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第22回 人間のドラマを伝える高原の書店
            〜那須ブックセンター(2)
(前回よりつづく)
 
 書店道場次回の第10クールは、テーマを業界にとって最大の課題である売上げアップに絞ります。3日間12時間だった日程を2日間10時間に縮め、「マーケティング編」として実施する予定です。店長やリーダーだけでなく、売場スタッフも受講しやすいようにとの思いからです。最近増えてきていた出版社の方ももちろん歓迎します。
 実施時期は6月以降を予定しています(詳細は決まり次第本コラムで告知します)。
 
 
 さて、今回の報告は、出版業界で注目を集める那須ブックセンターの2回目です。
 
 ◇文芸・人文系
 
売れるもの、売りたいもの、売るべきもののバランスがとれた文芸・人文のエンド台
 
 文芸・人文系の棚は6本。この棚をひと通り述べると、最初の1本が企画棚であり、2本目から4本目までは新刊セレクト、作家別、歴史・時代小説、エッセイ、俳句・短歌・詩歌、猫・犬の本という流れ。5本目は人文系で6本目は「那須の本棚」となる。5本目まで順次みていこう(6本目は次回「特設棚」のところで詳述したい)。
 
 まずは、エンドのベストセラーコーナーから。角幡唯介著『極夜行』(文藝春秋)、東野圭吾著『沈黙のパレード』(同)、百田尚樹著『日本国紀』(幻冬舎)などの売れ筋は、恰好な場所にキチンと揃っていた。開店2年目としてはさすがの品揃えといえよう。
 
 エンド棚の最上段には「つながるひろがるアート展NASU」のカレンダー。この略称「つなひろ」は、那須において、個人や企業がハンディキャップのある作家をサポートしつつ、その作品を広める活動を指す。同店の目立つ場所にカレンダーを展示することで、この活動を応援しているのだと思われる。
 
 その下段には、野村寿子著『増補新装版 遊びを育てる』(那須里山舎)の3面展示。このPOPには「障害をもつ子どもたちの遊びの可能性へ ギャラリーバーン清野さんすいせん本 表紙の絵は清野ミナさんです」と表記されている。
 
 つまり、この本の印象深い表紙を描いた画家は3回目で触れる「那須ブックセンターを応援する仲間たち」の中心人物のひとりで、那須塩原で展示会や展覧会用の貸しギャラリー「ギャラリーバーン」を営む清野隆氏のご息女なのだった。
 
 
 この下にある「まあまあ売れてるちょっと気になる本」と題された棚もおもしろい。山口謠司著『心とカラダを整える おとなのための1分音読』(自由国民社)、神谷美恵子著『人間をみつめて』(河出書房新社)、シェリー・ケーガン著『DEATH 「死」とは何か』(文響社)等々が選ばれている。セレクションが見識を感じさせる。
 
 この文芸・人文エンド台には売れている本、売りたい本、売るべき本と三拍子が揃っており、理想的なバランスといえる。現代の書店にとり、学ぶべきもの多いのではと思わされた。
 
 ここから棚に移ろう。1本目は驚くことに1段ごとに特設コーナー化されている。芥川賞・直木賞受賞作、瀬尾まなほ著『おちゃめに100歳! 寂聴さん』(光文社)の関連本、ついで『モンテレッジォ 小さな村の旅する本屋の物語』(方丈社)が話題の内田洋子コーナー。同氏の企画棚があるところが鋭い。
 
 つぎの1本は新刊セレクト棚。最上段が面見せだが、棚差し分と合わせて読書意欲が刺激される。奥泉光著『雪の階』(中央公論新社)、中村文則著『その先の道に消える』(朝日新聞出版)、マイケル・ボーンスタイン他著/森内薫訳『4歳の僕はこうしてアウシュヴィッツから生還した』(NHK出版)などなどが確かな眼力で揃えられている。
 
 3本目の棚の最上段には今月のおすすめ企画、三浦しをんコーナーがある。今年の本屋大賞ノミネート作、『愛なき世界』(中央公論新社)を筆頭に、『ののはな通信』(角川書店)、『木暮荘物語』(祥伝社文庫)、『風が強く吹いている』(新潮文庫)というように、単行本と文庫で構成されている。
 
 著者棚をたどっていくと、時代歴史小説の前で、棚内に突然イベント案内が出現した。それは、那須まちづくり広場が催す楽校(がっこう)セミナー「福島に生きる、福島を生きる」である。講師は福島市生まれの詩人で高校教師の和合亮一氏。玄侑宗久・和合亮一・赤坂憲雄著『被災地から問うこの国のかたち』(イースト新書)をはじめ、和合亮一著『生と死を巡って』(イースト・プレス)や同『詩の礫』(徳間書店)といった書籍による特設コーナーも設置中。
 
 エッセイ棚は、あの世の本から介護、老い、これからの生き方、女子力、悩めるママという構成で、独特の趣きながら現代という時代を映し出す。ここで、小島すがも著『看護師も涙した老人ホームの素敵な話』(東邦出版)のPOPに視線が飛んだ。こう書かれていた。「最強のじぃじ 最強のばあば 老人ホームはすばらしい」
 
 俳句・短歌・詩歌についで、「猫大好き、犬大好き」と名づけられた猫と犬の棚。猫の本が店内のそこかしこで目立つのは「実際の売行きは犬8猫2の売行きですが、猫本を強調することで、『猫で引き寄せ犬を売る』状況をつくり出したい」(谷邦弘店長)という狙いがあるからだ。
 
 このひとつ前の棚では「こころに響く木村耕一さんしりぃーず」も。と思うと「那須町読書クラブすいせん本 問題提起!!」のPOPが! その本とは山極寿一著『ゴリラからの警告「人間社会、ここがおかしい」』(毎日新聞出版)であった。
 
 人文系に向かうと、上側の棚には藤城清治さんの特設コーナー。那須町の藤城清治美術館が、観光客を中心に多くの人々を惹きつけていることもあり、品揃えやPOPにも力が入る。豪華本の『藤城清治の旅する影絵 日本』(講談社)には「藤城清治の集大成」、『藤城清治 光と影の世界』(平凡社)には「藤城清治さんの夢の世界にようこそ!」というキャッチ。
 
 書籍はそのほかにも藤城清治氏が影絵で演出する『画本 風の又三郎』(講談社)、『銀河鉄道の夜』(同)、『セロ弾きのゴーシュ』(同)といった宮沢賢治作品が棚で揃えられ、ブックフェアのようである。
 
 そのあと人文系はサブカル、心理学、理科学ときて当然ながらベレ出版の棚もあった。好評の高橋一雄著『増補改訂版 語りかける中学数学』や野撫コ弘・何森仁・伊藤潤一・小沢健一著『意味がわかれば数学の風景が見えてくる』、石井俊全著『一般相対性理論を一歩一歩数式で理解する』、平台では『サピエンス全史(上下)』(河出書房新社)の前に、近藤龍一著『12歳の少年が書いた 量子力学の教科書』(ベレ出版)を発見。さらに棚は人文読み物、古事記とつづく。
 
 文芸から人文までは特設コーナーの連続だった。総合型であれ、セレクト型であれ、単品中心に魅力をつくる店が多いなか、棚テーマを明確にした、棚揃え≠フ手法を駆使しているのは、こと新しい切り口といっていい。
 
 ◇児童書
 
 児童書売場の魅力は、無条件で楽しいという1点に尽きる。端倪すべからざる売場づくりといえようか。この楽しさのすべてには言及できないが、一部だけご紹介しよう。
 
 児童書棚は歴史・図鑑と学習・なぞなぞ・音の出る絵本の2本からスタートする。
 
 歴史棚には、「歴史サバイバルシリーズ」(朝日新聞出版)、「日本史探偵コナン」(小学館)、「超ビジュアル! 歴史人物伝」(西東社)などのシリーズものがあるが、その棚上に「ぼくのヒーロー≠ヘあの人物≠ニどう関わったんだろう?」という手書きPOPがあり、学ぶ動機づけがなされている。ついで何枚もの動物イラストを貼りつけた危険動物棚を設けることで、各社の図鑑につなげるという腕の良さもみせる。「ざんねんないきもの」関係はここに収められる。
 
 右に曲がると、小さなサイズの絵本棚。知育絵本、しかけ絵本、ノンタン、ファーストブックで3段。2本目は松谷みよ子棚につづいて赤ちゃん絵本、こぐまちゃんと移り、のりものがでてくる本、おばけがでてくる本、そして誰もが知っている名作を揃えたなつかしい本、そして、たべものがでてくる本で終わる。
 
 3本目はだるまさん関係、そのあとにエリック・マーシャル他編/谷川俊太郎訳/葉祥明絵『かみさまへのてがみ』(サンリオ)、サン=テグジュペリ原作/リサ・ヴォート訳/葉祥明絵『星の王子さま』(リサーチ出版)の面見せがあり、ハードカバーの366シリーズもの、アーサー・ビナード、大川紫央(おおかわしお)、スタジオジブリ、さがしもの絵本と流れていく。
 
 それぞれの棚がカクテルのようにミックスされて美味しい味付けとなっている。
 
 これら3本の棚の下は、すべて絵本の面見せ什器。しかも、どれもが特設コーナーという愉しさ! まずは楽器が出てくる絵本。荒井良二作/絵『きょうはそらにまるいつき』(偕成社)、同『たいようオルガン』(同)、シャーリー・パレントー文/デイヴィッド・ウォーカー絵/福本友美子訳『おんがくたいくまちゃん』(岩崎書店)などが展示される。
 
 タイトル表示の周辺のPOPに「はじめての絵本はどれがいいかしら…♡」とか「本をひらいて子どものことを想うだけでも幸せな時間♡」とかコメントされることで、絵本をたくさん読んで欲しいというメッセージが強烈に発信され、読者は思わず知らずページを開いてしまうこととなる。
 
 
 担当者の「おすすめの絵本」面見せコーナーも設置。そこではエリック・カール作/アーサー・ビナード訳『えをかく かく かく』(偕成社)、竹山美奈子文/三木葉苗絵/宇野洋太監修『すずちゃんののうみそ』(岩崎書店)、キャロン・ブラウン文/レイチェル・サンダース絵/小松原宏子訳『みえた! からだのなか』(くもん出版)、きむらゆういち作/竹内通雅絵『あいたくなっちまったよ』(ポプラ社)、トーベン・クールマン作/金原瑞人訳『アームストロング 宙飛ぶネズミの大冒険』(ブロンズ新社)、アンヌ・フロランス ルマソン作/ドミニク・エルハルト絵/きたむらまさお訳『ふゆのまえのおとしもの』(大日本絵画)等々が、とりわけ推しの銘柄になっている。またこれらには、お客さまとおぼしき方々のご推薦がある旨も表記されてもいる。
 
 児童書担当スタッフの大森里恵さんによれば、絵本のセレクトはベーシックな品揃えに加え、学校関係者や地元の講座の参加者に聞いておこなうとのこと。また、選ぶ際は自分の子どもに読みたい作品ということも意識する。将来、その年頃だったときを思い出して欲しいためという。
 
 つぎの2本は最上段が小学校の高学年向け、中学年向け、低学年向けと、ここだけはヨコの棚につながる読みもの棚である。ただしそこから下段はどの棚もキャラクター棚となる。1本目は「キラピチ」(学研プラス)や「おえかきひめ」(同)、「ちいさなプリンセスソフィアといっしょブックおはなし特大号」(同)といった児童雑誌やムック中心。2本目はポケモン、ウルトラマン、ディズニー、ドラえもん、機関車トーマス、トミカ、アンパンマンときてシール絵本で締められるキャラクター棚。そのつぎの1本は児童文庫棚である。
 
 児童書は、基本を踏まえたうえで、同時に愛が伝わってくる構成である。担当スタッフのセレクトとおすすめ、そのコメント、お客さま同士の推薦し合い、糸でんわなどのツールを駆使した飾付けなど、体感性を持たせられるよう巧技が振るわれて、晴れやかな気分に誘われる売場なのであった。
 
(次回につづく)
 

(書店・出版コンサルタント 青田恵一)

(2019年2月14日更新)
青田恵一プロフィール
福島県出身。書店勤務などを経て、現在、株式会社青田コーポレーション代表取締役。書店 ・出版コンサルタント。中小企業診断士。
主著『よみがえれ書店』 『書店ルネッサンス』『たたかう書店』 『棚は生きている』『たたかうお店のバイブル13冊』『理想の書店』(すべて青田コーポレーション出版部発行:八潮 出版社発売)
               
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