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第20回 愛と知の拠点 ブックエースの次世代型モデル店
        〜TSUTAYA LALAガーデンつくば(3)
(前回よりつづく)
 
 今回は、ブックエースが経営するTSUTAYA LALAガーデンつくばレポートの完結編である。では、ブックエースの18番、イベント報告のつづきから。
 
◆サンタクロースになって家庭訪問、プレゼント提供
 
 同店では昨年、サンタクロースになってクリスマスプレゼントを持って自宅訪問する、サプライジングなイベントを敢行した。クリスマスの本フェアから購入されたお客さま、3名様が対象。ご購入いただいた絵本や童話などをお子さまにお届けする企画である。
 
 このイベント、お子さまが腰を抜かすほど、心から喜んでもらえるという。それはそうだろう。いないはずのサンタがやってくるのだから。しかも絵本のプレゼントを持って! かけがえのない唯一性を持ったイベントというほかない。もちろん、今年もつづける予定。
 
◆ワークショップなど多彩なイベント
 
 敬老の日に参加するお子さまが、おじいさんやおばあさんの似顔絵を描き、それを缶バッジにしてプレゼントをするワークショップや、筑波大学の科学サークルと組み、リトマス紙に絵を描くイベントを開催。
 
 後者は色の変化を楽しんでもらう企画。1日で150人ほどが参加し、30〜40人が一緒に行う。これらは「地域コミュニテーや筑波大学との連携強化も目的」(阿部大輔書籍リーダー)という。
 
 筑波大学の科学サークルとは、まつぼっくりに色を塗りクリスマスツリーをつくったり、紫キャベツの色素の化学変化を利用して、「色の変わるふしぎなお絵描き」をするワークショップとかも開いた。
 
 そのほか、年1回の筑波大学吹奏楽団による演奏、おみくじやスマホスタンドをつくるなど、同店が挑むイベントは枚挙にいとまがない。
 
 近くの絵本専門店「えほんやなずな」さんに、一緒にやりませんかと声をかけた共同企画で、大人向けも含めた読み聞かせ会を3〜4回実施している。
 
 そこで読まれた作品は「おはなしのふくろ」(金素雲編『ネギをうえた人―朝鮮民話選』岩波少年文庫)、ジュリア・ローリンソン著、ティファニー・ビーク絵『ファーディのはる』(理論社)、チェンジャンホン著『ハスの花の精リアン』(徳間書店)、「バラの花とバイオリンひき」(フィツォフスキ著(再話)『太陽の木の枝 ジプシーのむかしばなし』福音館書店)などである(再話とは、名作や物語、伝説、民話などを、児童向けに書き直すこと)。
 
 「えほんやなずな」さんの紹介で、絵本講師・翻訳家のジェリー・マーティンさんのバイリンガルおはなし会にも挑戦した。
 
 イベントラッシュを奏功させるための集客は、SNSを駆使している。顧客との接点をひとつでも多くつくることが大事なのである。
 
◆イベントと外商の連携
 
 このような多彩なイベントは、外商にも大きな影響を及ぼしている。
 
 外商先の学校から「大学生ビブリオバトルでもお世話になっていますからね」とか、「高校ももっと盛り上げたいんだけど相談にのってもらえないでしょうか」というように、前向きな声をかけられる機会が増え、それが学校図書などの注文に結びつくことも少なくないという。その結果、この9月からは継続して売上が1.5倍に伸びたそうだ。
 
 代表取締役社長の奥野康作氏は「イベントを含めた地域との連携で、『本のことならブックエースに』、というイメージが定着してきていると感じます。まだまだですが、こういった世界観を描きつづけられるようにしていきたいと思っています」と語っている。
 
4. 成功の分析 −マーケティングミックス
 
 同店はどうして成功できたのか?
 
 店舗マーケティングの観点から迫ってみたい。以下、市場、客層、店舗コンセプト、強み、販促の各要因を簡潔に記す。
 
◇市場
 
 同店の市場をとらえるとき、まずなによりも、筑波大学や国の出先機関である研究所の存在をあげねばならない。筑波大学は同店の2、3キロメートル先、車で5分の位置にあり、約2万人の学生と教員が学び教えている。つくば市は研究所が100以上あり、研究者が1万6000人以上もいる「研究学園都市」であった。ここはまぎれもなく知のエリア≠ナある。
 
◇客層
 
 来店客層は女性7、男性3の割合になる。
 
 メインターゲットは若いファミリー層であるが、コアは最も多い40代女性で、つぎは30代女性。そのニーズは、同店が作成したコンセプト資料によると、「ファミリーで子どもと楽しむ」ことにある。換言するなら、このニーズの核は、お子さまに存分に楽しんで欲しいという、お母さんのいわば愛の思いととらえられ、同店では、すでにみたように様々なイベントで対応している。ここは愛≠フシーンになろう。
 
◇店舗コンセプト
 
 同店の店舗コンセプトは「つくばスタイル」。入口のブックフェアと同じタイトルだ。つまりフェアは、店舗コンセプトに基づいて行われているど真ん中の企画といっていい。
 
 では、「つくばスタイル」とはどういうものを指しているのだろう? いましがた触れたコンセプト資料を改めて確認すると、つくばには、筑波大学や研究所が有する最先端技術に加え、130カ国・8000人の外国人など多種多様な人々や、筑波山をはじめとする自然もある。これらと共存していくことが重視される。そのうえでこの地区の知的レベルや教育水準の高さに合わせつつ、先ほどの繰り返しになるが、ファミリーがお子さまと楽しく過ごせるようにという家族愛を謳っている。
 
 以上のありよう――愛と知≠フニーズに対し、店舗の品揃えやバリエーション豊かな攻めの施策で、貢献したいというのが店舗コンセプトの本質と思われる。なおかつ、それは店の店長や各業種のゾーンリーダー、スタッフの様々な活動で、大いに実現されているのではないだろうか。
 
◇強み
 
 同店の強みは少なくとも3つある。駐車場が大きいため、ファミリーが来やすいこと、エンターテインメントがひと通り揃うこと、「サザコーヒー」という茨城県でロイヤリティが圧倒的に高いカフェの存在。
 
 このカフェでは、ほとんどの人が本を読んでいる。購入前の本を持ち込めることから、本に親しみやすい環境となっている。売場には「コーヒーをご購入いただければ、本や雑誌は購入前でも自由にお読みいただけます。のんびりとお気に入りの本や雑誌を探してお楽しみください」という表示があり、お客さまも安心して利用しているようだ。
 
◇販促
 
 販促の視点からは「多面展示」「面見せ」「エンド企画」「定期購読」という4つの事項が柱になっている。
 
 多面展示はベストセラー拡販の手段と位置づけられるが、訪問時は発売になったばかりのユヴァル・ノア・ ハラリ著『ホモ・デウス(上下)』(河出書房新社)を核に、前作の『サピエンス全史(上下)』(同)、吉川浩満著『人間の解剖はサルの解剖のための鍵である』(同)、シッダールタ・ムカジー著『遺伝子 親密なる人類史(上下)』(早川書房)、ジャレド・ダイヤモンドほか編著『歴史は実験できるのか』(慶應義塾大学出発会)などでフェア展開されていた。
 
 ここがハイライトシーンといってよい。ベストセラーが中心のフェア組みは、ありそうであまりない。貴重な試みといえないか。
 
 陳列のなかでも「面のとり方」が注目される。ほぼ全ジャンルのゴールデンラインに、若干の強弱はあるが2〜3段ずつ面を確保している。アイライン展開は、方針にのっとり計画的に実施されていると思われる。
 
 
 エンド企画は、10人のジャンルスタッフが担当し、バラエティ豊かな提案を発信している。
 
 さらにブックエースでは、雑誌の定期購読に総力をあげている。同店では今年の新規600件を確保し、定期購読件数は現時点で1500件となった。
 
 労力を惜しまず努めることで、確かな成果が創出できているのである。
 
ベストセラー『ホモ・デウス』と関連図書フェア
 
5. まとめ
 
 堂々たる立ち姿でたたずむ同店は、ブックエースチェーン店のなかで、どういう位置づけになるのだろうか。奥野社長に伺うと、本が地域で一番店であること、エンターテインメントがフルラインで揃うこと、ブック&カフェを核に物販を加え業種ミックスができていることなどから、チェーンのモデル店と位置づけているという。
 
 ブラッシュアップを続け、進境著しい店づくりに挑んでいる同店は、ブックエースの次世代型モデル店となる。
 
 同じく奥野さんは「他の書店さんに同社の店舗運営の話をしていると、ぜひそのノウハウを教えて欲しいという書店が少なくない」と話す。「そのような書店さんには、この店を舞台として、マニュアルと研修で学んでいただいている」。すなわち、同店はその研修店舗になっているのである。
 
 
 同店の瞠目すべき店づくりについて、書籍リーダーの阿部大輔氏はこう語る。
 
 
 私たちだけでは運営が難しいイベントを、地域の皆様にご協力いただきながら、積極的に開催しております。売場でも地域性のある棚づくりやフェアを行っています。ネットでは体験できない空間の提供を目指し、今後も地域との連携を強化していく決意です。
 
 
 本部の書籍統括責任者の清宮慎太郎氏も言い添える。
 
 
 店舗と本部で毎月打ち合わせを実施し、本部とお店のMDを融合しています。地域密着、ライフスタイル、高鮮度、トレンド、エンターテイメント、アカデミックなどを確たるキーワードに、ポイントを際立たす新鮮な品揃えを図り、お客さまが新しい発見のできる売場づくりを目指しております。
 
 
 最後に代表取締役社長の奥野康作氏は、力強くこう総括した。
 
 
 この店舗は我々のモデル店舗です。我々がこの商業施設に入ったことで、駐車場が9年ぶりに満車になり、施設内のスーパーは2割ほど売上が上がったと聞いております。商業施設に本屋は要らないという話も聞きますが、「そんな事はない。本の力は凄いぞ!」と未来を感じさせてくれています。ここに我々の目指す未来があります。
 
 
 
 3人のコメントは、「お客さま第一」の方針のもと、店舗と本部が一体になり、地域と連携しつつ、本との出会いを提案していけば、書店の未来は決して暗くないことを示唆している。
 
 それを裏づけるように、同店では、売場でのイメージ訴求と地域とのふれあい演出の同時プロデュ―スが、店舗クリエーションのベースとしてなされている。
 
 言い換えるなら、基本を固めつつパンチがある、もしくは度肝抜く、でも琴線に触れるフェアやイベントの攻めの施策を決め技とし、マーケットを切り開こうとしているのである。地域のお客さまのニーズに応えようとする、その真摯な姿勢には学ぶべきものが多い。
 
 
 同店の周辺に、筑波大学や多くの研究所を抱えることもあり、知の拠点を志したのは疑いない。が、それと同時にお客さまに対するブックエースらしい思いの深さを武器に、愛があふれるブックセンターになったことも間違いない。どうしたら愛の書店、いや愛と知の書店≠ノなれるのか、ぜひ訪れてそのヒントを探ってみてはいかがだろう。
 
 茨城にブックエースありは、すでに過去の話である。現在、茨城以外にも活動の領域を広げ、北関東にブックエースありの時代となった。そして、各地の読者に認知され支持され応援されることで、日本にブックエースありとなる日はそう遠くない。
 
 TSUTAYA LALAガーデンつくばはその未来を拓く急先鋒となるにちがいない。そう願うのは私だけでなく、地域のお客さまも同じではないだろうか。
 

(書店・出版コンサルタント 青田恵一)

(2018年12月20日更新)
青田恵一プロフィール
福島県出身。書店勤務などを経て、現在、株式会社青田コーポレーション代表取締役。書店 ・出版コンサルタント。中小企業診断士。
主著『よみがえれ書店』 『書店ルネッサンス』『たたかう書店』 『棚は生きている』『たたかうお店のバイブル13冊』『理想の書店』(すべて青田コーポレーション出版部発行:八潮 出版社発売)
               
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