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第17回 広場型ブックセンターの誕生
     〜TSUTAYA春日井店(いまじん白揚春日井店)(3)
 書店道場第9クールは10月2日(火)、同17日(水)、11月6日(火)の3日間で行う(ご案内チラシはこちら)。今回は参加者が書店様と出版社様で半々になっている。次の第10クールは来年2月からとなる。第9クールの受講は、若干名だがまだ可能であり、奮ってご参加いただきたいと思う。
 
 さて、今回はいまじん白揚春日井店の完結編となる。
 
3. まとめ――書店における広場≠フ役割とは?
 
 いまじん白揚春日井店の店舗コンセプトは「センター・オブ・コミュニティ」である。
 
 この店舗コンセプトを書籍売場にどう展開するかを、本部の石川真理氏はこう考えた。「オールジャンルが揃う、選びやすい・探しやすい・地域一番の専門性のある書店」ではないか、と。実際、店内を回ってみると、確かに選びやすく探しやすい地域一番の専門性の高い書店であった。
 
 注目すべきは、どの売場にも節度と挑戦が融合していたことである。節度とは、前にも触れたが、売場は必要なものが必要なだけ必要に応じ、ある種の均衡をもって現存していることだ。このあり方は、児童書や生活実用書、ビジネス書の自己啓発売場などに現れている。
 
 にも関わらず、ファイティング・スピリットによる新しさへの挑戦もまた、果敢に行われていた。そのひとつが陳列手法であり、ここでも斬新なチャレンジシーンが見られた。たとえば、有子山博美著『何でも英語で言ってみる! 旅するシンプル英語フレーズ2000』(高橋書店)のように、いわゆるタワー積みに近いものの、取りやすさに配慮した多面積みの方法は独創的といってよい。
 
 加えるなら、前述した洋書の壁紙や丸い輪の照明などはこの一例となろうが、そのほかにもセルフレジにはおおっと体が傾いた。DVDレンタルショップやスーパーマーケットではおなじみの光景だが、書店では珍しい。結果はどうか。最初は10%だった利用率がいま30%くらいまで伸びており、これを60%まで上げていきたいとのことである。
 
 
 いまじん白揚春日井店の「節度と挑戦」は、どのような考え方から生まれたのか? まとめとしてこれを、私なりに探ってみたい。
 
 地域という大きな空間のなかに、店舗という中間の空間があり、そのなかにジャンル、あるいはその棚や平台という小さな空間が存在する。私が感じるところ、この店においては、そのどれもが広場≠ニ映る。つまり同店では、店舗だけでなく、書籍ゾーンもその各ジャンルも棚も平台も、地域における広場なのである。
 
 換言するなら同店が発明したのは、店舗だけでなく、書籍の各ジャンル、そのなかの棚、平台が広場として同時に機能する、いわば広場型ブックセンターという新しい書店像であった。
 
 では、広場とはなんなのか。『コトバンク』のサイトから『日本大百科全書(ニッポニカ)』の解説の一部を引用する。
 
  広々と開けた場所。(中略)ここには市(いち)が立ち、人々が群れ集まり、いろいろな出会いが
  あったり、情報や意見の交換が行われたり、民衆の集会の場ともなる。
 
 広場とは「広々と開けた場所」である。しかし、もちろんそれだけではない。この解説には、市(いち)の開催、人々の集い、出会いの創造、情報の流通や意見の交わり、集会の場というような広場を形成する様々なキーワード、つまり役割が見出せる。
 
 
 いまじん白揚の他の店でも同様だが、とりわけ春日井店では、ブックフェア(市の開催)、キッズスペース(人々の集い)、棚割りの創意(出会いの創造)、斬新なPOPや飾付け、インフォメーション(情報の流通や意見の交わり)、コミュニティスペース(集会の場としての広場)というように、広場であることを実現しようとする意欲がストレートに感じられる。これこそ広場を創り出そうとする経営行動といっていい。
 
 繰り返し述べるなら、広場型ブックセンターにおける広場≠ニいう舞台は、店全体とそれぞれのフロア、書籍の各ジャンル、その棚・平台という3つの観点で捉えられる。
 
 第1は、品揃えを強化するため高層棚を使いつつも、店全体で広場としての開放感を得られるよう、キッズスペース、コミュニティスペースのほか、各階の導入部にフェア、多面ゾーンなど特別の展示空間を設けたことである。
 
 第2は、店全体だけでなく、多くのジャンルの先頭で、大小に関わらず、フェア、新刊、提案、特設棚などを核にしたキャンペーンスペースをつくっていること。
 
 第3にジャンルの棚や平台も広場であると位置づけたことから、それらのなかに提案や平積み、面見せのスペースを、思い切って確保したことだ。このため、エンド台や棚前での多彩で活発なフェアや、新たな棚割りによる出会いの演出も可能となった。
 
コミュニティスペースで行われたスクラッチアート体験会
 
 こうみてくると、いまじん白揚春日井店の「節度と挑戦」は、広場型というキーコンセプトの結晶にほかならないと思われる。なぜなら挑戦とは、基本という節度をスプリングボードにして、大きい広場にジャンプすることで初めて成功するものだからである。広場というフリースペースを含むコンセプトがないと、決然たるチャレンジが難しく、何事にせよ大胆には展開しにくいのである。
 
 そういう意味で、石川氏が着想した「オールジャンルが揃う、選びやすい・探しやすい・地域一番の専門性のある書店」という書籍売場のコンセプトは、書店が広場であろうとするための節度と挑戦を、具体化する指針になったのではないだろうか。
 
 書店の店づくりが、どのシーンにおいてもお客さまとのコミュニケーションであることを、ここまで全局面で示せた店はそう多くない。同店に、店も売場も棚も広場であるという解釈ないし哲学があったからにちがいない。
 
 
 改装を現場の第一線で指揮した書籍ゾーンマネージャーの川口京子氏はこう語る。
 
 「センター・オブ・コミュニティ」のもと、最初に考えたのは、どんなお客様が来てくださるのか、男性か女性か、1人か家族連れかということでした。どんなお客様でもどこかに楽しめる場所がある、棚がある、そんなことを想像しながら売場を作りました。それはとても難しく、携わる全員が何度も作っては崩し、作っては崩しの試行錯誤を繰り返し、オープンを迎えました。そして実際のお客様を見てまた試行錯誤を重ねています。今後も成長し続ける書店でありたいと思います。
 
 店長の酒井雅浩氏もつづける。
 
 私は店長としてコンセプト「センター・オブ・コミュニティ」を考えた際に3つの構成要素を掲げました。@新しいモノ・コトとの出会い、Aずっと居たくなる居心地のよさ、B同じ「好き・楽しい」が集い交わる場。これらを満たすことで店舗を春日井市という地域コミュニティの中心にしたいと改装に取り組みました。これからも地域のお客様のコミュニティの中心であり続けられるようにスタッフ一同努めて参ります。
 
 改装コンセプトを書籍に反映させ、書籍ゾーンにおけるグランドデザインを構想した石川真理氏はこう言う。
 
 春日井店は、開店以来12年間のお客様との深い歴史があり、そのご期待に応えながら、新しいお客様にも楽しんでいただける店舗にしたいという想いが強くありました。「センター・オブ・コミュニティ」を書籍売場で表現することは、難しくはありましたが、改めて各ジャンルを1から学び直す機会になり、店舗や取次様と一緒に新しい挑戦を出来たことが私には大きな喜びとなりました。リニューアル当日、本当に多くのお客様にご来店いただいた光景が忘れられません。今後も、常に進化し続ける春日井店でありたいと思います。
 
 最後に、書店の広場化≠ニいうパラダイムシフトを図りつつ、ハイグレードな店舗イメージ創出に向け、電撃戦で改装を企画し成功に導いた、いまじん白揚の代表取締役社長、露木洋一氏は以下のように結んだ。
 
 ネット時代において勝ち残る書店のあるべき姿、それを手探りで模索しているのがこの春日井店です。答えは一つではないでしょうが、ブック&カフェをベースとして地域に開かれた人々が自然と集う場所、というのはその有力な解であると考えています。
 家族で休みの日に気軽に訪れる場所、周囲に人の気配を感じながら1人で過ごせる場所など、様々なシーンでリアルのスポットはネット時代にも必要不可欠です。
 その根幹が本屋(あえて本屋と言いたい)であること、それこそが我々の矜持であり、必ずしも明るいとは言えないこの業界において一筋の光になれればと考えています。
 
 
 春日井店の改装に、いまじん白揚は精魂を尽くして取り組んだ。春日井店のスタッフはむろん、いまじん白揚チェーンのすべてをかけ、売場にいわば革命を起こすため、「内外の関係者が個々の力を総結集した」という。店内の隅々を巡って、さもありなんという思いに駆られた。魂は、まぎれもなく細部にも宿っていた。
 

(書店・出版コンサルタント 青田恵一)

(2018年9月25日更新)
青田恵一プロフィール
福島県出身。書店勤務などを経て、現在、株式会社青田コーポレーション代表取締役。書店 ・出版コンサルタント。中小企業診断士。
主著『よみがえれ書店』 『書店ルネッサンス』『たたかう書店』 『棚は生きている』『たたかうお店のバイブル13冊』『理想の書店』(すべて青田コーポレーション出版部発行:八潮 出版社発売)
               
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