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第13回 郷土カラーODAWARA≠ナ挑む総合書店
     〜伊勢治書店ダイナシティ店(1)
 伊勢治書店ダイナシティ店は、郷土カラーODAWARA≠ナ勝負をかける店だった。同店の店長、鈴木啓之氏が書店道場の第6クールにご参加いただいたこともあり、出張の帰りに小田原で降りてお寄りした。その店はJR東海道本線・鴨宮駅から車で7〜8分のショッピングモール、小田原ダイナシティのウエスト4階にあった。
 
1. 店の歴史と概観
 
 伊勢治書店のツイッターには「延宝八年、宿場町として繁栄していた小田原の地で『筆、墨、硯、和紙』を中心に商売を創めた『老舗の書店』の伝統を継承する」とある。延宝八年は西暦1680年、将軍綱吉の時代である。現金掛値なし、薄利多売の小売店商いをはじめた三井高利が、呉服店の越後屋を日本橋に開いたのが延宝元年(1673年)だから、伊勢治書店は時を同じく創業したことになる。
 
 ダイナシティ店の総売場面積は220坪。本は170坪、文具は20坪。2年前に改装して30坪のカフェを併設した。正面にある入口ゾーンに立つと、広々とした雑誌売場が目に飛び込んでくる。
 正面入口からフロア奥への誘導を兼ねるメイン通路により、店は左右にわかれる。右側は主に情報系ジャンルで雑誌売場、女性実用、語学・資格、学参、児童書、絵本の順となる。壁棚には地図・ガイド、芸術、実用、教育・保育。
 左側は一番前に広めのカフェと文具がある。本は文芸一般書、文庫、新書、コミック、人文・法経ビジネス・理工の専門書と文化系が中心。おおむね右側は情報系、左側は文化系ゾーンともいえる。フロアを貫くメイン通路沿いには、両ゾーンともイベントテーブルがつらなり、提案型の店舗イメージを発信する。
 鈴木店長によると、店の主な客層は40〜50代の女性層で、60代も含めると約7割が女性であるという。したがって女性向けのジャンルほど充実度が高くなっている。それでは情報系のゾーンから回っていこう。
 
2. 情報系ゾーン
 
 情報系ゾーンには雑誌棚が58台あり、充実している。女性誌からはじまってエンタメ誌、スポーツ・車誌、男性ファッション誌と若い男性向け雑誌が並ぶ。壁棚の奥には週刊誌、総合誌やビジネス誌、PC誌などが収まる。
 同売場の特長のひとつは、雑誌什器のエンド台とは別に独立して展開する雑誌新刊台である。40面平積みできる規模から、雑誌を売ろうとするダイナミズムが伝わってくる。構成比の高い雑誌において、さらに構成比が高いのが新発売の雑誌群である。エンド台以外に新刊台を設けない店も多いなか、この店の対応は理想形に近い。しかもその近くには雑誌付録の見本が集められ、かごに入っているもの、ラックから下がっているものと2つに分けられる。お客さまは付録を手に取っていくらでも見ることができる。
 
 次いで、婦人実用から実用系ジャンル。売場は手芸、編み物の面見せ棚をスタートラインとして料理、健康方面に流れていく。
 健康書で注目されるのは「療養食」と銘打たれた棚。そこでは療養食という表現だけでなく、様々な病気に適した献立やレシピの収載された本が力を入れて揃えられている。がんが消える本、ナッツ健康本、オイル本などの品揃えの幅と深さから、担当スタッフに高い問題意識があると推察できた。
 もうひとつ健康の本棚で注目されるのは、著者別のコーナーである。近藤誠さん、中川恵一さんなどの売れ筋本が、著者別にきちんと並んでいるのだ。500坪以上の大型店でこそよく見かけるものの、この規模では珍しい。学ぶべき的確な対応といえよう。
 教育書関係は、壁棚に学校教育書の棚2本と保育書の棚1本。家庭教育書はすぐ近くの中央台に、育児と合わせ1本強揃う。そのなかに発達障害の棚が1段あり、大人向けも充実している。メイン通路沿いでは教育書と保育書のフェアが同時開催中。
 
 情報系ゾーンの最後、児童書と絵本にも工夫された棚がある。児童書の読みものの一部がキーワードで組まれ、興味深い品揃えになっている。スポーツ、囲碁・将棋、マジック、古典、名作、こころ、不思議ものなど、少年少女客の世界を広げる棚づくりである。
 絵本の面見せキャンペーン棚6本も注目点。各5段のうち4段が迫力のフルカバー展開である。ほぼ1カ月単位で著者やテーマでどんどん入れ替えるという。現在はかこさとし、たちもとみちこ、高野紀子、うたの絵本、雨の絵本、パンダの絵本などを繰り広げている。
 児童書の売上は順調に伸びておりその売上水準も高い。通路側で展開される絵本、『きぼうのかんづめ』(ビーナイス)の拡販が目を引く。大きめのポスターでアピールされているうえ、『血管を強くする「水煮缶」健康生活』(アスコム)、『蘇るサバ缶』(廣済堂出版)などの書籍や、本物のさばの缶詰も併売する。その下側には、『すずちゃんののうみそ』(岩崎書店)が3面展示。
 
3. 文化系ゾーン
 
 文化系ゾーンの見どころはとりわけ文芸書とビジネス書にある。
 文芸書で刮目されるのは、ベストセラー棚の前に独立した多面展示の棚が存在することだ。1本で45面を展開する。上位のベストセラーは、この特設棚で徹底的に売り尽くされる。
 訪店時は、1位が『漫画 君たちはどう生きるか』(マガジンハウス)、2位が『おらおらでひとりいぐも』(河出書房新社)、3位が『青くて痛くて脆い』(KADOKAWA)、4位が『Lily―日々のカケラ―』(文藝春秋)だった。
 『漫画 君たちはどう生きるか』の陳列は、写真でも見て取れるが、漫画版の間に活字版を組み込むという工夫がなされていた。多面展示のバリエーションのひとつといえようか。
多面展示棚
 
 壁棚の一般書はメインターゲットたる女性向け中心で、左から女性作家、コミックエッセイ、女性の本棚の順。
 さらに文芸一般書で特筆したいのは、新刊台の平台で取り組むアラハン(アラウンド ハンドレッド) 本フェアである。『九十歳。何がめでたい』(小学館)、『生きていくあなたへ』(幻冬舎)、『夫の後始末』(講談社)などを核に小説、エッセイ、ノンフィクションで品揃えする。ベストセラーとしての単品は売ってもコーナー企画として展開を広げる書店はそう多くない。
 
 文庫ではベストセラー以外の注目作品も見逃さない。ドラマ化された数学者、岡潔の『春宵十話』(光文社文庫)、今年2月に逝去した石牟礼道子著『苦界浄土』(講談社文庫)なども拡販スタンスを取る。プッシュする銘柄を良いタイミングでセレクトしているのだ。出版社の文庫目録を、読者がすぐ調べられるよう該当文庫の最後に置いているのも参考になる。
 ビジネス書は自己啓発書が中核だが、人工知能、IoT、孫子、失敗、トヨタ、ビットコイン・仮想通貨、PDCAなどの最新トレンドを意欲的に棚に反映し、時代に寄り添う棚づくりを志向する。
 焦点のODAWARA<Vーンは次回に詳述したい。
(次回につづく)

 
〈付記〉
 
 5月5日、本コラム第9回で触れた「こどもの本¢国I挙」(ポプラ社主催)の投票結果が発表された。投票者総数は小学生を中心に12万8055人にのぼった。
 第1位は今泉忠明監修『おもしろい!進化のふしぎ ざんねんないきもの事典』(高橋書店)が獲得した。2位、3位はヨシタケシンスケ著の『あるかしら書店』(ポプラ社)と『りんごかもしれない』(ブロンズ新社)。(以下100位までの作品は「こどもの本¢国I挙」のサイトに掲載されている)
 
 発表後、全国の書店で特設コーナーが設けられているが、伊勢治書店ダイナシティ店においても、写真のようにメイン通路の目立つ場所にベスト10コーナーが設置された。
 
 鈴木店長は、この「こどもの本¢国I挙」コーナーについて以下のようにコメントしている。
こどもの本¢国I挙コーナー
 
「5月5日のこどもの日から展開をはじめました。お子さまより大人の方のほうが興味深くご覧いただけています。パンフレットの内容が良くできていて、持ち帰り率も高いです。売れ行き良好なのは『ざんねんないきもの事典』シリーズやヨシタケシンスケ作品などですが『ふしぎ駄菓子屋銭天堂』の1巻目が売れていたのが嬉しいですね。パンフレットにて紹介されている「なんでもおもしろランキング」も順次展開していこうと思っています。」
 

(書店・出版コンサルタント 青田恵一)

(2018年5月18日更新)
青田恵一プロフィール
福島県出身。書店勤務などを経て、現在、株式会社青田コーポレーション代表取締役。書店 ・出版コンサルタント。中小企業診断士。
主著『よみがえれ書店』 『書店ルネッサンス』『たたかう書店』 『棚は生きている』『たたかうお店のバイブル13冊』『理想の書店』(すべて青田コーポレーション出版部発行:八潮 出版社発売)
               
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