出版業界 専門紙 新文化 出版業界スケジュール 情報掲示板 連載コラム 編集長のページ
第24回 人間のドラマを伝える高原の書店
            〜那須ブックセンター(4)
 この度、書店道場は新バージョン「売上アップ編」として一新する。テーマをマーケティング=お店に集客を図り売上を上げていく内容に絞った(詳細はこちらのチラシをご参照いただきたい)。
 また今回から、店舗スタッフをはじめ、主任、チーフ、フロア長、複合店の書籍リーダー、店長、店長候補、及び経営幹部、本部員、本部スタッフなどすべての書店関係者が参加できるようになる。
 日時も、より受講しやすいよう3日間12時間を2日間10時間に短縮した。6月が第10クール(5日、19日)、7月が第11クール(3日、17日)となる。原則として第1、第3の水曜日、13時30分から18時30分まで。その後は個別相談会を含む懇親会(有料)。相談会は無料であり希望書店の全員に実施する。
 会場は初日が、ちよだプラットフォームスクウェア、2日目は第10クールがトランスビュー様、第11クールが扶桑社様をお借りする。トランスビュー様と扶桑社様にご了解いただき、出版社様は今回も参加可能となった。書店での売上が上がるといいなと考えている出版社様、とくに営業マンの方々(編集などの方も)、ぜひご参加いただきたい。
 なお、この2クールに限り、書店様も出版社様も、「一新記念キャンペーン」として、お一人様の受講料を4万のところ3万5000円(書店の個人参加は3万5000円のところ3万円)とした(いずれも税込み)。この機会にご参加をお勧めしたい。
(前回よりつづく)
 
 今回は那須ブックセンターレポートの完結編である。
 
6. まとめ
 
 那須ブックセンターのメインターゲットは高齢者という。10代はほんの少しで、20代から30代前半までは皆無に近く、60代以上が大半らしい。ところが、その割に店の雰囲気は若々しい。それは谷邦弘店長によると、高齢者の方々が若い人たちに関心を持っているからという。心に響く話である。男女別では半々、また車での来店が90%以上とのこと。
 
 那須ブックセンターには、すでに何度も触れたが、特設棚やエンド企画が少なくない。むしろそれらで売場が構成されているといってもいい。この点に関し谷店長は「お客さまが書店においでになるのは、いまという時代を知るためでは」と分析する。お客さまの方に、「書店に行けばきっとなにかある」という期待があるのかもしれない。
 
 谷店長は続けてこう語る。
 
ですので、企画により大きな反響にならない場合でも、必ず数人のお客さま、固定ファンがつきます。特設コーナーで商品を変えながら、どの切り口ならもっと固定客を増やせるのかを現在手探り中です。
 
 このコメントは、スーパーやコンビニとは異なる、書店独自の固定客増大法を示唆している。通常売場では総合的なニーズ、企画売場においてはテーマに応じた特別ニーズと、二段構えにすることで顧客を拡大しようとしているのだ。これこそが特設棚やエンド企画を多用する理由ではないだろうか。
 
 ところで、期待に応えるひとつになるであろう攻め技――オリジナルベストセラーは同店の十八番である。既述した郷土本だけでなく、サイン本も著者のファンにとっては事件となる。竹内真(文)・しのづかゆみこ(絵)『向嶋言問姐さんのねこものがたり』には、那須在住であるふたりの著者のサインが添えられ、そのためもあってか、直扱い商品ながら23冊まで販売数を伸ばした。
 
 
 同店で過ごしていると、いやおうなく楽しい気分になってくる。ひとつの要因として、愉快なPOPと飾付けが数多いことがあげられる。単品や企画コーナーにはもちろん、驚くなかれ! 天井と棚の間にまでデザインPOPがたくさん展開されているのだ。谷店長は全スタッフに「白い部分をなくそう」と呼びかけているという。
 
 「白い部分」とは壁のなにもない空間を指すが、店からお客さまへの働きかけがないところとも解釈できる。店の全空間から提案メッセージを発信しよう、とする那須ブックセンターの覚悟が伝わってくるエピソードである。
 
お客様による推薦本のPOP例
 
 那須ブックセンターには、文芸・人文書や絵本を中心に売場のそこここにお客さまのご推薦文が存在する。一部、記述が重複するが、推薦者とお薦めされた本を、目についたものだけあげておきたい。
 
◆Crafts&Cafeえな 相澤様
  海庭良和著による『マンハッタン冬歌 (フォレストミステリ)』(合同フォレスト)と『トンガル殺人紀行』(郁朋社)
◆懐かしき未来の石井様
  キャロン・ブラウン(作)・レイチェル・サンダース(絵)『ひかりではっけん みえた!からだのなか』(くもん出版)
◆那須度120%の名司会 鐘ケ江様
  ユッタ バウアー(作・絵)『いつも だれかが…』(徳間書店)
◆ギャラリーバーン 清野様
  佐藤慧著・安田菜津紀写真『しあわせの牛乳』(ポプラ社)
  野村寿子著『増補新装版 遊びを育てる』(那須里山舎)
◆那須在住率36% 獣医 住吉様
  村上康成著『ピンク、ぺっこん』(徳間書店)
◆プージ・プーマの山元様
  トーベン・クールマン著の『アームストロング 宙飛ぶネズミの大冒険』(ブロンズ新社)と『リンドバーグ』(同)
 
 推薦された1点、1点に「相澤さんおすすめ」とか「清野さんおすすめ本」と記され、お店のコメントも添えられている。例をあげると、プージ・プーマの山元様がお薦めされた『アームストロング』と『リンドバーグ』には、「みごたえのある絵本です。絵がすごいです。ワクワクしてください」とコメントされていた。これらを売場で目撃すると、推薦者だけでなく、店長やスタッフの本に対する愛情が心に伝わってくる。
 
 この対応はどうして生まれたのか。このことが那須ブックセンターのもうひとつの本質と思われるため、若干考察してみたい。
 
 どこでもそうであるように、高原にも人々が棲み、営々とした暮らしを築いている。そこにはドラマがありドラマを演出する人がいる。そしてそのドラマには本が係わっていることも少なくないだろう。
 
 たとえば、この那須の地で一冊の本≠ノ出会って生活や仕事の仕方が劇的に変わり、人間らしい希望が見いだせる人生を歩みはじめることができた、というドラマがあったとき。このドラマのヒーロー、ヒロインにその本をお薦めしていただくと、その一冊の本≠介してお客さまの間に共感の輪が広がり、お客さま同士、あるいは書店とお客さまの間にある種の連帯感、絆らしきなにかが生まれるのではないだろうか。
 
 那須ブックセンターは、お客さまからお客さまへの本の推薦という形を使って、そのようなドラマを伝えようとしているように思われる。ということは、書店としてのジャーナリズム精神の一端がここに見出せるのではないか。私にはそう感じられた。実際、谷店長はこう話す。
 
(POPに書いてある)お名前の方はすべてお得意さまです、そしてお互いに名前を知っている方が多く、あの方のおすすめなら買おうという方が多くいらっしゃいます。読んだ本、好きな作家の話などして、「じゃあ、おすすめのコーナーつくっちゃうね、名前使いますよ」と了解をもらってやってみたら、(本人たちがSNSなどで宣伝してくれ)反響も高く、売上げも良好です。
 
 このことを谷店長は、一言で「お店をお客さま同士の情報交換の場にする」と言い切っている。
 
 同店のオープン後、那須町などの住民有志によるボランティアチーム「那須ブックセンターを応援する仲間たち」(鐘ケ江惇代表)が結成され、イベントやブックフェアとか那須ブックセンターの情報を地域内に知らせるサポート活動を行っている。1年に4回発行、現在5号(2019年春号)まで発行している「仲間たち通信 那須本屋だより」もそのひとつとなろうか。
 
 会を代表して鐘ケ江惇氏から、以下のような那須ブックセンターへの期待コメントが寄せられた。
 
那須ブックセンターを応援するお客さまの声や新聞・テレビ、フェイスブック・ツイッターなどの紹介記事に大感謝です! これらを励みに、那須ブックセンターが那須高原の文化発信基地としての存在でありつづけられるよう、「仲間たち」とさらなる応援に拍車を掛けつづけて参りたいと思います。
 
 フリーの編集者である小中強志氏も、読者に代わって語っている。
 
すぐに欲しい本なら他の入手手段もあるし、専門ジャンルで探したいなら大型書店に行けばいいが、ここには視野の中に必ず「変な本」があります。普段は関心が向かないそんな本に出会えることが最大の愉しみです。
 
 これらの期待を受ける形で、店長の谷邦弘氏は、お店の今後を展望しつつ、つぎのように述べた。
 
今後の展望として安定収入の確立、公的機関への営業での売上、ボランティアにお願いする配達網、定期予約を増やす等ですが、お店から出る時にお客様が自然と笑顔になる店にすることですね。
 
 那須ブックセンターはオープン1周年に当たり記念イベントを実施した。地域の古書店が集合した古本祭りや、目の前にある那須中学校のブラスバンドによる演奏会、那須町在住のサックス奏者、木村義満さんによるライブ、ガラポン抽選会などである。これらはすべて同店のTwitterで写真と動画を見ることができる(https://twitter.com/nasu_bookcenter)。
 
 高原のブックセンターらしからぬ、賑やかでドラマチックな風景がここにあった。まさしく同店は、「ひとりの人間ドラマ」「人と本のドラマ」「人と人のドラマ」「人と地域のドラマ」など、人間の機微を伝えてやまない書店なのである。
 
 本を販売するという行為を通し、ドラマとロマンを見つけたり、つくったり、伝えたりすることこそ、書店本来の仕事ではないか。那須ブックセンターの売場から発せられるそのような声が、私の耳から離れない。
 

 
 以下に、一部ではあるが、書店道場の第5クール以降にご参加いただいた方々の推薦コメントを掲載させていただく(氏名50音順)。ご受講いただいた皆様に心から感謝申し上げたい。
 
青木大泰氏 笠原書店岡谷本店リーダー
 「書店道場」は講師の日々の書店業務での莫大な体験・経験を元にされた「書店を運営する」ためのエッセンスがつまった講義でした。その蓄積されたデータとノウハウを惜しみなく伝える、そんな素晴らしい講義を今回、自分が受けることができたことは本当にラッキーでした!
 書店の運営において基礎から応用まで日々の業務の見直しすべき箇所がたくさん見つかり、目から鱗の内容の話も山ほどありました。そんな体験は書店に勤めて13年、初めてでした。ぜひ、大勢の方がこの道場に参加して「この時代に売上げを上げる、取り戻す術」を身につけリアルの書店が社会でもっと元気にそして貢献するようになって欲しいです。
 
小井田茂氏 TSUTAYA幸手店店長
 講師の長年の経験に裏付けられた言葉の一つ一つにはっとさせられる。人がいる限り本は無くならない。書店の未来への希望の光が見える。まずは出来ることからコツコツやってみよう!
 
鈴木啓之氏 伊勢治書店ダイナシティ店店長
 今回参加させていただく際に、「いまさら勉強できることがあるのだろうか」と半信半疑で臨みました。結果、多くの学びと異なる考え方、見かた、そしてまるで秘伝のような大変貴重な資料を手に入れることができました。道場での学びをもとに早速改善策を計画していきたいと思います。書店道場では書店経営のための膨大なノウハウが伝授されます。そのすべてが売上に直結しています。心して臨むべし。
 
清宮慎太郎様 ブックエースBOOK商品部部長
 書店の売上はまだまだ改善できる!
 売場、運営、注文、展開まで細やかに、ご指導頂けました。
 私達の常日頃考え、実行している事に対し、確かなプラスが図れると強く思いました。
 再度書店員として学習し直すと見えてくることが非常に多いと思いますので、売上が上がらなくて困っている、競合店に押されて困っている書店員さんは、是非この講義を受けて頂きたい!!
 
中内義人様 ブックエース 業務改善推進室課長
 売上はまだまだ上がる!と同時に生産性を向上させるポイントが盛り込まれた講義です! 基本の徹底が大事、即ち、作業標準の必要性、捻出した時間で売上に繋がる攻めの展開をする!そして、経験知を用いたイノベーションの継続! 書店道場でリブート!
 
野島宏幸氏 ブックスタマ管理本部 店舗運営部 商品政策担当
 経験と実績を積み重ねて来られた方ならではの講義でした。
 長年かけて構築されたノウハウを惜しげもなく伝授していただき、ありがたいの一言に尽きます。
 出来ること、やるべきことがまだまだあるのだと思い知らされ、売上低迷を出版不況だから仕方ないという決めつけに近い思考に風穴を開けられました。
 ありがとうございました。
 
檜沢隆史様 ブックエースTSUTAYA春日部16号線店
 忘れかけていた書店の在り方、今後進めていくべき方向を改めて学ばせて頂きました。
 現場で行っていくべき業務の見直しを行うにあたり、講師の経験は非常に参考になる物でした。今回書店道場に参加させて頂いた経験を仕事に活かして行きたいと思います。また、機会があれば是非経験談・ノウハウをお聞かせいただきたいと思います。
 
森文吾様 八重洲ブックセンター営業部長(受講時)
 まずもって時間が足りない。
 講師の豊富な経験と圧倒的な知識に裏付けされた絶対法則は、今日からでもすぐに実践できることばかりであるが、知れば知るほど、やればやるほど、次はどうしたら良いのか、さらに売上を上げるには何をすべきかと考えざるを得ず、3日間の講義では全く物足りない。ただ、そういった姿勢こそが今回受講した一番の収穫であると思えば、自分にとっての書店道場はまだ始まったばかりと言えるかもしれない。
 
D氏Y書店
 3日間書店の仕事のイロハから売り上げを伸ばす為の基本からともすれば、商売とは何かを忘れてしまいがちになる事を改めて考えさせて頂いた勉強会でした。
 そして、店の運営に必要な事が学べた事は大変有意義でありました。勉強会の3日間は私にとって貴重な時間でありました。もし、売上で悩んでいる方がおられましたら勉強会に参加されてはいかがでしょうか。
 
X氏W出版社
 理論だけではなく、全てが実践に裏付けられた内容で、非常に奥深い講義でした。
 何か課題が生じた時には、考えに考え抜いて実際に試してみて、その結果を確認してまた次の課題に向かって行く。書店だけではなく、どんな仕事にも通じることだと思いました。
 3日間では到底消化しきれない密度の濃さでしたので、今後も都度頂戴した教材や書籍を丹念に読み返して、少しでも自分のものにしていきたいと思っております。
 
出版社B社G氏
 書店道場は出版社の営業にもオススメです。書店現場で得られた経験と、豊富な知識から構築された、書店の売上を上げるための武器を教えていただきました。書店を見る時に、今までとは違ったいろんな視点で見られるようになりました。これからの営業にぜひ役立てます。
 
 

(書店・出版コンサルタント 青田恵一)

(2019年4月18日更新)
青田恵一プロフィール
福島県出身。書店勤務などを経て、現在、株式会社青田コーポレーション代表取締役。書店 ・出版コンサルタント。中小企業診断士。
主著『よみがえれ書店』 『書店ルネッサンス』『たたかう書店』 『棚は生きている』『たたかうお店のバイブル13冊』『理想の書店』(すべて青田コーポレーション出版部発行:八潮 出版社発売)
               
購読のお申込は
↓コチラから↓
購読お申込み
「新文化」案内
会社概要
アクセス・地図
出版物
お問い合せ
メール送信
リンク

新文化通信社