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第4回 「踊れる名言集」

 不意に名言を吐いてしまう人がいます。凄いことを言っているとゆう自覚なしに吐き出されて、呆然と受け止めざるを得ない事態に陥ることがあります。

「いっぱい来たらいっぱい返す」

 これは当店ブックス・ルーエの店長による名言です。業務における座右の銘といった趣でもあります。書籍流通の元締めである取次店はときに、注文をしていない本を大量に送りつけてくることがあります。大規模な重版があがれば、沢山の本が出版元より取次店に搬入されます。それを効率よく市場(書店)に投入する役目を取次店は担っています。されども書店ごとにカラーがあり、守備範囲の違いがあり、志向があり、なにより在庫状況の違いがあります。そこまで配慮したうえでの適切な配本を望むことはできません。ですから充分に在庫している本や、自店の客層にそぐわない本が大量に入荷してしまうことが往々にしてあるわけです。そんなとき、店長の名言がキラリと輝くんです。「いっぱい来たらいっぱい返す」。書籍の再販・委託制度とゆう特殊な流通形態ならではの至言でしょうか。否。店長の竹を割るが如き性格が如実にあらわれているとみるべきでしょう。先日、雑談の折に放たれたもう1つの名言をひいてみましょう。

おれ捨てるの大好き

 際限なく増えてゆく映像ソフトをいかに管理しているかといった話題の中で放たれたものです。消費社会における『捨てる技術』(宝島社新書)の体現者といえるかもしれません。


 名もなき人達の名言を採集する永六輔さんの著作には確かな普遍性を感じます。
 『無名人名語録』『普通人名語録』『一般人名語録』。
 いずれもかつて講談社文庫より上梓されていたのですが、現在は絶版です。古本屋さんでみかけたら手にとってぱらぱらページを繰ってみてください。言い得て絶妙な言葉に必ず出会えます。多分に永さんが聞き上手であることが作用していることは間違いありません。

 ピリッとスパイシーな名言にしびれてしまうのが『ラ・ロシュフコー箴言集』(岩波文庫)です。封建時代のフランス貴族であるラ・ロシュフコー公爵の言いたい放題な名言集です。
 「われわれの美徳は、ほとんどの場合、偽装した悪徳に過ぎない
 そうかもしれませんが断言されると恐れ入ってしまいます。
 「われわれはふつう、自分を賛美してくれる人びとしか心から誉めない
 そんなことばかり言ってます。

 アンブローズ・ビアス『悪魔の辞典』(角川文庫)もその流れをくんでいますね。『筒井版 悪魔の辞典 完全補注』(講談社)は完全に筒井康隆箴言集になってます。翻訳ではなくリメイクですね。『噴版 悪魔の辞典』(平凡社ライブラリー)は爆笑必至です。安野光雅・なだいなだ・日高敏隆・別役実・横田順爾による競作です。それぞれの項目に対する四者四様のひねくれた解釈が愉快痛快です。

 名言との相性が抜群な出版社は岩波書店であると断言しましょう。この2冊は素晴らしいです。
 岩波文庫編集部『世界名言集』木田元『一日一文 英知のことば』
 岩波文庫の古典から選り抜いた名言を1340収録した超大作が『世界名言集』。1年365日、毎日1文、古今の名著から引いた章句が堪能できる粋な編集が施されている『一日一文 英知のことば』。どちらも異様に読み応えがあります。流石岩波書店!

 60年代後半から70年代にかけてのサブカルチャーシーンの宝、寺山修司の遺した名言集『ポケットに名言を』(角川文庫)。巧みなセレクトは今読んでも古びることはありません。そして現在のサブカルチャーシーンの宝、リリー・フランキーによる名言集『増量・誰も知らない名言集』(幻冬舎文庫)。比べるのはおかしいかもしれませんが、それぞれの時代を反映しているようで興味深いですね。
(リリーさん、ブレイクしすぎてサブカルチャーの枠で捉えていいものか疑問ですが、そのあたりについてはまたの機会に書いてみようかとおもってます)

(2006/8/18)

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