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第27回 レンタルオフィスブックストアへ、乾坤一擲の勝負をかける神楽坂の書店 〜「BOOK&OFFICE」文悠(3)
(前回よりつづく)
 
(2) 新規事業レンタルオフィスへの挑戦
 
和風テイストでデザインされた共有スペースの一角
 
1. レンタルオフィスに至る経緯
 
 地下1階のスペースをどう活かせばよいか。売場価値をどう上げればいいのか?
 
 文悠・代表取締役の橘陽司氏は、事業変革や事業創出への強い思いを、総務部の橘大介氏と共有し、時間をかけて案を練り込んだ。デジタルとネットの時代、すでに本だけ、いや物販だけでは難しい時代がきている。そうなるとサービス業への進出を考えなくては。といって何がいいだろう……。各方面から情報を集め、事業としての将来性や本とのマッチングを検討した。
 
 同店が入る自社ビルは、他の会社に部屋を賃貸していることから、スペース貸しという案が選択肢に入ってきた。とはいえ、スタジオやセミナールームなど、様々なスタイルが存在する。ゆくゆくは年間契約という形で安定収入を図りたい。その結果、これがベスト、そう結論づけたのがレンタルオフィスだった。事業として部屋を貸している利点を活かせるとも考えた。実務自体になじみがあることは強みともいえよう。商機≠ヘここにあり!
 
 だが、地下のフロア面積は、旧書店スペースが20坪、事務所などが10坪で合計30坪の規模。ここにどのくらいの大きさで何部屋取るか。そこが問題として浮かび上がった。おのずとメインターゲットをどう設定するかも急務となる。
 
2. レンタルオフィス事業のメインターゲットと展開方針
 
 部屋の大きさからみて、対象は中小企業か個人事業主になる。それを踏まえレンタルオフィス事業もコンセプトも深く考え抜いた。
 
 メインターゲットは個人事業主。とりわけ、これから起業を考えている人を的にすることとした。加えて、デジタル・ネット系の方々や原稿を書く人々も視野に入れる。
 
 
 そうなると部屋の形や大きさも自然に決まる。形はブーススタイル、大きさは1人用から3人用までの3タイプ。そこから導き出して部屋は9部屋とした。「1人用が2室、2人用が5室、3人用が2室」である。
 
 この9部屋以外にも、4〜5人用の応接室と、5〜20人用のラウンジ的な雰囲気の共有スペースも用意した。共有スペースには机やワークデスク、ホワイトボード、ディスプレイ、コピー機などが設置され、ビジネスパーソンの利便性を高める。ワークデスクは単独で借りることも可能。この共有スペースは意外に広いため、講座やセミナー、ワークショップ、トークショーのほか、書店とのシナジーを生かし読書会も想定しているという。
 
 
 ブースレンタル料はすっきりしている。個人契約が1人月額4万円(税別、以下同様)で、これに共益費が加わる。2人は8万円、3人は12万円。加えて、24時間365日利用できるバーチャルプラン(月額3万円)、2時間2000円からの一時利用プランなど、各種メニューを用意した。詳しくはBOOK&OFFICE文悠のサイトから料金・プランをご参照いただきたい。
 
 同店のアピールチラシには、冒頭でオフィスレンタルの特長が3点あげられている。
 
 ●書店プロデュースならではの契約室内読み放題サービス
 ●アクセスの良い神楽坂の立地
 ●スマートロックやお知らせ通知、本のコンシェルジュ機能を備えたスマートフォンアプリ
 
 3点目について質問すると、レンタルしている部屋の鍵は、スマホを活用したスマートロック方式で、利用者への連絡や本の相談も、スマホのアプリを使っているとのこと。
 
 そのあとチラシの文章は「施設内は和モダンのデザイン、オリジナルのセキュリティシステムを導入。地域のイベントやビジネス交流の機会をもち、皆様のお仕事やライフワークの一助となることを願っております」とつづき、レンタルオフィスが顧客と地域を重視した事業であることを、高らかに宣言している。
 
 これらの施策の底には、界隈性を店内に取り込み、いわば神楽坂の界隈物語≠つくろうという意志とロマンが秘められていると思われるが、いかがだろうか。
 
 
3. レンタルオフィス事業のスタート状況
 
 ではこのレンタルオフィス事業のスタートはどんな状況だろう。
 
 橘大介氏によると、事実上、5月下旬となったオープン以降、同店のレンタルオフィス事業は徐々に認知され、一時利用者が増えてきた。最近は1日1回、つまり毎日、予約が入っている。
 
 部屋でいうと応接室で2時間レンタルのケースが目立つ。といって1時間や半日と言うお客さまも少なくない。お客さまの傾向について、橘大介氏は近辺の利用者が中心という感触を得ている。
 
 申し込みはインターネットからが9割を占める。主要な宣伝ツールはそのインターネットとアピールチラシである。インターネットは自社サイト(BOOK&OFFICE文悠)を自主運営するほか、レンタルオフィス業界のポータルサイトも活用している。
 
 店舗絡みでは店頭ファサードの電子看板で、レンタルオフィスの画像を流したり、カラーのチラシをお店のレジカウンター前で配布している。これまでに1000部はさばけたとのこと。
 
 書店である文悠のレンタルオフィス事業は、確かな一歩を踏み出したといえよう。
 
 
 橘大介氏に、レンタルオフィスと本との相乗効果について伺った。氏によると、まだ企画段階であるが、ビジネス英語の教師が、文悠のオフィスを借りるに当たり、テキストとして、『公式TOEIC Listening &Reading問題集』シリーズ(国際ビジネスコミュニケーション協会)を、文悠から購入するという。これもシナジー効果による売上げだ。
 
 氏は、レンタルオフィス事業を成功させるため、地域ニーズを改めて探るうち、商圏内で30代から50代のホワイトカラーが増えていることを発見した。現在、この層に向けてなにかアクションを起こせないかと構想中である。
 
 橘大介氏は、さらに「オフィスレンタルはイベントで使われることも少なくありません。一方で書店はイベントを突破口のひとつにする店も多いと思います。オフィスをレンタルすることが本の購入に結びついたり、オフィスでの活発なイベントにより店の固定ファンが増えたりすることもあるでしょう。そう捉えると、オフィスレンタルという事業は書店に馴染みやすいのではないでしょうか」とも語っている。
 
 
まとめ
 
 文悠のホームページはお洒落でかっこよい。
 
 最初に「文豪たちの下駄のおと」と大きなキャッチが出現して、そのあとに同店のメッセージが発信される。
 
 
 坂道の多い神楽坂。
 多くの横町や路地があったり、神社やお寺も多く、情緒あふれる町並みは、 ただ歩いてるだけで知的好奇心が刺激されます。
 かの文豪たちも、石畳の坂を上がったり下ったり、
 
 このあとのメッセージは、サイトをご覧になっていただきたい。ついで表示されるのは「文悠書店の守りネコ紹介」コーナー。「神楽坂で生まれ育った双子のネコ」の「ぶん」と 「ゆう」。しおりになってレジ前にあることがセリフ化されている。最後に神楽坂の街そのものが愛情深く紹介されている。とくに「文豪たちが愛した街 神楽坂」は出版人必見の箇所といえる。これらは橘大介氏による力作である。
 
 
 改めて述べると、文悠の創業は1946年(昭和21年)2月である。店のサイトには「一面瓦礫の中から、日本『文』化よ『悠』久なれ、という願いをこめ『文悠』は開業致しました」とある。
 
 文悠は元来、固定ファンが多い書店である。お客さまへかけがえのない場所≠提供しつづけてきたからである。
 
 そのことは2015年9月1日に刊行された『目で見る新宿区の100年』(郷土出版社)の予約状況をみればわかる。税込み定価9990円という高価格にもかかわらず、驚くなかれ、156部の予約受注を勝ち取ったのである。店売売上を含む実売数は約200部にも及ぶ。
 
 
 重ねていうなら、店全体のコンセプトは「和風モダン」と設定している。その一環として、すでに触れた店頭イメージも、街並みに合わせ神楽坂の街と同一性を確保した。この外装改革が功を奏し、新規客が増えてきたことも注目される。
 
 今回の改装を店舗全体としてみると、いわばレンタルオフィスブックストアである。小売業とサービス業の複合業態となる。検討に検討を重ね、行き着くべきところに行き着いたといえる。強靭な意思で試行し断行する姿勢には瞠目せざるを得ない。
 
 この度の決断と今後について、代表取締役の橘陽司氏は以下のように展望している。
 
 
 文悠が目指すのは、価値ある本物の個人・法人、商品、技術、文化を神楽坂から世に送り出せるようサポートし、その場を提供することです。弊社の理念もそこに反映されています。
 
 ついで総務の橘大介氏もこう語る。
 
 
 「文化よ悠久なれ」という企業精神は弊社がこれからも大切にするものです。時代の移り変わりとともに、文化が形となっていくプラットフォームも変化していくでしょうから、しっかりとその変化を見極めていきます。
 
 これからの書店は、本に加え、物販の各業種だけでなくサービス業へのチャレンジも求められる。サービス業は利益構造を改善できる利点もある。現在、自店が持っている強みや経営資源をにらみながら、身の丈にあった新しい打ち手に挑戦していくことは重要だろう。その時、神楽坂で新しい事業に、乾坤一擲の勝負をかけている文悠の姿はひとつの目標、モデルとなるに違いない。
 

(書店・出版コンサルタント 青田恵一)

(2019年7月25日更新)
青田恵一プロフィール
福島県出身。書店勤務などを経て、現在、株式会社青田コーポレーション代表取締役。書店 ・出版コンサルタント。中小企業診断士。
主著『よみがえれ書店』 『書店ルネッサンス』『たたかう書店』 『棚は生きている』『たたかうお店のバイブル13冊』『理想の書店』(すべて青田コーポレーション出版部発行:八潮 出版社発売)
               
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