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第23回 人間のドラマを伝える高原の書店
            〜那須ブックセンター(3)
(前回よりつづく)
 
5. 気概に満ちた特設棚
 
 那須ブックセンターは、店内各所で、いくつもの特設棚を果敢に展開している。この気概に満ちた提案棚は常にアップデートされるため、店舗クリエーションへの突破口になっている。その一部をご案内しよう。まずは郷土棚から。
 
 ◇郷土棚
 
 郷土の本棚1本4段は文芸一般書の奥、6本目にあり、その品揃えは特筆すべきものがある。
 
 まずは棚。上から1.5段は栃木と那須に関する本。栃木の本は栃木県山岳連盟監修『栃木百名山ガイドブック 改訂新版』(下野新聞社)、宇都宮ハイキングクラブ編『栃木の山150』(随想舎)、那須本については、那須観光協会那須検定実行委員会編『那須学物語』(同)、小杉国夫著『那須の花 花トレッキング携帯図鑑』(下野新聞社)などが面見せ展開。大滝孝久著『那須山ろくオオタカ物語』(文芸社)のPOPには、「那須の自然を愛する大滝孝久さんおすすめ」と記されている。
 
 2段目の後半から著者別棚に変わる。「那須ゆかりの作家」棚である。菅聖子(文)・やましたこうへい(絵)『世界を救うパンの缶詰』(ほるぷ出版)の面見せを間に挟みつつ、久田恵さん、奈良美智さん、中村昌弘さん、藤村靖之さん、立松和平さん、竹内真さんなどの著作群に迫力を感じた。
 
 最下段は栃木と那須の歴史と文化の本棚。中村昌広著『自分で作る風力発電』(総合科学出版)、藤井旭著『白河天体観測所』(誠文堂新光社)、藤村靖之著『さあ、発明家の出番です』(風媒社)などが収まる。
 
 谷邦弘店長によると、この棚の本は接客や客注を受ける際、お客さまから聞き出して揃えたそうだ。
 
 次は平台。この平台で、那須に美術館がある奈良美智さんのコーナーを見つけた。「那須塩原に在住 世界的アーティスト 地元にも美術館プレオープン」と記されたPOPは簡潔で的確。と思えば那須在住の作家、竹内真さんの『カレーライフ』(集英社文庫)では、その本が匙とともにカレー皿の上に展示されている。ここにも「那須在住人気作家 読むとカレーが食べたくなります。自転車のってこのへん走ってます」という目を引くPOPがあった。
 
 近くの平積みには、谷口剛著『いまの会社を辞めずに田舎暮らしを楽しむための本』(明日香出版社)、友枝康二郎著『週末移住からはじめよう』(草思社)、増子博著『定年後は森でロハスに』(リベルタ出版)などによる田舎暮らしの関連本も。
 
 この売場から同店のオリジナルベストセラーが誕生した。松本武夫著『那須の昔ばなし』(栃木県那須町発行)と安樹真生著『弦楽亭』(文芸社)である。
 
 同店で開店以来、1番売れた本は『那須の昔ばなし』である。この商品への対応はとりわけイノベートといってよい。元々の装丁は地味なものだったが、本を読んだ谷店長は「売れる」と確信、一念発起して自分で装丁を考えた。店舗オリジナル装丁本の誕生である。読者にはドンピシャの装丁だったのだろう。そのとたんに売れはじめ、販売数は現時点で114冊に至っている。並みいる小説のベストセラーより動いたことになる。
 
 下野新聞に「お話に出てくる場所を訪ね歩くこともでき、那須をもっと楽しめる昔話集」、と谷店長が自ら記した書評も効果を上げ、掲載後1カ月で36冊という驚異的な数字をたたき出した。精魂込めた手売りの極みである。こんな話、不勉強とは思うが聞いたことがない。大いに学ぶべき対応ではないだろうか。
店舗オリジナル装幀(右)によって通算売行き1位を獲得した『那須の昔ばなし』
 
 通算で2番手に躍り出たのは、那須高原にある音楽ホール、弦楽亭を舞台にした音楽小説『弦楽亭』。『那須の昔ばなし』に、負けず劣らずといっていいほど売り伸ばして、販売数は82冊に達した。郷土本棚だけでなく、レジ前やエンド平台など店内各所で拡販を図った。もっともこの本、重版見送りのため追加分が入荷していない。入っていればトップの座を『那須の昔ばなし』と争っていたかもしれない。補足するなら、著者の安樹真生氏は那須に弦楽亭を建て企画運営してもいる。
 
 
 ◇アウトドア棚
 
 店を拝見して最初に「むっ、これは!」と息を呑んだのがアウトドアの棚2本だった。品揃えの幅が広くかつ奥行きも深いのである。
 
 この棚は山の本からスタートする。小島守夫・仙石富英・東和之・上杉純夫著『改訂新版 栃木県の山』(山と渓谷社)などのガイド・地図から工藤隆雄著『山小屋の主人の炉端話』(東京新聞出版局)、KIKI(著・写真)・植木ななせ(イラスト)『山が大好きになる練習帖』(雷鳥社)といった読みもの、ニ出版社の詳細ルートガイド、『マタギ列伝』(中公文庫 コミック版)や『野性伝説 羆風』(山と溪谷社)の矢口高雄コミック作品までと幅広い。ついで里山散歩、野草、バーベキュー、キャンプ、そして『HUNT(ハント)』(NEKO MOOK、ネコ・パブリッシング)バックナンバー。
 
 棚は3段あり、その下は関連した雑誌の面見せと平積みの台。『わが家にウッドデッキをつくろう』(芸文社)、『薪ストーブの本』(地球丸)、『日本山小屋ガイド』(ニ出版社)などが陳列される。平台には小屋に関する書籍がずらり。本の醸し出す暖かさが心地よい。
 
 2本目の棚は1段目の釣りの本から。田代俊一郎著『魚ヘンな旅 水辺のキニナル地名行』(つり人社)が面見せ中。2段目のテーマは狩猟とサバイバルで、とくに前者が充実している。猪鹿庁監修『狩猟入門』(地球丸)、原田祐介監修『これからはじめる狩猟入門』(ナツメ社)、東雲輝之著『これから始める人のための狩猟の教科書』(秀和システム)に加え、野生鳥獣やその肉のことを示すジビエの棚もある。
 
 岡本健太郎著『山賊ダイアリー リアル猟師奮闘記』(イブニングKC)や緑山のぶひろ著『罠ガール』(電撃コミックスNEXT)といったコミック作品も揃う。
 
 3段目は燻製やダッチオーブン、とくに燻製棚が豊富である。燻製道士著『手作り燻製ハンドブック』(世界文化社)と太田潤著『燻製大事典』(成美堂出版)の間で大島千春著『いぶり暮らしレシピブック』(扶桑社)が面見せで拡販中。品揃えが深いシーンである。
 
 
 立地や客層に応じたMDといっても、こうした品揃えの広さと深さに支えられている面もあるにちがいない。私たちはこのテーマをどこまで追求しているだろうか。この棚をみて、そう反省させられた。久保田修著『ひと目で見分ける287種 野鳥ポケット図鑑』(新潮文庫)がある月の文庫1位になったことも納得できる。
 
 下段はやはり雑誌棚で『BE-PAL』(小学館)、『これなら獲れる! ワナのしくみと仕掛け方』(『現代農業』特選シリーズ DVDでもっとわかる 農山漁村文化協会)、井上雅央・江口祐輔・小寺祐二監修『暮らしを守る獣害対策マニュアル』(同)などの雑誌やムックが並ぶ。書籍との取り合わせに心が弾む。
 
 同店において特設棚は、雑誌から単行本、文庫、新書、コミックまでの超ジャンルになることが少なくない。「特設売場は楽しいよ〜」と棚自体が訴えている。
 
 ◇文庫とコミックの特設棚
 
 ・文庫
 
 文庫売場でも特設棚が輝きを放つ。
 
 児童書棚は歴史・図鑑と学習・なぞなぞ・音の出る絵本の2本からスタートする。
 
 最初はエンドの山崎正和コーナー。単行本の新著『リズムの哲学ノート』(中央公論新社)を機にというべきか、『柔らかい個人主義の誕生』『装飾とデザイン』『社交する人間』『世界文明史の試み(上下)』(すべて中公文庫)といった名作の文庫が揃い踏みである。ここにはあるお知らせが。POPに「天皇陛下より『誠に喜ばしい』とお言葉をいただいた山崎正和」とあったのだ。
 
 エンドの平台では、なんと宮本常一コーナー。『民族のふるさと』(河出文庫)、『イザベラ・バードの旅』(講談社学術文庫)、『山人として生きる』(角川文庫)というような文庫が並ぶ。周辺には内藤湖南著『支那論』(文春学藝ライブラリー)、カレル・チャペック著『園芸家12カ月』(中公文庫)、志村ふくみ・石牟礼道子著『遺言:対談と往復書簡』(筑摩書房)も配される。
 
 文庫棚の最上段も特設の舞台となる。走る、ネコ、人生の達人、ヘッセなどのテーマで繰り広げられている。特集主義の棚づくりといえようか。
 
 ・コミック
 
 コミック売場も同様に特設棚がまぶしい。能條純一著『昭和天皇物語(ビッグコミックス)』(小学館)、武光誠(監修)・柾朱鷺・MICHE Company(マンガ)『マンガでわかる天皇』(池田書店)などのコミック作品を中心に単行本を含めた昭和・平成天皇コーナーがあり、高森明勅監修『天皇陛下からわたしたちへのおことば』(双葉社)、山下晋司(監修)・別冊宝島編集部(編)『天皇陛下100の言葉』(宝島社)、別冊宝島編集部編『美智子さまの60年』(同)といった一般書も組み込まれている。
 
 加えて谷口ジローと諸星大二郎コーナー、それと一葵さやか著『ススメ!栃木部(ファミ通クリアコミックス)』(KADOKAWA)を核にした、栃木の魅力度を上げようという呼び掛け棚もあった。
 
(次回につづく)
 

(書店・出版コンサルタント 青田恵一)

(2019年3月15日更新)
青田恵一プロフィール
福島県出身。書店勤務などを経て、現在、株式会社青田コーポレーション代表取締役。書店 ・出版コンサルタント。中小企業診断士。
主著『よみがえれ書店』 『書店ルネッサンス』『たたかう書店』 『棚は生きている』『たたかうお店のバイブル13冊』『理想の書店』(すべて青田コーポレーション出版部発行:八潮 出版社発売)
               
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