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第8回 文化と暮らし、学びを守る ――朗月堂書店(2)
 現在、2018年2月6日からスタートする書店道場第5クールの申し込みを受け付けている。その3日目の会場は講談社をお借りする予定である。日程、場所など具体的なことは、アピールチラシをご覧になっていただきたい。詳細はこちら(PDFファイルをダウンロード)
 
 
 今回は山梨県甲府市で健闘する朗月堂書店のレポート完結編、そして第3・第4クール参加者の推薦コメントである。
 
3. 雑誌と実用系の暮らしゾーン――B館
 
 雑誌台はなんと41台。同規模店と比べるまでもなく、ここまで多い店はそうはない。文芸書や人文書に力点を置く店は、雑誌や実用書の水準が低くなりがちである。朗月堂書店は文化とともに暮らしも守るという決意が、暮らしの館であるB館――雑誌と実用系ジャンルの品揃えやプロモーションに漲っている。その証の一端が入口すぐで展開される女性雑誌の多面展示にほかならない。数点選択して多面積みに挑戦する姿勢には学ぶべきものがある。
雑誌の多面展示
 
 さらに目を見張らされるのは実用系のジャンルで、その充実度は一通りでない。入口方向から棚構成をざっくり紹介すると、左側が婦人実用書、奥側が実用書、右側が芸術書・旅行書と3区分される。なかでも婦人実用書と芸術書の流れと品揃えは絶妙だ。
 
 婦人実用書では料理本が最も動きが速いとのこと。その配列は前から基本の料理、おつまみ、お弁当・世界の料理、専門料理、お菓子・パン、ワイン。反対側の壁棚に配された芸術書は、写真集、西洋画、日本画、デザイン・パターン、水彩・デッサン、大人の塗り絵、書道・陶芸、童謡・洋楽、楽譜・スコア、楽器・奏法、クラシック・楽典、映画評論の順。横綱相撲ともいえる棚づくりである。加えていうなら料理書と芸術書は棚1本・1テーマを堅守しているのも好ましい。
 
 雑誌の構成が、実用系ジャンルの流れに即している点も見逃せない。旅行本と旅行ムックはもちろんだが、これ以外に料理本と料理雑誌、健康本と健康雑誌、スポーツ本とスポーツ雑誌などが関連づけられている。実用書を雑誌のなかに組み込む融合型は別にせよ、それぞれを区分したうえでここまでリンクさせる店は滅多にない。
 
 書店道場ではリンクの緊密化≠強調しているが、雑誌と実用書の一体化ならではのリンクぶりには驚くばかりである。
 
 この館のレジカウンター横には、山梨県内のまち歩きガイドブックが250コース分、特別ラックで販売されている(やまなしフットパスリンク公式ガイドブック『まちミューフットパスガイドブック』1冊250円)。ふと覗くと、そのなかの1冊『深沢七郎ハンドブック』がよく売れているようだ。地元作家による著書だけに注目度が高いのである。
 
4. 学参とコミックによる学びのゾーン――A館
 
 学びの館――A館は学参とコミック中心。コミックには娯楽以外に学びの要素もある。学びの観点から辞書や語学も組み込まれている。
 
 学参と辞書は定番をしっかり揃えており、構成も入口近くから小学、中学、高校という正統的な構え。コミックには男コミ、女コミ以外にラノベの文庫や単行本、攻略本もある。
 
 コミックでチャーミングな工夫に遭遇した。今月の「オススメ」として選ばれた『ちいさな猫を召喚できたなら(第1巻)』 (徳間書店 ゼノンコミックス)のPOPに、手のひらに小さい猫が愛くるしく描かれ、加えて「ある日、ゆびをならすと小さな猫が来てくれました」というキャッチが添えられていた。イラストとキャッチのマッチングが可愛らしい! このPOPは同店の月間アイディア賞に輝いたそうである。
 
 なお、朗月堂書店本店の3館のうち、A館とB館は店内の通路でつながっている。来年2月にB館とC館を連結し、店全体をひとつの館とし、お客さまの利便性を高める予定である。それに伴い一部改装を施す。店内がどう変わるか、いまから楽しみである。
 
5. 購入サポートのツール
 
 中山大樹店長は店づくりのベースとなる書店の役割についてこう語る。
「私自身が朗月堂の店づくりを考える際、必ず弊社の社訓である『朗月堂の誓い』に忠実であるかを念頭に置き取り組んでいます。
『仕事を通してお客様に奉仕し、情報と文化をお伝えします』
『誠実をつくし、親切で、今日も明るい一日をつくります』
『みんなの幸福をつくり、自らの信用と人格を高めます』
以上の三原則はスタッフ全員が朝礼などで暗唱しています。ご来店頂くお客様に快くご利用いただき、地域メディアの発信者となっていくことが書店としての役割ではないかと考えます」
 
 さらに社長の須藤令子氏も補足する。
「スタッフには、迷った時はまずお客様の立場に立って、自分がお客様だったらどのような状況を喜ばしいと感じるか、を判断基準にするよう伝えています。お店の都合よりお客様のご都合を優先させ、接客も商品陳列も、お客様目線に合わせる。これは店舗運営においては基本的なことだと思いますが、実は徹底するのは難しいものです。それに関しては、自分も含め常に失敗と反省の繰り返しです」
 
 朗月堂書店の立地は郊外型。とはいえ、ただの郊外店ではない。たとえば、同店における専門書ジャンルの構成比は21%を占める。一般的に、郊外型で専門ジャンルの合計は6〜7%だ。この数値をみても朗月堂書店の存在が奇跡に映る。この奇跡は、「地域メディアの発信者」として、「お客様目線」で創意工夫を重ねてきた、長い歴史を踏まえ実現されている。例をあげると、同店はお客さまの購入がスムーズに運べるよう、いくつもの読者サポートツールを用意している。試読用の椅子とショッピングかご、案内図が店内各所にある。閲覧用の新聞書評もある。椅子は18台、かごは50個、案内図は6箇所に置かれている。新聞書評は朝日新聞と山梨日日新聞の2紙5週間分。
 
すべては積み重ねである。一つひとつの創意工夫が一見小さいように思えても、日々その蓄積で、10年20年と経過したときに、そのパワーは大きなエネルギーとなって店に必ず還ってくる。創業から116年。文化と暮らし、学びを守る――この決意と情熱が店のなかに満ちている。
 

 
 以下は書店道場第3、第4クールにご参加いただいた方々の推薦コメントである(50音順)。
 
小泉翔平氏(小泉書店)
 同業種の仲間と共に学び、時には知恵を出し合う機会はそう多くはない。講義も日常でおろそかになりがちな部分が盛り込まれた内容である。来て損はなし。

中山大樹氏(朗月堂書店本店店長)
 3日間という期間をフルに活用し、講師・青田氏の豊かな知識の元行われるセミナーは、これから出版業界に携わろうという方には必須の内容であると感じました。
 特に他の店長セミナーと違うところは、青田氏自身の経験・体験談からのデータや実例、さらには現在ある書店の動向など、長くこの業界に携わっておられる方だからこその講義内容の数々は信用性に長けており、明日から実践したいと思わせるものも多くある充実したセミナーでした。
 今後、弊社スタッフで同内容のセミナーへの希望者がいる場合は、間違いなくこちらのセミナーをお勧めします。

西依昌幸氏(川又書店県庁店店長)
 手詰まり感のある書店売上げに対して、まだまだやれることがあるという事を、改めて認識することが出来ました。非常に貴重な時間を過ごせました。

野島宏幸氏(ブックスタマ東村山店店長)
 経験と実績を積み重ねて来られた方ならではの講義でした。長年かけて構築されたノウハウを惜しげもなく伝授していただき「ありがたい」の一言に尽きます。
 出来ること、やるべきことがまだまだあるのだと思い知らされ、売上低迷を出版不況だから仕方ないという決めつけに近い思考に風穴を開けられました。ありがとうございました。

長谷部慎一氏(TSUTAYA結城店)
 書店は本当に奥が深く可能性がある事を学ばせて頂きました。

馬場裕司氏(リブロエリア長)
 店における様々な判断に根拠のある自信がつきます。

松丸智治氏(ほんのいえ宮脇書店越谷店書籍リーダー)
 セミナー、個人相談にていろいろとご指導いただきまして、ありがとうございました。 今回のセミナーに参加しまして、先を見通す力が身につきました。仕事に入っていると、目の前のことにとらわれがちですが、まだまだできることがあると実感しました。
 そのおかげで、本を愛する心、熱い心を保ちながらスタッフメンバーやお客さまに本の良さを伝えていく自信もいま以上に持てました。電子書籍やネットに負けず、お店を長く続けていくためのヴィジョンも広がりました。

吉富圭氏(リブロエリア長)
 「書店の仕事ってこんなに面白かったんだ!」と思い出させてもらいました。

A氏(北陸のS書店)
 低迷する業界、山積みの問題、見えない打開策、上がらない士気。嘆いてばかりいる前に、まずこの道場の門を叩こう。基本からノウハウ、テクニックはもちろん、精神まで叩き直される。私は、今、この教えをどう実践しようかとワクワクする毎日を送っている。道場の門下生として、これからどんな状況下でも、お客様のために、本屋として戦い続ける所存である。

F氏(K書店)
 売上アップのノウハウを学べるだけではなく、書店人としての愛と夢を語り合えます。

出版社営業マン
 書店人向けセミナーであるが、版元営業マンが受講しても十二分に応用ができる。むしろ、書店人・読者目線で物事を考えることは必須であろう。書店と出版社は「表裏一体」。今後の出版界を生き抜くための宝物がちりばめられた講義内容であった。
 
 ご参加いただいた皆様に、心より感謝申し上げます。
 

(書店・出版コンサルタント 青田恵一)

(2017年12月21日更新)
青田恵一プロフィール
福島県出身。書店勤務などを経て、現在、株式会社青田コーポレーション代表取締役。書店 ・出版コンサルタント。中小企業診断士。
主著『よみがえれ書店』 『書店ルネッサンス』『たたかう書店』 『棚は生きている』『たたかうお店のバイブル13冊』『理想の書店』(すべて青田コーポレーション出版部発行:八潮 出版社発売)
               
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