出版業界 専門紙 新文化 出版業界スケジュール 情報掲示板 連載コラム 編集長のページ
第26回 レンタルオフィスブックストアへ、乾坤一擲の勝負をかける神楽坂の書店 〜「BOOK&OFFICE」文悠(2)
 「書店道場」の第10クールが無事終了した。次は来月7月の第11クールになる(詳細はこちらのチラシをご参照いただきたい)。第11クールの2日目は、スペンサー・ジョンソン著の『チーズはどこへ消えた?』、その続編『迷路の外には何がある?』でおなじみの扶桑社様の会場をお借りする。
 書店道場は「書店の売上を必ず上げること」を目指す書店向けセミナーである。とはいえ、書店での売上を重視する出版社様も歓迎している。扶桑社様のご了解をいただき、今回も出版社様の参加が可能となった。実際の申込みも出版社様が増えている。書店で自社商品の売上を伸ばしたいとお考えの出版社様、営業マンであれ、編集の方であれ、どんな仕事の方でも、まだ2〜3人の余裕はあるので、ぜひご受講いただきたい。
(前回よりつづく)
 
 
 今回は神楽坂の書店、文悠レポートの2回目である。
 
3. 各ジャンル別レポート
 
 各ジャンルの売場状況について、雑誌、文芸・人文書、ビジネス書の3つをレポートしていく。
 
 
●雑誌と書籍の融合
 
 雑誌は入口を入ってすぐの左側に1連、中央の通りに2連の計3連となる。入口左側には週刊誌とコミック誌、女性誌、中央通りの右側は男性誌、芸能・音楽誌、スポーツ誌、アウトドア・車誌、数独・パズル誌、NHKテキスト、左側は料理誌、健康誌、ファッション誌、総合誌、ビジネス誌、PC誌という構成である。客層別、ニーズ別にわけられ探しやすい。
 
 売場縮小を踏まえ、書籍は実用書などを雑誌に組み入れ融合させた。料理、芸能・音楽、スポーツ、モーター、アウトドア、パズル、ギャンブル、PCといったテーマで、雑誌と書籍が組み合わされている。
 
  融合を図る他の書店と異なるのは、関連する書籍を平積みではなく、棚中心に揃えていること。書籍と雑誌を、同じ棚に隣り合わせているところもあれば、上下にわけている棚もある。出版関連誌の雑誌棚では、とくに編集系書籍が並列され、よく動いているという。
 
 稲泉連著『「本をつくる」という仕事』(筑摩書房)、NPO法人書物研究会編・板倉正子監修・野呂聡子ストーリー・絵『図書の修理 とらの巻』(澪標)、日本エディタースクール編『校正記号の使い方』(日本エディタースクール出版部)、野村保惠著『本の品格―電子書籍にも必要な校正読本』(印刷学会出版部)、平本久美子著『やってはいけないデザイン』(翔泳社)などが並ぶ。
 
 この周辺には旺文社、音楽之友社、新潮社、ベレ出版など多くの出版社が軒を連ねる。出版社だけではない。編集プロダクションや印刷会社、製本会社など出版関連事業所も少なからずある。そこに従事する人たちは皆、大事なお客さまだ。
 
 
●文芸・人文書
 
 改装により文芸・人文書の棚は12本から6本に半減した。半分に減った棚はどうなったのか。興味津々で眺めていくと、頭から新刊、エッセイ、女性向け読み物、小説、ノンフィクション、歴史、人文といった流れ。半減しても正統的な分類は維持された。
 
 注目されるのは、どの棚も5段中、3段から5段が面見せ展開となっていることだ。棚差し分が少ないため、なにを面出しするかが、売上を大きく左右する。その意味で面の商品は、厳しく選択されることになる。
 
 文芸・人文書棚で、とりわけエッセイやノンフィクション、歴史・人文書は見応えがあった。エッセイは暮らし・家事、アラハン(アラウンド ハンドレッド)、老いと死などのテーマで揃えられる。ノンフィクションでは新刊セレクト、ポリティックス、堀江貴文、歴史・人文書では天皇・皇室、新潮選書、日本史新書、万葉集、古事記、世界史、聖書、哲学などに力点がかかっていた。
 
 これらのテーマは、広い道から細い路地まで魅力的な神楽坂の書店らしく、大きいトレンドものから、小さいブームものまでが自在に織り込まれている。それぞれのテーマが、訪れるたびに入れ替わり、新陳代謝が図られているのも、この棚の特長といえよう。
 
 単品でみると、岩男忠幸著『日本のことわざを心に刻む』(東邦出版)、清水めりぃ著『ブラック企業の社員が猫になって人生が変わった話 モフ田くんの場合』(KADOKAWA)、竹内香予子著『家中スッキリ片づく!「つっぱり棒」の便利ワザ』(青春出版社)、保坂隆著『精神科医が教える ちょこっとずぼら老後のすすめ』(海竜社)などの選択が心を弾ませる。
 
 新刊の面見せや平積みの商品にもグッときた。池川明・上田サトシ著『いのちのやくそく』(センジュ出版)、池田達也著『しょぼい喫茶店の本』(百万年書房)、黒川伊保子著『共感障害』(新潮社)、平山周吉著『江藤淳は甦る』(新潮社)などのチョイスには、好球必打、追いつ追われつという単品オペレーションの妙を感じさせられた。
 
 
●ビジネス書
 
 ビジネス書売場はビジネスマンのニーズが高いため、棚5本がそのまま維持された。棚は前から新刊・おすすめ、デジタル・IT系、マネー、経営、DAF・資格・就職の順番である。ビジネス書棚の前には新書棚が設けられ、客層のマッチングが実現されている。
 
 ビジネス書のどの棚も、そのほとんどが面見せなのは文芸・人文書と同様である。やはり眼力がものをいうが、選ぶセンスは光っている。
 
 新刊・おすすめ棚では、安宅和人著『イシューからはじめよ――知的生産の「シンプルな本質」』(英治出版)、田中修治著『破天荒フェニックス オンデーズ再生物語』(幻冬舎)、中島孝志著『ミスよけ大全――失敗を予防するちょっとした仕組み160』(三笠書房)、ハンス・ロスリング/オーラ・ロスリング/アンナ・ロスリング・ロンランド著『FACTFULNESS(日経BP社)などが際立つ。
 
 続いて、デジタル系の棚。AI、ブロックチェーン、アマゾン、デジタル教育、シェアエコノミー、人生100年時代と、今日的な主題――旬なテーマを追う棚となる。新井紀子著『AI vs.教科書が読めない子どもたち』(東洋経済新報社)、波頭亮著『AIとBIはいかに人間を変えるのか』(幻冬舎)、スコット・ギャロウェイ著『the four GAFA 四騎士が創り変えた世界』(東洋経済新報社)に存在感があった。もちろん、リンダ・グラットン/アンドリュー・スコット著『LIFE SHIFT(ライフ・シフト)100年時代の人生戦略』(同)にも。
 
 
 つぎは自己啓発の棚。ここは生産性を問う本からスタートする。自分の仕事の生産性を上げることから、自らを高め、それが自己啓発ではという哲学が感じ取れる。井上裕之著『なぜ、あの人の仕事はいつも早く終わるのか?』(きずな出版)が、それを訴えかけている。
 
 そのあとに、明石ガクト著『動画2.0 VISUAL STORYTELLING』(幻冬舎)、佐藤留美著『仕事2.0 人生100年時代の変身力』(幻冬舎)、橘玲著『働き方2.0 vs.4.0 不条理な会社人生から自由になれる』(PHP研究所)といった本にビジネス関連書が続く。
 
 ビジネス2.0とは、おおむねWeb2.0の技術と発想から、ユーザーの参加やコラボによってつくられる新しいビジネススタイルを指す。こういう次世代の課題に食らいついて棚に反映させる姿勢は、積極性を感じさせる。
 
 自己啓発の品揃えはそのあと、ここ数年のトレンドを代表するものを1〜2点ずつ並べながら、和田秀樹著『「もう怒らない」ための本』(アスコム)、有川真由美著『一緒にいると楽しい人、疲れる人』(PHP研究所)、久賀谷亮著『世界のエリートがやっている 最高の休息法』(ダイヤモンド社)、藤井孝一著『インディペンデントな働き方』(三笠書房)、松本利明著『ラクして速いが一番すごい』(ダイヤモンド社)など、働き方改革に通じるものに代わっていく。品揃えのグラデーション! 働き方改革は「結局、残業代減らし」といわれるが、これを機に理想の働き方とはなにか、を考えてみようとする問題意識が、棚での揃え方に秘められている。
 
 
●エンタメセミナーDAF特設棚
 
 ビジネス書の最後の棚は、他店ではあまりお目にかからないエンタメセミナーDAF(ドランク・アカデミー・フェス)の特設棚である。これは従来型のビジネスセミナーとは一線を画したセミナーのことであり、エンタメ進化型、本編・懇親会一体型が特長という。
 
 文悠はこの講師陣の著作を結集して特設化した。
 
 主催している西澤一浩氏のブログテーマ、「DAFとは何か」の冒頭には「セミナー型エンターテイメントとかエンターテイメント型セミナーと言われる新しい形の学びの場。いや、学ぶというより感じろと。ノウハウよりもあり方重視。まずは飲もう!」とあった。少なくとも「まずは飲もう!」という呼びかけに大賛成といえば、やはりお叱りをいただいちゃうだろうか。
 
 この表示板がすごい。「いま勢いがあるビジネス本はコレだ!」という大文字のキャッチと「DAF」のデカタイトル。「魂のエンタメショー」というミニキャッチ。吹き出し風に「ぶんゆうに著者は駆けつけた! 魂のこもったPOPをひっさげて」とある。してみると、これらコーナーの看板やPOPは、DAFの方で作成したと思われる。
 
 なにはともあれ、講師のラインナップが目を引く。かつ、これらの講師はそれぞれが著作をもつ。
文悠独自のエンタメセミナーDAF特設棚
 
 棚は3段。最上段は大内裕コーナーで、『キャラがすべて!―メディアを使いこなして、自分自身を売り続ける方法』(きずな出版)、『小さなお店・会社、フリーランスの「テレビ活用」7つの成功ルール』(同文舘出版)などが面見せ中。『キャラがすべて!』が2面、力を入れていることがわかる。
 
 また、同じ棚にある原佳弘著『選ばれる力』(同)のPOPには説得力がある。
 
 
 研修講師・コンサルタント必見 年間100日以上登壇へ!
 「企業やエージェントが講師を選ぶ基準は?」
 「好かれる講師TOP3 リピートしない講師WORST3」
 研修会社社長が執筆!
 
 
 棚への貼付けPOPに、これらの文字が手書きで書かれている。著者作成のPOPだけに訴えるパワーが感じ取れる。著者POPはこれから方向のひとつかもしれない。
 
 次の棚には、水越浩幸著『これからの中小店は「動画」で販促・集客しよう!』(同文舘出版)、丸山久美子著『上手にあがりを隠して人前で堂々と話す法』(同)、眞喜屋実行著『お客さまがお店のことを話したくなる! クチコミ販促35のスイッチ』(同)、桑野麻衣著『思わずマネしたくなる 好かれる人の話し方、信頼される言葉づかい』(クロスメディア・パブリッシング《インプレス》)、同著『部下を元気にする、上司の話し方』(同)、長谷川孝幸著『仕事で損をしない人≠ノなるための行動改善』(同文舘出版)、朝倉真弓・信田さよ子著『逃げたい娘諦めない母』(幻冬舎)、大嶋利佳・朝倉真弓著『闘う敬語』(プレジデント社)等々々が勢ぞろい。
 
 このうち『好かれる人の話し方、信頼される言葉づかい』と『クチコミ販促35のスイッチ』にも著者POPが! 前者には「今年こそ話し方・言葉づかいで愛され、信頼されたいアナタにオススメします!!」、後者には「クチコミ集客ってなんですって!!」とあった。『仕事で損をしない人≠ノなるための48の行動改善』にはなんと著者の名刺が貼りつけられていた。コロンブスの卵である。
 
 3段目の棚にはアンディ中村著『嫌いな人がいなくなる』(同文舘出版)と石川和夫著『残業しないチームと残業だらけチームの習慣』(明日香出版社)につづいて大杉潤コーナー。『銀行員転職マニュアル 大失業時代を生き残る銀行員の「3つの武器」を磨け』(きずな出版)や『入社3年目までの仕事の悩みに、ビジネス書10000冊から答えを見つけました』(キノブックス)、『定年後不安』(角川新書)が揃う。そして、この独創的な棚は、横川由理著『「年代別」未来年表で早分かり! 50歳からの資産防衛術』(宝島社)で締めくくられる。
 
(次回につづく)
 

(書店・出版コンサルタント 青田恵一)

(2019年6月21日更新)
青田恵一プロフィール
福島県出身。書店勤務などを経て、現在、株式会社青田コーポレーション代表取締役。書店 ・出版コンサルタント。中小企業診断士。
主著『よみがえれ書店』 『書店ルネッサンス』『たたかう書店』 『棚は生きている』『たたかうお店のバイブル13冊』『理想の書店』(すべて青田コーポレーション出版部発行:八潮 出版社発売)
               
購読のお申込は
↓コチラから↓
購読お申込み
「新文化」案内
会社概要
アクセス・地図
出版物
お問い合せ
メール送信
リンク

新文化通信社