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第4回 棚割りはドラマを生み出す
     〜大垣書店四条店&烏丸三条店の比類ない棚づくり
 書店道場はこのたび第3クールを終了、現在9月からの第4クールの参加者を募集中である。詳細はこちら(PDFファイルをダウンロード)。申込み、問合せはメール=shotendojo.7102@gmail.comまで。受講された方々のお店を拝見し、刺激を受けてお伝えする内容も変わっていく。今回はそんな書店の報告である。
 
大垣書店四条店
 
 「すぐ判断する!」「そしてすぐやる!」「ええ声」「もうあがらない」「むしろ聞き方」「アンガーマネジメント」「悪用禁止の対人心理術」「やりだす・やりぬく」「社会人になったら」「ダンドリ」「課長になる」「リーダーになる」「体が資本」「心も資本」「上手に眠り」「よく食べる」「定年したら」……。実はこれ、大垣書店四条店の棚割り表示にほかならない。ほとんど見たことも聞いたこともない命名をしたのは、ビジネス書を担当する金田匡平氏。
 四条店の店長、辻中瑞保氏が書店道場の第1クールにご参加いただいたことから、京都を訪れた際お寄りした。そこで一撃必殺のパンチ力がある棚割り表示に出会ったのである。
 
 「学ぶ」を起点とした棚づくりにも目が吸い寄せられた。「コンビニに学ぶ」「スタバに学ぶ」「無印に学ぶ」などだが、近くの「京都企業」「稲盛和夫」「孫正義」「松下幸之助」といった棚も、そのじつ「学ぶ」延長にあると気づかされた。
 同じく金田氏が担当する理科学書には、「星を見る人」「自然という書物は数学の言葉で書かれている」「計算の科学」などの棚割り表示がある。「自然という書物は数学の言葉で書かれている」はまさに絶品。
 
 ご本人にたずねると「いや、面白くしたいだけなんです」と謙虚に話す。しかし、なぜ私はこの表示を「いいね!」と感じるのだろう?
 例えば、ビジネスマンが夜に残業して帰る途中、「すぐ判断する!」「そしてすぐやる!」「やりだす・やりぬく」などの表示を見て、「そうか、もしかすると自分は、何事につけ動き出すまで時間がかかっているのかもしれない」と思い至る。そして棚から自分に合う一冊を探し出す。そのお客さまは、心の奥のなにかに気づき、いわば自己発見したことで、この店のファンとなるにちがいない。
 金田氏が、一つひとつを入念かつ周到に思いを込めてつくりあげた棚には、人々の共感を呼び、自己発見を促すだけの力がある。
 
 ふり返ってみると私たちは、いつしか画一的で、お客さまの心を揺らすこともない棚をつくってきた。金田氏がいう「面白くしたい」という熱意も、どこかで置き去りにしたのかもしれない。そんなリアル店舗に満足するお客さまはいないだろう。
 辻中店長は金田氏の売場づくりを「売りたい書籍の展開をきちんと行っている」と高く評価する。さらに店全体の店づくりについても「これまで学んだことを思い出しながら店舗の改善点を日々考えています」とコメントしている。
 
大垣書店烏丸三条店
 
 一駅違いの烏丸三条店にもお邪魔した。
 元来、京都本や芸術書を含む単行本ジャンルについて評価が高いお店であったが、今回改めて目を見張ったのは理科学・人文やビジネス法経などの専門書売場だった。
 理科学書と人文書は、商品の選択、棚組み、棚割り表示それぞれが鮮烈といってよい。例えば、「ケダモノと超ケダモノ」「書き換えられるヒト」「量子の不思議」「数学に溺れて」「緑世界へ」「時間と空間」「住む?食べる?」「社会問題の社会学」「働いた先には?」などは誠にチャレンジングで、思わずうなってしまった。独創的な表示には独創的な品揃えがなくてはならない。そのことをこれほど強く訴えてくる棚は少ない。 オーソドックスなテーマにもひとひねり加えている。「第一次大戦以後」「アメリカの困難」「西洋世界の始まり」「英と仏と独と」「東方的」「オピニオン」「グローバリズムの諸問題」「公共性の困難」という表現は、ありそうでも実際はあまりない。品揃えも、読んで欲しい本はすべて取り揃えるのだという決意に満ちている。
 
 さらに、ビジネス・法経の棚には立ち止まらせる魅力がある。「働く」「アイディア」「事業改善」といった特定のテーマ棚は、異なる棚の商品や押しの銘柄をブレンドさせることで問題提起棚≠ノなっている。
 最近、ビジネス・法経担当を引き継いだ三木健太郎氏は、現在の棚構成を「特長を生かしながら発展的に再編成しつつある」という。店長の川合薫氏は、全般的な店づくりでも担当者とともに改革を進めていきたいと語る。「自分の考えていることや思いを、一人ひとりのクリエィティブな面を引き出しながら、繰り返し伝えていき店舗を改善していきます」
 
 本部の方針に沿いながら、現場の創造性を生かす大垣書店の類のない棚づくりは、フレッシュな店舗イメージを発信している。標準化されたオペレーションが進み過ぎ、店舗の存在感が薄くなりがちな現在、両店の店づくりと売場は、現場力と地域・顧客密着力を感じさせる。なにより面白い。
 もちろん、すべては売上を伸ばしてこそ生きてくる。このために最も大切なのは、2店のように日々、お客さまの気持ちを第一に考え、それを貫くこと――このこと以外にはない。
 その意味で特筆すべきは、四条店、烏丸三条店ともに雑誌売場が整然と美しかったこと。いつでもどこでもお客さまの味方です、という顧客志向の思想がなければ、こういう陳列が実現できるはずがない。
 書店道場では棚割りマネジメントというテーマを設定している。大垣書店がお客さまの潜在ニースを引き出す棚づくりを実践していることで、私たちの棚割りマネジメントは新たなスタート地点に立たされた。棚がドラマを生み出す2店に接し、大いに勉強になったことを白状したい。
 

(書店・出版コンサルタント 青田恵一)

(2017年8月18日更新)
青田恵一プロフィール
福島県出身。書店勤務などを経て、現在、株式会社青田コーポレーション代表取締役。書店 ・出版コンサルタント。中小企業診断士。
主著『よみがえれ書店』 『書店ルネッサンス』『たたかう書店』 『棚は生きている』『たたかうお店のバイブル13冊』『理想の書店』(すべて青田コーポレーション出版部発行:八潮 出版社発売)
               
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