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第14回 郷土カラーODAWARA≠ナ挑む総合書店
     〜伊勢治書店ダイナシティ店(2)
 今回は、伊勢治書店ダイナシティ店レポートの完結編である
 
4. 大胆な郷土カラー打ち出す
 
 伊勢治書店ダイナシティ店の醍醐味は、郷土色を一心に打ち出す点に見出すことができる。同店のお客さまにとり、もはや世界はODAWARA≠ノなっているのである。
 
 メイン通路のなかほどの情報系ゾーンにある平積みの郷土本特設コーナーは、都道府県研究会著『地図で楽しむすごい神奈川』(洋泉社)、横山正明著『小田原と地震』(松風書房)、内田哲夫編著『年表小田原の歴史』(八小堂書店)、西股総生原作・みかめゆきよみ漫画『北条太平記』(桜雲社)、NHK「ブラタモリ」制作班監修『ブラタモリ5 札幌 小樽 日光 熱海 小田原』(KADOKAWA)、『写真アルバム 小田原・足柄の昭和』(いき出版)などで存在感を高める。
 
 ここに私が長年愛読している書、三戸岡道夫著『二宮金次郎の一生』(栄光出版社)を発見した。本書は「地雷を踏んだらサヨウナラ」や「十字架」などで有名な五十嵐匠監督により、神奈川県出身で小田原ふるさと大使の合田雅吏さん主演で映画化されている。その映画「地上の星――二宮金次郎伝」は本年公開予定(http://hoshi-movie.com/)。
 
 このすぐ近くにあるレジカウンター手前には、小田原在住の作家、椰月美智子さんの著作のほぼ全点を揃える特設コーナーが設置されている。『伶也と』(文春文庫)が12面の多面展示中。親本と並列陳列しているが、これはよくあるようで、じつは少ない対応である。作品世界を感じさせるオリジナルPOPは、「ノンストップの問題作!」「狂おしいほどの愛と献身」などのキャッチで彩られ、著者に対する愛がストレートに感じられた。
 
 なお、椰月美智子さんはWEB本の雑誌「作家の読書道」で「小田原に伊勢治書店という、歴史のある本屋さんがあるんです。夢枕獏さんが昔そこで働いていたという噂です」と記している。真偽のほどは別にしても、売場内に、さもありなんという雰囲気が醸し出されている。
 
『伶也と』を多面展開したコーナー
 
 小田原市出身の漫画家、冬川智子氏のコーナーもある。紹介パネルには詳細なプロフィールが載っている。ここには、同店がいかに地元の著者を大切に思っているかが伝わってくる。
 
 メイン通路を挟んだ文化系ゾーンのイベントテーブルでは、夢枕獏さんの『沙門空海唐の国にて鬼と宴す(全4巻)』(角川文庫)フェア。それぞれを多面展示したうえで、大きめのパネルやDVDによるプロモーション、パネルの上には「祝 小田原市民功労賞受賞」の手書きPOPもあり、華々しく開催中である。
 
 通常棚では文芸の一般書の頭に郷土作家棚がある。ここには「小田原高校出身」と明示された森谷明子さんの『南風吹く』(光文社)をはじめ、辻村七子さんの『マグナ・キヴィタス 人形博士と機械少年』 (集英社オレンジ文庫)、折原みとさんの『幸福のパズル』(講談社)、そして夢枕獏さん、椰月美智子さんの作品群が陳列されている。
 
 そのほか、大橋優子著『たおやか 料理とシロと湘南と』(リーブル出版)、市川憂人著『ジェリーフィッシュは凍らない』(東京創元社)、和田真希著『野分けのあとに』(産業編集センター)。さらに、植木静山著『歴史小説 後醍醐天皇・記』(幻冬舎)、蜂須賀敬明著『横浜大戦争』(文藝春秋)、これに自費出版の村上龍太郎著『あるブンヤ伝(上下)』(編集工房オリエント)などがつづく。
 
 新刊コーナーに接する形で、『写真アルバム 小田原・足柄の昭和』(いき出版)が特別拡販中。そのPOPには「数量限定出版品です。在庫残りわずか お求めはお早めに!」とあった。
 
 私自身、小田原出身ではないのだが、郷土の作家と聞くと、無性に読みたくなるのはどうしてだろう?
 
 さらに歴史棚の最初に郷土史棚があるのにも気づいた。柱になる小田原史棚には深野彰編著『「ういろう」にみる小田原 早雲公とともに城下町をつくった老舗』(新評論)、よしもとたかこ著『小田原物語 後北条始末記異聞』(ブイツーソリューション)、関幸彦編『相模武士団』(吉川弘文館)、内田哲夫・岩崎宗純著『小田原地方商工業史 昭和二十年まで』(夢工房)、須藤常央著『虚子探訪』(神奈川新聞社)などの歴史ものが豊富。一方で下段にある分厚い「小田原市史」シリーズ(小田原市)や中村静夫編『箱根宿歴史地図』(中村地図研究所)が目に飛び込んできた。『年表小田原の歴史』は同店の独占販売とのこと。
 
 神奈川の本棚には今川徳子著『戦国の姫様40話』、木内英実著『神仏に抱かれた作家 中勘助』(三弥井書店)、地元の出版社の夢工房棚には「小田原ライブラリー」のシリーズ、児童書棚には漆原智良文・山中桃子絵・こどもくらぶ編『シリーズ 二宮金次郎を調べる本(全3巻)』(同友館)も陳列。
 
 二宮尊徳棚には前述の『二宮金次郎の一生』や『二宮金次郎から学んだ情熱の経営』(栄光出版社)などの三戸岡道夫作品から、田中宏司・水尾順一・蟻生俊夫著『二宮尊徳に学ぶ報徳の経営』(同友館)、二宮尊徳自身の著作『二宮翁夜話』(中央公論新社)、二宮金次郎の子孫である二宮康裕氏による『日本人のこころの言葉 二宮金次郎』(創元社)まで揃う。
 
 著者、テーマ、出版社といった多様な切り口から、郷土の歴史と現在に迫るスタンスは、学ぶべきものが多い。
 
5. まとめ
 
 伊勢治書店ダイナシティ店は、定番や新刊を大いに売るだけでなく、各担当スタッフが自ら売りたいもの、売るべきと判断したものを積極的に売っていく――そういうチャレンジ・スピリットを持った方々が担っている書店という印象を受けた。
 
 これは同店の経営陣に、人材を育成し活躍してもらう、という方針がなければ達成できることではない。代表取締役社長の筒井正博氏の方針と指導のもと、取締役の山本拓氏、店長の鈴木啓之氏がそれを具現化しているからにほかならない。
 
 店の運営指針について、筒井社長は以下のように語っている。
 
 「ブランドは企業のものではなく、それを愛してくれるファンたちのものです。社員という『最強のファン』が、共感、信頼を作り出す。
 『馴染みの本屋』が見つかれば、読書が楽しくなります」
 
 さらに山本役員もつづける。
 
 ワンクリックで商品を購入できる時代に、リアル店舗としてのプレゼンスをどう発揮するかが問われています。ネット書店にできてリアル書店でできないこと、ネット書店でもできてリアル書店でもできること、ネット書店ではできないがリアル書店だからこそできることをしっかりと認識して取り組むための一つの指針として、「馴染みの本屋」というキーワードを、全社員で共有して試行錯誤していますという。
 
 鈴木店長はこうコメントした。
 
 「本屋の生き残りをかけて、「『馴染みの本屋』を目指す」という社長の提言を、スタッフ全員で考え、実現しようと心掛けています。その流れでの郷土本や地元作家の展開ですが、これ以外にも、接客はもちろん、陳列や提案の仕方など、リアルに感じてもらえる方法で『馴染みの本屋』を目指しています」
 
 3人のお話に共通するのは「馴染みの本屋」というキーコンセプト。馴染みの店とは、一般的に行きつけの店を指す。品揃えだけでなく陳列具合や店舗のムードに波長が合い、店長とスタッフの接客姿勢や働く姿に共感するなどで、いつも足が向く店をいう。この話を伺い、同店の創意工夫の積み重ねや絶えざる提案、郷土志向に立つ店づくりなどが大いに納得できた。
 
 ここ小田原の地で創業340年、臆することなく「馴染みの本屋」を目指し、真っ直ぐ歩む伊勢治書店は、これからも全国的に範となる書店といえよう。
 

(書店・出版コンサルタント 青田恵一)

(2018年6月22日更新)
青田恵一プロフィール
福島県出身。書店勤務などを経て、現在、株式会社青田コーポレーション代表取締役。書店 ・出版コンサルタント。中小企業診断士。
主著『よみがえれ書店』 『書店ルネッサンス』『たたかう書店』 『棚は生きている』『たたかうお店のバイブル13冊』『理想の書店』(すべて青田コーポレーション出版部発行:八潮 出版社発売)
               
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