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第25回 レンタルオフィスブックストアへ、乾坤一擲の勝負をかける神楽坂の書店 〜「BOOK&OFFICE」文悠(1)
 書店道場の第10クール、第11クールは6月5日と19日、7月3日と17日に実施される。それぞれ若干名だが、まだ受講可能である(詳細はこちらのチラシをご参照いただきたい)。このつぎのクールは10月以降となるので、今回のご参加を強くお勧めしたい。
 出版社の方々のご参加も増えてきた。書店で自社商品の売上をなんとか上げたいと考えておられる方は、営業、編集、製作、宣伝などの部署にかかわらず、書店道場にぜひおいでいただきたい。
 
 今回から東京・神楽坂の老舗書店、文悠のレポートがスタートする。本稿はその1回目である。
 
「和風モダン」を象徴する店舗ファサード
 
 なんと心ゆかしく、かつデジタルなファサードだろう。
 
 地下鉄東西線・神楽坂駅の東側改札を出ると、早稲田通りの並木道。赤城神社の鳥居を眺めながら、商店街のゆったりした下り坂を降りていく。歴史の面影を感じさせる古風なお店も立ち並ぶなか、数分のところにその店はたたずんでいた。創業は昭和21年2月。この地、神楽坂の名物書店――文悠である。木仕様で格子戸風の入口部分は、まさに神楽坂そのものをまとっていた。
 
 文悠はこの3月に改装オープンしたばかり。本だけでは縮小改装となる。同店総務部の橘大介氏が書店道場の第1クールにご参加いただいたこともあり、改装後すぐ伺った。
 
 改装前は1階40坪、地下1階20坪、合計60坪だった。それが本は1階のみ、地下はあっと驚く新業種、レンタルオフィスと相成った。文悠は、勝ち残りのため、臆することなく、乾坤一擲の勝負をかけたのである。
 
 では改装は、なにをどうしたのだろう? 以下、そのことをみていきたい。まずは本の部門のレポートから。
 
 
(1)本の部門について
 
1. 本部門の改装プロセス
 
 改装前のフロア構成は1階が雑誌、文芸・人文書、ビジネス書、新書、実用書、児童書、学参・辞書、地下が文庫とコミック。文悠は改装で、1階各ジャンルのスペースを縮小し、地下の文庫とコミックを吸収した。雑誌のスペースを1割減、文芸・人文書を半減するなどで、生まれたスペースにこの2ジャンルを収めたのである。
 
 文庫とコミックという比較的集客しやすい2ジャンルを1階に移した結果、売場面積は縮まったにせよ、集客力は事実上、高まったといえよう。一気に客足をつかむ算段があったのかもしれない。
 
 
 その結果、本の売場面積が3分の1も減ったのに、売上は1割減にとどまった。しかも1階だけで比べると、売上は2割近くまで伸長している。
 
 では主要ジャンルの売上はどうなったのか? スペース2割減の雑誌が売上マイナス5%、6割減のコミックがマイナス15%、7割減の文庫がマイナス2割という結果になった(スペースが変わらなかったビジネス書は売上増が続いている)。
 
 各ジャンルの売上に対するスペースの割合(売上構成比÷スペース構成比)を表す売上・スペース比率は、多くのジャンルでアップした。また、各ジャンルとも総じて商品回転率が高くなり、効率がよくなったことも一目瞭然。本の売場改装は成功したと総括できよう。
 
 
2. 改装コンセプト
 
 改装のコンセプトは、代表取締役の橘陽司氏によれば「和風モダン」である。その象徴が一新された店舗ファサードだ。これまで雑誌中心に展開されていた入口部分は、すでに記したように、日本風の雰囲気が醸し出され、神楽坂の街並みイメージと一体化している。ここを入るとなにかが起こる、という予感めいたものも察知できる。
 
 趣き深い料亭を想わせる縦長の木の柱が9本。それらのなかほどに、驚嘆するなかれ、和のテイストとは対極のデジタルサイネージが設置され、写真や映像、キャッチ情報などの電子映像が流れていた。その前に立つと、得もいわれぬ不思議な感覚に襲われる。このビジュアル・インパクトを体感せよ、という声が聞こえてきそうである。
 
 この電子看板には絵、イラスト、音、音楽、画像、動画といった情報を発信できるため、将来は地域の仲間や様々な店舗、企業に利用してもらうことも構想している(橘大介氏)。
 
 文悠の顧客は、地域住民や勤務者、観光客が中心。これらに加え、外国人の来街者など新しいお客さまはもっと増えるだろう。古今と和洋のイメージを融合させた店舗ファサードはロマンティックで、新しい時代にふさわしい輝きを放っている。
 
 
 拝見した範囲でとらえると、「和風モダン」という基本コンセプトから3つの実務ポイントが派生する。神楽坂ブランドの発信、オリジナル商品の継続販売、拡販体制の強化である。これらは、それぞれに、あるいは互いにあいまって、店舗の集客という磁石効果を発揮している。
 
 ひとつずつ当たっていこう。
 
●神楽坂ブランドの発信
 
 はじめの神楽坂ブランドの発信とは、神楽坂の街のブランドを、お店のブランドに組み込むことにほかならない。外装で訴え、お客さまを店内に誘導したあとは、やはり商品勝負になる。商品勝負の決め手のひとつ、文悠における神楽坂ブランドの展開を、本と物販の両面からみていく。
 
 最初は店頭の売り出しコーナーである。同店は、入口の前部分で雑誌やムックを中心に、神楽坂本を売り伸ばし、売り尽くす体制を整えている。ここでの展開は道行く人々、とくに観光や散歩で訪れた方々に、神楽坂を知る格好の情報を提供することとなろう。
 
 つぎは、書籍と雑誌による神楽坂の本棚である。この本棚はレジ横に配される。棚6段に様々な関連書が面見せ中心に展開されていた。渡辺功一著『神楽坂がまるごとわかる本』(けやき舎)、『江戸・東京 歴史さんぽ1』(トゥーヴァージンズ)、寺田弘著『私の新三都 京都 金沢 そして東京は神楽坂』(天地人企画)が際立っている。
 
 POPに「ハンディな神楽坂ガイドの決定版!最新の店舗情報を多数掲載!」というキャッチが書かれた、いきいき編集部編『神楽坂さんぽ』(いきいき)は、同店の隠れたロングセラーである。見本には「ご自由にご覧ください」と記されている。『神楽坂まちの手帖』(けやき舎)のバックナンバーも。
 
 ただ神楽坂本は2年ほど経つと出版社の在庫切れ銘柄が増えるという。神楽坂本の拡販に意欲満々の橘大介さんは「あればまだまだ売れるのですが」と悔しがる。
 
 ここでは日本で唯一の演芸専門誌である『東京かわら版』(東京かわら版)の最新号が5面展開、集中販売されていた。文庫用のねこブックカバーやねこ磁石など、猫グッズも展示販売中。
 
 
●オリジナル商品の継続販売
 
 ふたつ目はオリジナル商品への挑戦。神楽坂の本棚に、文悠だけで販売するオリジナル商品が存在したのにはびっくりした。それが北野豊著『漱石と歩く東京 東京大好きの地理屋さんが書いた文学散歩』(雪嶺叢書)である。
 
 本書のカバーは目次を兼ねている。たとえば「第1章 牛込を歩く3〜15ページ、第2章 小石川を歩く17〜35ページ」といった具合だ。
 
 この本は2011年6月1日に発売されて以降、同店で安定した売行きを続け、毎年、岸見一郎・古賀史健著『嫌われる勇気』(ダイヤモンド社)と同等の販売数を勝ち取っている。当面、郷土本でのロングセラー第1位の座は揺るぎそうにない。オリジナル商品の強みである。
 
 
 オリジナル商品は本だけでなく物販にもあった。入口すぐにあるレジカウンター横の特製ラックで、商店街のオリジナル商品である神楽坂名物のぽち袋(3枚入りで350円)や、文悠オリジナル商品の神楽坂ポストカード(150円)などがアピールされている。
 
 10種類ほどあるポストカードには写真と水彩画の2タイプがあり、20年以上前に、同店がそれぞれ別の制作者に要請して商品化した。地元客だけでなく神楽坂を訪れる観光客にも好評という。文悠のコアファンが、こうして増えていくのは疑いないだろう。
 
 これらのオリジナル商品について、ねらいを橘陽司氏はこう語っている。「利益率の向上に加えて、来店しないと入手できない点をウリモノにしたいと考えています。神楽坂の現在と歴史の情報を提供できる拠点として、当店を位置づけるうえでも大切な商品です」
 
 
●拡販体制の強化
 
 そして拡販体制の強化である。以前より組まれていた拡販体制は、本の縮小改装を機により強化された。大きめの雑誌新刊台は入口を入ってすぐの場所にあり、東京堂書店の軍艦¢艪ノ近い存在感がある。神楽坂に関する雑誌やムックの大々的な拡販はここでも遂行される。
 
 一般単行本の新刊台はレジカウンターのすぐ前。ベストセラーや新刊の拡販舞台である。
 
 文庫の拡販スペースは、この度、雑誌売場の先頭に設けられた。ここで多面展開やブックフェア、出版社フェアなどが展開される。コミックの新刊台はレジカウンター前に接している。この2ジャンルの新刊はとりわけ足が速いため、店頭に近い場所での展開が有益である。同店はその微妙な案配がわかっているのである。
 
(次回につづく)
 

(書店・出版コンサルタント 青田恵一)

(2019年5月23日更新)
青田恵一プロフィール
福島県出身。書店勤務などを経て、現在、株式会社青田コーポレーション代表取締役。書店 ・出版コンサルタント。中小企業診断士。
主著『よみがえれ書店』 『書店ルネッサンス』『たたかう書店』 『棚は生きている』『たたかうお店のバイブル13冊』『理想の書店』(すべて青田コーポレーション出版部発行:八潮 出版社発売)
               
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