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第7回 文化と暮らし、学びを守る ――朗月堂書店(1)
 平日の午後6時30分ごろ、東京・山手線のさる駅近くにある100坪の書店に入りました。店内のお客さまを数えたところ雑誌売場に30人、それ以外の本の売場に20人。この店の売上はどのくらいと考えられますか?
(答えは第5、第6クールで発表します)
 
 これは第5、第6クール向けチラシに掲載した問題である。よろしければ考えてみていただきたい。チラシはこちら(PDFファイルをダウンロード)
 すでにご案内のように、第5クールは来年2月〜3月、第6クールは5月〜6月に実施する。会場は両クールとも、初日と2日目の千代田プラットフォーム、3日目は第5クールが講談社様、第6クールが書協(日本書籍出版協会)様をお借りすることになっている。チェーン店のご要望により、書店道場の年間契約制度もスタートする。詳しくはこちらの企画書(ファイルをダウンロード)をご参照ください。
 
 
 さて、今回は山梨県甲府市にある朗月堂書店本店をレポートする。
 書店道場の第4クールに、老舗、朗月堂書店本店の店長、中山大樹氏にご参加いただいたこともあり、所要の途中、同店を覗いてみた。
 朗月堂書店の創業は1902年1月。店内を一巡し、今日まで116年間、お客さま本位の店づくりを営々と続けてきたこと、そして蓄積の重みが感じ取れた。甲府の地において、人間の文化と暮らし、学びを守るのだという決意が店内の隅々まで満ち溢れている。300坪ある店舗は、学参とコミックのA館(75坪)、雑誌と実用系のB館(同)、児童書、文芸、新書、文庫、専門書のC館(150坪)と3つの館に分かれ並んでいる。私の独断と偏見でこの3館を、それぞれ「学び」「暮らし」「文化」というの3つの視点から見ていきたい。まずはC館から。
 
1. 書籍文化の本拠地ゾーン――C館
 
 「文化の館」――C館の売場は最も大きい。入口を入ると児童書ゾーン「KIDS PARK」がある。中心にある知育玩具などの棚が、読み聞かせやトークショーといったイベント開催時に、その舞台に衣替えできるつくりである。児童書と絵本のあるKIDS PARKの児童書棚はまず、学年別読み物からスタートする。このなかに、戦争やスポーツ、伝記などを収めたノンフィクション棚を発見した。分類がきめ細かいのが印象的だ。つぎは「講談社青い鳥文庫」「角川つばさ文庫」「集英社みらい文庫」の棚が各1本ずつ、「その他」1本と計4本が設置されている。このあとに、「サバイバルシリーズ」と「ことばの図鑑」各1本、「学習図鑑」3本と独自の棚づくりが続く。
 
 絵本は、著者別50音順とテーマ別を組み合わせたかたちで陳列。たとえば、宮沢賢治は妖怪やお化けの絵本と隣り合う。視線が止まったのは、絵本棚の途中にある「平和」と題するユニークな棚1段だった。“平和”を起点としたテーマ棚で、「平和を想う」→「震災」→「命」→「自分」→「躾」→「行事」と流れる。谷川俊太郎文・江頭路子絵『せんそうしない』(講談社)、安田菜津紀文・写真『それでも、海へ 陸前高田に生きる』(ポプラ社)、ボブ・ディラン著『はじめての日』(岩崎書店)などが並ぶ。
 
 KIDS PARK以外のC館は、壁棚に専門書を主体にした単行本ジャンル、そして中央棚に「文庫」「新書」などの軽いジャンルというように、重厚ジャンルがライトなジャンルを囲んでいる。
 
 B館でも、壁棚の「婦人実用書」をはじめ、「実用書」「地図・旅行ガイド」「芸術書」などの実用系ジャンルが中央棚の「雑誌」を囲む。同店は囲み型ノウハウ≠軸に売場をつくっていると感じとれる。
 
 C館において壁側で囲むジャンルは、「文芸書」「郷土本」「人文系」「教育書」「工学系」など(例外的に、手前の文芸書の一部、最奥の理学書とビジネス書は中央棚で展開する)。これらの単行本ジャンルの品揃えは、歴史を感じさせて奥深い。1冊1冊を丁寧に並べ、盤石に単品管理せんとする姿勢は、固定ファンを増やしていると思われる。
 
 
 子細に見ると、文庫の並べ方が興味深い。ベストセラー文庫の独特な陳列手法は、他店にない趣がある。独立したキャンペーン台で、通常は縦向きに平積みされる文庫が、なんと横向きになっているのだ。正面からは、横置きに何冊も積み重なった文庫の背表紙が目立って見えることになる。
興味深い文庫の平積み陳列手法
 
 この横置き陳列に面見せ陳列が組み合わされ、数点の文庫が交互に並ぶと、立体的なバラエティ陳列と映る。斬新な印象を発信しインパクトも強い。このようなところにもチャレンジ精神ガ見てとれる。
 
 さらに文庫売場の「メディア化コーナー」では、原作の文庫に、単行本や雑誌特集号、ムックを含めたジャンルミックスが図られていた。須藤令子社長によると、このジャンルミックスは「企画を立てるときの基本方針」という。
 
2. 山梨とともに生きる決意の棚――郷土の本棚
 
 C館最大の見どころは、文芸書と人文書をつなぐ郷土の本棚「山梨県の本」2本といってよい。どちらかといえば1本目は「人物」に、2本目は「自然と歴史」にフォーカスしている。1本目の上段には中世歴史家の網野善彦氏、ジャーナリストで政治家だった石橋湛山第55代内閣総理大臣、歴史・時代小説とノンフィクションの作家・江宮隆之氏、哲学者で小説家の適菜収(てきなおさむ)氏、そして『天空の犬』(徳間文庫)、『約束の地』(光文社文庫)、『ミッドナイト・ラン!』(講談社文庫)などの作品で知られる小説家・樋口明雄氏、カメラマンでジャーナリストの山本美香氏、そしてノーベル生理学・医学賞受賞を受賞した化学者の大村智氏といった山梨県がらみの著者を総結集する。この棚には「山梨文学賞受賞作品コーナー」も! ここまでで4段。
 
 1本目の下段には、武田信玄を核にした武田氏興亡を扱った歴史書が3段。秋山敬著『甲斐武田氏と国人』(高志書院)、黒田日出男著『「甲陽軍鑑」の史料論』(校倉書房)、丸島和洋著『戦国大名武田氏の権力構造』(思文閣出版)、柴辻俊六・平山優・黒田基樹・丸島和洋編『武田氏家臣団人名辞典』(東京堂出版)というような分厚い本格的な専門書も少なくない。
 
 2本目は山梨県の「山と道」「富士山」といった自然や郷土の歴史の書、「山日カラーブックス」「山日ライブラリー」など山梨日日新聞社の発行本、元タウン誌編集者の五緒川津平太(ごっちょがわ つっぺえた)氏や、ヒマラヤ聖者でヨガマスターの相川圭子氏の著作も多数揃う。
 
 郷土本2本のなかで際立つのは、やはり「朗月堂選書」である。朗月堂書店が満を持して放つ出版シリーズだ。POPには「朗月堂選書 創刊 あなたの想いを書店の棚に」と記されており、情感が伝わってくる。その下に弥津勝次郎著『侠神 黒駒勝蔵』と和田元貴著『父母のためのサッカー入門』の2点が面見せされていた。
 
 出版事業への挑戦は並みの決意で取り組めるものではない。この新規事業が書店のブランドイメージを上げ、店の馴染み客を増やしていくことを期待したい。
〈次回につづく〉
 

(書店・出版コンサルタント 青田恵一)

(2017年11月24日更新)
青田恵一プロフィール
福島県出身。書店勤務などを経て、現在、株式会社青田コーポレーション代表取締役。書店 ・出版コンサルタント。中小企業診断士。
主著『よみがえれ書店』 『書店ルネッサンス』『たたかう書店』 『棚は生きている』『たたかうお店のバイブル13冊』『理想の書店』(すべて青田コーポレーション出版部発行:八潮 出版社発売)
               
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