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第11回 「H川書房、T橋さん」

 出版社の書店営業担当にはなりたくないと常々おもいます。誰になってくれと頼まれたわけでなし、適性があるわけでもないのですが、接する営業さんを見ていて自分にはできない仕事をこの人はしているなと感じるのです。


 基本的に書店員と版元営業は対等なはずです。お互いが同じ書籍という商品をお客様にどのようにアピールし、いかにして購入していただけるプロセスを創りだしていくかを共に考えるビジネスパートナーであるべきです。頻繁に足を運んでいただける顔なじみの営業さんは同僚以上に同僚的だったりする場合があります。
 しかし、書店員は版元に注文をする側、版元はそれを受ける側であり、前者が強者、後者が弱者のような構図が浮かび上がりがちです。営業さんとしては常識なのかもしれませんが、ぼくのような若造に対しても礼儀を欠くことはなく、概ね低姿勢です。ですから、ぼくより上の立場のスタッフに対してはより慎重に無礼のないように気をつかっているように見受けられます。それでも時に雷を落とされている姿に遭遇することがあります。なぜか必ず繁忙時に登場してしまったり、注文を内心大胆に20でお願いしますと言ったところ、「もっといけますよ! ルーエさんならここは30じゃないですかぁ !?」と余計な元気さを発揮してしまったりすると大変なことになります。ぼく自身はその類の余計な元気さはある程度までは歓迎なのですが、みんながそうではないので難しいところです。そういった機微を読む術にうとい自分は落雷に遭遇する度、書店営業はぼくには無理だなとしみじみおもうのです。


 様々な書店員がいるように様々な営業さんがいます。S英社のY前さんは不思議な人です。かつてぼくが伊坂幸太郎の『終末のフール』に帯コメントを寄せさせていただく際にかなりお世話になりました。Y前さんはとんでもない本の営業をしかけてきます。

「花本さん、この本いいですよ、仕掛けがいのある本ですよ」
ニヤリと笑って差し出された本。
『人生相談は「不幸な人」にしよう 心理学に学ぶ意外な日常の法則』ソフトバンク新書
他社じゃん !! びっくりして、これS英社さんの本じゃないですよね、と一応問うとY前さんはこともなげに
「ええ、でもおもしろかったから」
 ソフトバンクさん、20冊注文しましたよ!


 なじみの営業さんが異動してしまうのはさみしいものです。それが一味違う仕事のできる人であった場合なおさらです。H川書房のT橋さんはオリラジ似のナイスガイです。カズオ・イシグロとアゴタ・クリストフを啓蒙されました。村上春樹がフランツ・カフカ賞を受賞したころでした。常設の春樹コーナーをレベルアップさせたいと考えておりました。そんな折にT橋さんが提案したのが村上春樹、レイモンド・チャンドラー、北野優作のジョイントフェアでした。作風が継承されてゆく過程を提示して、春樹から読書の楽しみを知る若い読者に幅を広げてもらいたいとおもって組んだフェアでした。その際T橋さんに薦められて読んだ北野優作『どーなつ』は、独特な泣きの名品で自分としても大いに気に入ったので、その後も手を変え売り続けました。そんな『どーなつ』。当店が日本一売っているそうです。
 それを伝えてくれたT橋さん、異動しても本の話しに来てください!

(2006/11/6)

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