500字程度にし、少ない分量だが高頻度で更新するスタイルを取っている。
 
 太田氏は逆張りだ。海外ミステリの影響を受けた文体は他のスマホ小説より描写の密度が濃く、ひととおり書き上げてから一気に投稿する。
 
 また、読者の反応も基本的には見ず、作品にフィードバックさせることも多くはないという。ネット小説家というより従来の作家に近い作風と佇まいであり、それが角川文庫というアウトプット先とフィットしたのだろう。
 
 キャラクター文芸部門では、自社の他の小説新人賞と電子書籍大賞のいずれでも「本として魅力的になりうるものが見つかれば選んでいくというスタンス」だという。では、わざわざネット上のプラットフォーマーと組んで新人賞を行うメリットは何か? 
 
 太田氏は、同賞が初めて投稿した小説新人賞であり、他の新人賞からデビューすることは「無理だったと思います」と語っている。あるいは、既存の小説新人賞には投稿すらしなかった  とすれば才能を見つけるための入口は、多いに越したことはない。
 
 出版社がネット小説のプラットフォームを利用した新人賞を行う際には、ネット小説書籍化でこれまでよく選ばれてきたラノベやケータイ小説の文庫、四六判ソフトカバーという形態ではなく、角川文庫のようなオーセンティックなレーベルで刊行される(=その読者に読まれる)ことを前提に作品を選ぶ方法もある。ネット小説は書籍化にあたり、加筆修正されることが一般的である。ディスプレイ上と紙の本では、ちょうどいいと感じる文章の密度は違う。
 
 紙向きの密度とテイストで書いているがゆえにネットでは人気は出にくいが、しかし確かな実力をもった太田氏のような作家も、これからは発見されやすくなっていくのかもしれない。
 
(飯田一史・ライター)
(2014年8月15日更新/ 本紙「新文化」2014年8月7日号掲載)
飯田一史プロフィール
1982年生まれ。ライター、編集者。コンテンツビジネスに関するジャーナリスティックな活動から創作理論の講義まで、文芸とサブカルチャーを中心に活動を展開している。著書に『ベストセラー・ライトノベルのしくみ』(青土社)、共著に『21世紀探偵小説』(南雲堂)などがある。
               
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