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第13回 「風邪に唄えば」

 私事で恐縮ですが、大抵の随筆は私事でなりたっているはずなので、先日風邪をひいてしまいました、と書き出してもなんらの問題はないのですが、どうにも読者に無用の同情を催させる効果が図らずもあらわれてしまうかとおもうと、やはり至極恐縮ですが、先日風邪をひいてしまったんですよ。

 以上3行で1センテンス。文章作法としてはあまり褒められるものではないでしょう。文章を書こうとすると、近々に読んだ文章の影響が色濃く反映されてしまうものです。(ぼくだけでしょうか?) で、何を読んだかといえば、
道化師の恋」金井美恵子 河出文庫
なのです。

 西荻窪の古本屋さんで購入しました。特に入手が難しい本ではないし、自店在庫もしている商品なので古本屋さんで求める意味はそれほどないのですが、棚に発見した際背表紙が「あなたをお待ちしておりました」然としていたので購入にいたりました。背表紙といえば河出文庫は去年装丁をリニューアルされました。購入したものは旧装丁です。現装丁は親しみを感じますが、旧装丁は理知的なクールさを感じさせます。そこに若干惹かれたのかもしれません。


 ちなみに思潮社現代詩文庫の「金井美恵子詩集」も発見し同時に購入しまして、おそらく金井ファンの同僚にプレゼントしました。ぼくは本を贈るという行為に悦楽を感じます。相手のツボを的確に押すことができるか。審美眼と相手への洞察に技量が問われるうえに、ギャンブル性があります。

 想い人に書籍を贈らせるキャンペーン、サン・ジョルディの日は、バレンタインデーに比べると遥かに認知度が低いようです。悔しいことです。チョコレートよりも書籍は敷居が高い。「あなた私にこんな本を読めと…」と内心の呟きがきこえてきたらしんどい。ハイリスクです。しかしリターンの高さは相当なものですよ。自分のお気に入りの本に相手も共感してくれた場合、2人の距離はかなり圧縮されるはずです。(モテるための指南書が多く出版されていて、とても売れていますが、その類の本を読んだ影響でこんな話になったわけではありません。あしからず)


 話をグイッと戻しまして金井美恵子の「道化師の恋」なんですが、これが実に痛快でした。金井作品は以前から薦められていて読みたいと長らく思っていながら叶わず、ようやっと読めました。とにかく異様に1センテンスが長くてだらだら読点でつないでいく文体が新鮮でした。そしてバカを徹底的にバカにした視点の鋭さにおもわずすくんでしまいます。

(2006/11/28)

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