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第21回 人間のドラマを伝える高原の書店
            〜那須ブックセンター(1)
旗が風にはためく店舗ファザード
 
 その道は高原を貫いていた。森のような林がつづく。それを突っ切る道の両サイドには、美しい木々がどこまでも立ち並ぶ。
 
 JR黒磯駅から那須街道を車で北進する。那須連山の方に真っ直ぐ走って20数分、那須の銀座四丁目、向谷地交差点に着く。交差点の左側には道の駅「友愛の森」。交差点を反対の右側に曲がり、県道68号線を少し行ったところに、その店はあった。
 
 ベレ出版の創業者にして現相談役の内田眞吾氏が、書店再生への願いを込め、私財を投げ打ってつくった、海抜500mにある高原の書店、那須ブックセンター(社名:(株)書店と本の未来を拡める会)である。
 
 書店道場第9クールに、内田眞吾氏がご参加いただいたこともあり、またコンビニのあとにできたという話題の店はどんなつくりか、一度この目で見たい誘惑に勝てず今日訪れた(私が店長のとき知り合った出版社営業マン、現在は出版プロデューサーとして活躍する小中強志氏にご案内いただいた)。
 
 
1. 外装
 
 書店の左側に園芸店、右側にはソーセージ店があり、同店は両店に挟まれるようにある。横に長い建物の中央に入口、その真上の看板には深緑(ふかみどり)の地に、白抜きで「那須ブックセンター」とある。看板のすぐ左に店のシンボルマーク、さらに左側の端に「本」の表示。いずれも、やはり深緑の地と白い文字の組み合わせで、深い森のなかに厳存する書店と印象づけられた。
 
 もっとも目の前には町立の那須中学校があり、その奥には別荘地帯が広がっている。表側の全面ガラス窓を通し店内が見えるため、書店だとわかりやすい。
 
 入口の両サイドで旗が風に吹かれてはためいている。――ドラマチックな演出。旗の一方には「想いを本(かたち)に」、もう一方には「那須の森のまんまるちゃん」(童話)。自費出版と単品拡販のアピールツールとなる。入口の右側には木製の長〜いベンチが置かれ、その窓には「つながるひろがるアート展「NASU」や「ゆっくりサロン バザー&歌声」といった地域イベントの案内ポスターが貼ってある。
 
2. インフォメーション・カフェ
 
 入口を入る。
 
 最初に、左サイドにある2坪のインフォメーションとカフェのスペースが目についた。ふたつの存在は別々でなく一体化している。中央に丸テーブルがあり、その上には那須町の無料の地図をはじめ、「那須クラシック音楽祭レポート」「地方を変える女性たち」などの地域パンフレットのほか、同店を応援し情報発信する「仲間たち通信 那須本屋だより」が置かれていた。丸テーブルをふたつの丸イスが囲む。
 
 突き当りのカウンターに同じ丸イスが4脚あり、カフェのお客さまはここで100円コーヒーを楽しむ。地域のパンフはカウンターの上にもあるが、壁の「地元伝言板」にも数多い。これだけのパンフがあれば、地元通になれること疑いない。
 
 この店でカフェは必然であったろうか。書店業のプロフェッショナル、谷邦弘店長によれば、同店には何人ものお客さまが連れだって来店する。本好きでないお客さまはここでコーヒーを飲みながら、本を探す友人を待っているそうだ。カフェは世間話の花を咲かせる場ともなる。それが読書へのきっかけになれば、と谷店長は語った。
 
3. レジ・カウンター前
 
 入店してすぐの場にあるレジ・カウンター前は、もうひとつの書店といってよい。
 
 那須を特集した雑誌と本があり、オリジナルロングセラーがある。アウトレット本、著者のサイン色紙、サイン本、各社の文庫・新書・単行本・ジャンル別の目録(しかもたっぷりと)、出版社のPR誌、販売用しおり、もちろん無料提供のしおりもある。さらに同店のポイントカードもあり、老眼鏡、ルーペメガネやPCメガネなどのメガネがあり、1周年記念の寄せ書きさえあった。
 
 いってみれば、このささやかな空間は顧客サービス、おすすめ、拡販、アピールなど販売促進の総結集の舞台である。これはもしかしたら、日本一、活気があるレジ前ステージかもしれない。
 
 
 ここには言及すべき要素が少なくない。
 
 まずは海庭良和著の『マンハッタン冬歌 (フォレストミステリ)』(合同フォレスト)と『トンガル殺人紀行』(郁朋社)の話である。地元の著者である海庭良和氏からこの2点が届いた。せっかくだから販売しようと、税込500円の「おためし価格」として平積みしたところ、新刊並みに動いたそうである。
 
 つぎは目録。なぜ目録をこれほどまでに置いているのか。谷店長は、そういう書店が少なくなっているからと話す。これには氏の体験が生きている。書店に入る前だが、最初手に取ったのは新潮文庫の目録だった。「これは私にとり宝物でした。この目録から読書の世界を広げていきました」
 
 ちなみに目録の需要状況は、年間でみると、文庫では新潮文庫が60冊と圧倒的に多く、ついで角川文庫30冊、講談社文庫と集英社文庫が各10冊とつづく。新書は岩波新書40冊、中公新書15冊、新潮新書10冊とのこと。
 
4. 主要ジャンル
 
 では本命の売場に移ろう。通常の各ジャンルはどうなっているのだろう?
 
 売場は、入口から雑誌3連に婦人実用、文芸一般書、文庫、新書が各1連とつづく。入口正面から見える一番奥の壁棚が児童書で、さらに右奥方向に学参、辞書、ラノベ(単行本・文庫)、コミックと流れる。ジャンルの関係性を濃密にとらえた構成といえよう。
 
 コミックは最奥左側でゾーンを形成する。その右側のゾーンには、ビジネス書、PC書、実用書と情報系ジャンル。スッキリしてアクセスしやすい印象である。雑誌とぶつかった場所には、特化テーマのアウトドア棚。
 
 ともあれここで、那須ブックセンターは総合書店とわかった。それが妥当ということは「お客さまの来店頻度の平均は月1回ほどで、ひとつのテーマから何冊も選ぶというより、広いジャンルからまとめ買いする傾向が強く客単価も高い」という谷店長の話からもうなずけた。
 
 いずれのジャンルも優れた売場であるが、とりわけ卓越している雑誌、婦人実用、文芸・人文、児童書の4ジャンルについて、以下にレポートしていきたい。主要ジャンルの売上構成比は、雑誌22%、婦人実用14%、児童書11%、文芸書8%、コミック8%、文庫・新書各7%という。
 
 ◇雑誌
 
 雑誌は窓際の一般誌系、反対側の女性誌系、その裏側の実用誌系の3連からなる。180p什器9台と85p什器が2台。55坪という規模を考えると、充分なスペースを確保したといえよう。
 
 一般誌系は前からNHKテキスト・総合誌、週刊誌・アート、コミック・アニメ、男性誌・ビジネス誌、カメラ誌・理学誌、女性誌系は婦人誌、女性誌、芸能・クロスワード、旅行誌、実用誌系は料理誌、健康誌、スポーツ誌、車・バイク誌という順。探しやすい構成である。
 
 注目は総合誌のなかにある「狩猟生活」(地球丸)。隣で陳列されている「文藝春秋」にも引けを取らない売行きとのこと。とくに動いたのは「狩猟生活2017VOL.1 狩猟免許取得ABC」特集号。
 
 女性誌からは書籍との融合陳列がはじまる。たとえば最初の婦人誌の差し棚には、暮らしの手帖社の本が並ぶ。大橋鎭子著『すてきなあなたに』、石井好子著『巴里の空の下オムレツのにおいは流れる』、暮しの手帖編集部編『戦争中の暮しの記録』などが、客層とマッチして収まりよい。おのずと雑誌『暮しの手帖』最新号はその前に置かれる。
 
 はずれの旅行誌の平積みと面見せは時刻表と栃木ものが列をなすが、書籍の栃木本もその一角を占める。
 
 訪問日の見どころ企画は、ムックと書籍を使いエンドで繰り広げられる「あったかスープ&鍋料理フェア」。料理レシピ本大賞受賞作の瀬尾幸子著『みそ汁はおかずです』(学研プラス)と、30万部突破のベストセラー、小林弘幸著『医者が考案した「長生きみそ汁」』(アスコム)を核に、有賀薫著『帰り遅いけどこんなスープなら作れそう』(文響社)、福森道歩著『ひとり小鍋』(東京書籍)などで展開中だった。季節柄、心温まるタイムリー企画である。
 
 ◇婦人実用書
 
 婦人実用書は雑誌、ムック、書籍をミックスした料理棚から。面見せと平積みで対応中なのは人気の水煮缶と伝説の家政婦、タサン志摩コーナー。ブームは決して見逃さないのである。それはつぎの健康棚でも見てとれる。面見せ棚の最前列では、きくち体操、平台ではスクワット、血糖値、100歳まで歩くなどのテーマで関連づけられて構成されている。
 
 他ジャンルも同様であるが、那須ブックセンターでは、郷土の著者に対する眼差しが優しい。那須烏山市の七合診療所所長、本間真二郎著『病気にならない暮らし事典』(セブン&アイ出版)のPOPには、「小児科の名医 お母さんたちに頼られる本間真二郎先生 健康・シンプル」とあった。
 
 また着物教室講師の菊地厚子さんと町内に山小屋を持つ石井一彦さんがまとめたブックレット『懐かしき未来 那須町できものの風が吹き始めた』については、「着物文化継承へ小冊子」という見出しの新聞記事を張り出している。
 
 
 婦人実用は提案活動もさることながら、棚づくりの充実度が高い。その出来映えは都市部の大型店に勝るとも劣らない。
 
 1本目の棚割りは、犬・猫、野鳥、文一総合出版のハンドブックシリーズ、昆虫、雑草。入門書だけでなく、内容が一歩深い小方宗次編『カラーアトラス 最新くわしい猫の病気大図鑑』(誠文堂新光社)やスタンレー・コレン著『犬と人の生物学』(築地書館)、水谷高英著『野鳥フィールドスケッチ』(文一総合出版)といった本も陳列中。
 
 その面見せ什器と平台は関連書で埋まる。田中法生著『異端の植物「水草」を科学する』(ベレ出版)、稲垣栄洋著『世界史を大きく動かした植物』(PHP研究所)、園池公毅著『植物の形には意味がある』(ベレ出版)など。
 
 つぎの家庭菜園の棚割りは果樹、トマト・キュウリなどの野菜、家庭菜園術、野菜づくり法、農業、自然農法、林業・畜産、イネづくりとくる。ここには鳥獣害対策、農薬というような農業のリスクマネジメントにからむ本も揃える。小寺祐二編著『イノシシを獲る ワナのかけ方から肉の販売まで』(新泉社)という本も見つかった。イノシシ対策もこの地では他人事でない。
 
 つづいてはガーディニング、盆栽・庭木、多肉植物、花、バラという流れ。お隣の園芸店のお客さまを意識した品揃えだろうか。
 
 以下棚割りは、手芸・あみもの、占い、相続・遺言、マナー、手紙・文書、スピーチ、愛唱歌、音楽・レクリエーション、ナンプレ、数独、歌舞伎、脳トレ、イラスト・カット、水彩画、切り絵、折り紙、塗り絵、絵手紙とつらなる。この緻密な関連性の構築ぶりを見よ!
 
 婦人実用が鮮烈で充実している理由を、谷氏は「お客さま、とくに主婦が来やすいようにしたかったのです。それは主婦の話を聞きたかったからです」と明かしている。お客さま本位という思想が、こういう形で具現化しているとは! 驚きを禁じ得ない。さらにそれは、主婦が来やすければ家族も入りやすいこと、また数人での来店も見込めるためともいう。
 
 品揃えについても「ランキングというよりも、入門書からプロ向けまで、バランスを取りながら幅広く揃えています」。ということは、店長の経験、経験に基づく知見、知見に培われた感性、この3つで揃えているといえるだろうか。
 
(次回につづく)
 

(書店・出版コンサルタント 青田恵一)

(2019年1月21日更新)
青田恵一プロフィール
福島県出身。書店勤務などを経て、現在、株式会社青田コーポレーション代表取締役。書店 ・出版コンサルタント。中小企業診断士。
主著『よみがえれ書店』 『書店ルネッサンス』『たたかう書店』 『棚は生きている』『たたかうお店のバイブル13冊』『理想の書店』(すべて青田コーポレーション出版部発行:八潮 出版社発売)
               
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