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コミックのわいせつ性が初めて争われている松文館事件の証拠調べが7月30日の第9回公判で終了した。
第9回公判では、真庭和喜警部補が出廷し、当該コミックスの『蜜室』をわいせつ判定した経過を述べた。しかし、弁護人とのやり取りのなかでわかったのは、あまりにもずさんで単純なわいせつ認定だ。要は、性器が見えているかいないか、ただその一点でしかなかった。
真庭警部補によると、監理官や風紀係長など十数人で4冊のコミックを回覧し、うち『蜜室』1冊のみをわいせつと判定するのに要した時間が1時間以上半日以下で、漫画のストーリーも検討せず、議論もほとんどおこらずに、「わいせつ」と認定したという。
コミックは初の摘発といって慎重に行動したと言っていたが、たった半日以下で結論が出てしまうのは果たして慎重なのだろうか? 検察官や刑法学者などの有識者に話を聞いたうえでの判断でもあると付け加えているが、その意見の具体的内容を真庭警部補は上司から伝聞されたのみで覚えておらず、書面にすら残っていない状況を考えると、とても慎重には見えない。
わいせつの判断基準について話が進むと、何と「警察内には基準はない」ときっぱり言う。さらに、現場でわいせつ判断する人間が、チャタレイ、悪徳の栄えの事件に関するわいせつの構成要件について、「知らない」とも答えた。ちなみに、『蜜室』をわいせつ認定したときの理由は「陰部の露出、男女の性交が露骨、詳細、具体的に描写されている」から、としている。
また、新たなことが公にされた。捜査の端緒となったのは、「平沢勝栄衆院議員から回送されてきた一般人からの取締りを要望する投書」によるものということが、初めて明らかになった。平沢議員といえば、警視庁少年保安課長などを務めた人物だ。
真庭警部補の話では、保安課風紀係では一度も“検閲”のために、コミック誌を購入したことがなかったというし、松文館以外のコミックではケシすら入っていないものも書店に出回っている中、なぜ『蜜室』が摘発対象となったかという理由が多少、明らかになったといえる証言だった。
これまた真庭警部補が明らかにしてくれたことだが、投書のほかにも取締りを要望する匿名のタレコミが代々木警察署にあったとも言っていた。ただ『蜜室』の検分に到ったのはあくまで「投書が契機」だったという。
第9回公判の前半はこうして、真庭警部補の協力(?)によって、多くのことが明らかになった。第2回〜4回公判では、疑念を抱かせる、取次会社や出版社団体、被告人の貴志元則社長の検察・警察調書の内容について、争われた。『蜜室』をわいせつであると断定している調書の内容に対し、出廷した証人の口からは「そこまで、言っていない。わからないと答えている」など、対立する場面が数多く見られた。
第5回公判では社会学者の宮台真司氏、6回には刑法学者・園田寿教授、7回には精神科医の斉藤環氏、8回には奥平康弘東大名誉教授と筑摩書房の藤本由香里氏がそれぞれ、弁護側の意見証人として出廷した。
▽宮台氏はゾーニングによるわいせつ物の棲み分けを、▽大阪府の青少年健全育成審議会の第2部会会長を務める園田教授は審議会に持ち込まれるコミックと大差なく、175条には当たらないことを、▽斉藤氏はわいせつコミックはオタクと呼ばれる人が読み、そこで自己完結し実際の女性を暴行などすることがないことを、▽奥平氏は175条が違憲であることを、▽藤本氏は『蜜室』のマンガとしての作品性が他のアダルトマンガよりも高いことを、訴えた。
9月26日には検察の論告・求刑が、11月4日には弁護側の最終弁論が行われる。来年頭にはついに一審の判決が下る。コミック初のわいせつ裁判の行方は…
諸山 誠
(2003/8/18)
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