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第19回 愛と知の拠点 ブックエースの次世代型モデル店
        〜TSUTAYA LALAガーデンつくば(2)
(前回よりつづく)
 
◎看護書
 
 愛が沁み込むように伝わってきた。
 
 ここはTSUTAYA LALAガーデンつくばのなかほどにある看護書売場。その前に立つと、誘い寄せられるなにかを感じ、心が浮き立った。矢も楯もたまらず棚に近づくと、岩井俊憲・長谷静香著『看護師のためのアドラー心理学』(日本医療企画)という興味深い書名の本を発見した。
 
 よく見ると、基礎看護棚のゴールデンラインに、『看護師のしごととくらしを豊かにするシリーズ』(同)が面と差しで陳列されている。般若心経、ドラッカー、吉田松陰、論語をテーマにした、一見看護とは縁がなさそうな本ばかりである。『看護師のためのアドラー心理学』は、それらの横側に面見せされていた。
 
 その本のすぐそばに、出版社作成による読者レビューや著者のコメントPOPがついている。一読したら、なぜか愛の感情が込み上げてきた。そうなると今度は、お客さまに対するお店の愛ごころも感じてしまう。ついには、看護書売場全体に愛があふれているとさえ思えてきた。その読者レビューにはこう書かれていた。
 
 
 「こんな本が欲しかった!」「もっと早く出合いたかった!」。そんな、看護師待望の1冊です。使命感を持ちながらも時として自信や勇気、希望を無くしてしまう……。そんな時に、心の指針となる勇気や希望を与えてくれる援助者のためのお守り≠フような本です。優しく語りかける文面からも、きっとたくさんの人が勇気づけられ、癒されるはず。看護師のみならず、看護学生やそのほかの全ての対人援助をされている方々に読んでいただきたい。
 
 
 私はこのコメントにまいった(まいって読んだら期待通りの名篇でした)。POP自体は出版社がつくったものだが、上手に活用したのは同店である。出版社の効果的な販促物を駆使するのも書店の力量といえよう。
 
 そして著者のひとり長谷静香氏が、同店2階にある授乳服専門店、MOHOUSE(モーハウス)で講座を開くことも告知されている。同店は告知と販売で協力する。そのことからも、看護書にかける同店の強い思いが響いてきた。このシーンは同店が、知の拠点≠ナあると同時に、愛の拠点≠ナもあることを示すといってよい。私はまさしく、このことに誘い寄せられたのだと気がついた。
 
 ではその看護書の棚はどうなっているだろうか。
 
 看護書棚は、基礎看護4本と臨床看護4本の計8本になる。1本ごとにみると、基礎看護が看護雑誌、看護学一般、基礎看護・国家試験、看護技術、臨床看護が臨床看護一般、薬・心電図・救急看護、リハビリ看護・疾患看護、そして最後が母性看護からはじまる各論的な看護となる。スタンダードで探しやすい。
 
 棚割りは、たとえば最後の各論的な棚でも、母性看護、助産学一般、精神看護、認知症ケア専門士、老年看護、家族・在宅・地域・訪問看護、保健学一般と自然に流れている。精神看護の棚に並ぶ、中井久夫・山口直彦著『看護のための精神医学』(医学書院)に目が留まった。中井久夫氏は、阪神大震災のあとに刊行された同氏の編集による『1995年1月・神戸――「阪神大震災」下の精神科医たち』(みすず書房)以降、注目を集めた精神医学者である。
 
 ブックエースは、教育書についてチェーンとして力を入れている。それだけに同店での品揃えもよい。棚は10本。教育問題一般、教師論、学級づくり、エンカウンター・授業、生徒指導、学習指導要領、障害児教育、各教科という順序である。
 
 売場の次は、ブックエースが最も得意とし、巧技を振るっている攻め=提案の領域に迫りたい。
 
3. 攻めの施策
 
 攻めの施策といっても、同店では限りなく存在する(例えば、ブックエースが総力をあげる「本の日」キャンペーンについて、「新文化」10月11日号で詳述しているのでご参照いただきたい)。そのなかから、ブックフェア、特設棚、読書マラソン、イベントの4つに絞って紹介したい。
 
◎ブックフェア
 
 訪ねた日に実施中であったブックフェアからいくつかをご案内しよう。
 
 入口真っ直ぐ入ったところのキャンペーンテーブルで、プログラミング教育と幻冬舎代表取締役社長、見城徹氏の新著『読書という荒野』(幻冬舎)に紹介された本のフェア「見城徹の本棚」を開催中。
 
「見城徹の本棚」フェア
 
 後者に陳列された商品のうち、石原慎太郎著『太陽の季節』(新潮文庫)、大江健三郎著『死者の奢り・飼育』(同)、小田実著『何でも見てやろう』(講談社文庫)、中上健次著『枯木灘』(河出文庫)、林真理子著『ルンルンを買っておうちに帰ろう』(角川文庫)、三島由紀夫著『金閣寺』(新潮文庫)、山田詠美著『ソウル・ミュージック・ラバーズ・オンリー』(幻冬舎文庫)、ドストエフスキー著・原卓也訳『カラマーゾフの兄弟』(新潮文庫)には、本の文章を抜粋して帯に貼りつけるという離れ業を演じる。
 
 見城氏のこれまでの著書『たった一人の熱狂』(幻冬舎文庫)、藤田晋氏との共著『憂鬱でなければ、仕事じゃない』(講談社+α文庫)も併売する。
 
 店舗中央のフェアスペースで展開中の芸術を楽しむフェアには、茨城に縁の深い横山大観、没後50年で話題の藤田嗣治(つぐはる)、ブームがつづく葛飾北斎とフェルメール、この4人の画家の関連書を集めた。
 
 さらには生き物の美しい写真集・図鑑の特集。マイケル・J・ベントン他監修(小畠郁生日本語版総監修)『生物の進化大図鑑』(河出書房新社)、クリストファー・マーレー著『世界一うつくしい昆虫図鑑』(宝島社)、タムシン・ピッケラル著/アストリッド・ハリソン写真『世界で一番美しい猫の図鑑』(エクスナレッジ)などの高定価本が結集している。気分が晴れる企画である。
 
 また世界の良質な絵本から選りすぐって翻訳したワールドライブラリーの絵本フェア。『ほっきょくのいきもの』『ちいさなしずく』『キイロドリ』『パンやのブラウンさん』『ちいさなペンギンがはじめておよぐひ』などがアピールしていた。
 
 児童書売場のいきもの事典コーナーにも注目したい。今泉忠明監修『ざんねんないきもの事典』(高橋書店)のヒット後、同書とそのシリーズだけを売るお店が多いが、フェア的にその関連書を集めることにも意義がある。つぎの本につながるからである。これも読書推進のひとつの姿ではないだろうか。
 
 いずれもクオリティの高い企画であった。
 
◎コミック売場の特設棚
 
  同店には特設棚もある。コミック売場のWeb発コミック、異世界コミック、ゲーム原作コミックの3棚各1本である。
 
 Web発コミックは少年ジャンプ+発、comico発、pixivコミック発、COMICポラリス発、COMICメテオ発、マンガボックス発、LINEマンガ発、その他と棚割りが区分され、棚へのアクセスがしやすくなっている。
 
 異世界コミックでは面見せ2段に棚差し4段の構え。面見せには江口連著・雅イラスト『とんでもスキルで異世界放浪メシ』(オーバーラップ)、内藤騎之介著『異世界のんびり農家』(KADOKAWA)、棚架ユウ原作・丸山朝ヲ作画・るろおキャラクター原案『転生したら剣でした』(幻冬舎コミックス)など。
 
 棚はアルファポリス(おもな作品は甘沢林檎著『異世界でカフェを開店しました。』)、カドカワコミックス・エース(丸山くがね著『オーバーロード』)、講談社(伏瀬著『転生したらスライムだった件』)、スクウェア・エニックス(新木伸著『英雄教室』)、富士見書房(暁なつめ著『この素晴らしい世界に祝福を!』)というように、出版社別50音順に陳列されている。
 
 ゲーム原作コミックでは、Fate/Grand Order(フェイトグランドオーダー)、グランブルーファンタジー、刀剣乱舞などの関連作品がメインの品揃えである。
 
◎読書マラソン
 
  ブックエースの催事といえば「読書マラソン」が名高い。小学生を対象に、毎年7〜8月に実施している。読者は店でエントリー後、読書カードにコメントを書くと、スタンプ3つで100円のブックエースオリジナル商品券がもらえる。
 
 つくば店ではこの夏、225人がエントリー、その読書カードは700枚になった。これだけの来店が+アルファであるのだから「児童客の来店促進に効果がある」(阿部大輔書籍リーダー)のは間違いない。
 
 つくば市では、同店の要請を受け、小学校全校1万5000人に読書マラソンの案内の用紙を配ったという。ブックエースチェーンではこの10月13日(土)に、水戸市長も参加して表彰式を開催した。
 
 読書マラソンは、手間やコストの面から敬遠する向きもあるが、行政とメディアを巻き込み、読書推進に生かす方法は志を感じさせる。と同時にチェーン店としてブランドイメージが上がるため、チェーン店全体へのロイヤリティもアップし、長期的に売上げが上がっていく公算が大きい。見習うべきチャレンジャーな施策ではないだろうか。
 
◎イベント
 つくば店でのイベントは、土日に行うことが多い。月に4〜5回、といえば毎週実施している勘定になる。打ち手の数々を紹介しよう。
 
◎中学生の職場体験
 
 毎年6月から8月までの間、中学校5、6校をめどに1年に40人ほどの職場体験を実施している。1カ月をめどに付録入れ、シュリンク、レジ内での接客、サッカー(包装係)として購入された商品をお客さまにお渡しする、などの仕事をこなしている。
 
 これはブックエース全体での取組み施策でもある。チェーン店トータルでは、たとえば2016年の1年間では600人ほどの中学生が参加した。それでなくても多忙を極める書店で、そんなことが可能なのかと感じたので、代表取締役社長の奥野康作氏に伺った。その答とは?
 
 
中学生は本離れの年代です。そういうときに、本が好きな中学生に本に身近で触れあって欲しいという気持ちから出発しました。書店の仕事についての説明会も行っています。参加するために中学校内では人気で面接さえあるといいます。息の長い話ですが、将来の読者を増やすという意味で、需要の創造にもなるのではとも考えています。
 
 
 至言であった。
 
 体験した中学生には最後に店内の本から「おすすめの本」のコメントを書いていただく。しかも推薦された本を、棚を丸々1本使い特設コーナー化している。コメントの例をあげたい。
 
 
この本はナチスの台頭について書かれた本です。実際、ヒトラーが一体どのようにして成り上がったのか知らない人が多いはずです。しかし本書は分かりやすくヒトラー(ナチス)の歴史が記述してあります。ぜひよんでみてください。
 
 
 神野正史著『世界史劇場 ナチスはこうして政権を奪取した』(ベレ出版)についての推薦文である。「本当だな、読まなくっちゃ」と思わされるコメントであった。
 
 参加者の家族が来店する効果も大きい。この話を聞き「絶対的固定客化」という言葉が浮かんだ。あるいは生涯顧客化といってもいい。ただの固定客化だけでは、もう足りないのかもしれない。
 
 絶対的固定客の創造――ブックエースの施策は、危機的な書店にこの課題があることを教えてくれた。
 
(次回につづく)

(書店・出版コンサルタント 青田恵一)

(2018年11月16日更新)
青田恵一プロフィール
福島県出身。書店勤務などを経て、現在、株式会社青田コーポレーション代表取締役。書店 ・出版コンサルタント。中小企業診断士。
主著『よみがえれ書店』 『書店ルネッサンス』『たたかう書店』 『棚は生きている』『たたかうお店のバイブル13冊』『理想の書店』(すべて青田コーポレーション出版部発行:八潮 出版社発売)
               
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