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第28回 ゴーイングコンサーンを目指して 〜山梨の老舗・朗月堂書店(1)
 今年6月、NPO法人「本の学校」の企画(「『売り場クリニック』で売上をあげる〜朗月堂書店・店舗実習〜」)で、私が講師を務めることになり、山梨の老舗、朗月堂書店を再訪した。創業120年近い老舗書店の胸を借り、書店並びに出版関係者、読者の方も含め、大いに勉強させていただいた。改めて感謝申し上げたい。
 思えば、最初訪れたのは、店長の中山大樹氏が書店道場第4クールに参加して下さったとき以来、2年ぶりになる。その際のレポートは本コラムの7回8回でご報告させていただいた。
 同店は2018年5月、改装に挑み、新しく生まれ変わった。その姿は以前と比べ、お客さま第一の方針がより明確になっている。以下、改装を機に、劇的にバーションアップした新刊ゾーン、山梨の本棚、文芸書のエッセイ・ノンフィクションを中心にご報告していきたい。
 
 
 朗月堂書店は―多くの人が知るところであるが―A館、B館、C館という3つの館から構成されている。改装前、A館はコミック・学参、B館は雑誌と実用書、C館は残りの児童書、文芸、文庫、新書、専門書であった。この辺りどう変わったのか。興味津々で店のなかに足を踏み入れた。まずは書籍の主要館、C館から。
 
1. 新刊ゾーン
 
ダイナミックな新刊ゾーン
 
 C館に入ったとたん、ふたつのインパクトに襲われた。ひとつは、入口からすぐ近くの什器2架4連8本で構成された新刊ゾーンである。もうひとつは、左側壁棚に大きく展開される「山梨の本と歴史」棚(以下「山梨の本棚」)だった。
 ダイナミックな新刊ゾーンは、一般書店ではめったにお目にかかれない。正直感動した。新刊は、リアル書店のライバルである新古書店やネット書店、電子書籍などにとっては弱点になる。新古書店に新刊はそう多くないし、ネット書店や電子書籍では、本物の紙の本には直接手で触れられない。その新刊の強化は、書店がこれらの存在に伍していく武器のひとつになること疑いない。
 また、新刊は様々なシーンで、人と本との出会いを促すものである。大きなスペースを確保することで、お客さまは新しい本と出会う機会が格段に増えていく。つまるところ新刊は、新しい読書への呼び水になるのである。
 にも関わらず、大きい新刊棚を持つ書店が少ないのは、ベストセラー確保、適切な陳列場所を含めた新刊へのこまめな対応、なにより置くべき商品の選択という困難な問題が立ちはだかっているからである。朗月堂書店はこの難問に、しっかり腹決めして臆することなく挑戦した。マーケットを切り開かんとする、読者本位の素晴らしい対応! 素直に拍手を送りたい。
 
 
 新刊ゾーンを構成する2架は、手前の1架が一般ジャンル、奥の1架が概ね専門ジャンルになる。
 一般ジャンルの小分類表示は、前方からミステリー・時代小説、女性作家・男性作家、反対側が海外小説・文芸その他、エッセイ・ノンフィクションである。専門ジャンルは同じく前方からビジネス書、法律・経済・金融、反対側が歴史・哲学・心理、理工書・実用書・その他という流れ。
 関連性にこだわった堅実な構えといってよい。さらにいうなら、一般ジャンル、専門ジャンルそれぞれに、需要性が高いミステリー・時代小説とビジネス書からはじめるのは、お客さま基準といえまいか。
 特設棚風につくられた棚割りも工夫が凝らされている。新刊の棚割りという意味において、海外小説・文芸その他棚の海外ノンフィクションや文芸評論・その他、エッセイ・ノンフィクション棚の旅・食エッセイ、歴史・哲学・心理棚の政治・社会問題(海外)と同(日本)などに新鮮さを感じた。
 
 
 単品のセレクトも大いに刺激的である。一般ジャンルのエンドでは、キム・スヒョン著『私は私のままで生きることにした』(ワニブックス)とチョ・ナムジュ著『82年生まれ、キム・ジヨン』(筑摩書房)が目を引く。
 以下、海外小説・文芸その他棚以降について、小分類別に単品を当たっていきたい。【海外小説】では、ミチコ・カクタニ著『真実の終わり』(集英社)、マーロン ジェイムズ著『七つの殺人に関する簡潔な記録』(早川書房)、リン・トラス著『図書館司書と不死の猫』(東京創元社)、カール・ホフマン著『人喰い』(亜紀書房)、【文芸その他】では、岡本一平・名取春仙・仲田勝之助著、春原史寛解説『漫画と訳文』(国書刊行会)、奥野卓司著『鳥と人間の文化史』(筑摩書房)、頭木弘樹編『絶望書店』(河出書房新社)、澤村修治著『ベストセラー全史(現代編)』(筑摩選書)、【エッセイ・ノンフィクション】棚でも、岩本光弘著『見えないからこそ見えた光』(ユサブル)、小林雅俊著『石、人を愛す』(コパニカス)、吉玉サキ著『山小屋ガールの癒されない日々』(平凡社)、ヘンリー・デイヴィッド・ソロー/ジョン・ポーサリーノ著『ソロー「森の生活」を漫画で読む』(いそっぷ社)などに手が伸びた。
 
 
 専門ジャンルでも、【ビジネス書】では、光成章著『エビデンス仕事術』(SBクリエイティブ)、野口敏著『大事なことは3語で伝えなさい』(PHP研究所)、尾藤克之著『3行で人を動かす文章術』(WAVE出版)、WebDesigning編集部編『Webビジネスを勝利に導く数字力!』(マイナビ出版)、【法律・経済・金融書】では、小林裕亨著『反常識の生産性向上マネジメント』(日経新聞出版社)、安恒理(やすつね おさむ)著『もし孫子が現代のビジネスマンだったら』(フォレスト出版)、ハーバード・ビジネス・レビュー編集部編『テクノロジー経営の教科書』(ダイヤモンド社)、【歴史・哲学・心理書】では、小熊英二編著『平成史〈完全版〉』(河出書房新社)、門田隆将著『新聞という病』(産経セレクト)、平原卓監修『マンガで実用 使える哲学』(朝日新聞出版)、福嶋亮大著『百年の批評』(青土社)、【理工・実用書・その他】では、かめおか子ども新聞著『はい! こちら子ども記者相談室デス!』(新潮社)、崔燎平(さい りょうへい)著『50000人を占ってわかった 愛を叶える人 見離される人』(内外出版社)、長沼睦雄著『敏感すぎて生きづらい人の 明日からラクになれる本』(永岡書店)、根本裕幸著『いつも自分のせいにする罪悪感がすーっと消えてなくなる本』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)などに目が留まった。
 単品ごとに見ていくことで、この新刊棚が売れる本に、売りたい本と売るべき本を加え、均衡のとれた品揃えになっていることがわかる。
 陳列も新鮮。棚では棚差しと面見せを、平台では平積みと平台での面見せをうまく組み合わせ、さらに手づくりPOPも加味され、本を探すお客さまを飽きさせない。
 特筆すべきは、関連陳列を徹底することで棚の鮮度をあげ、それが売場鮮度、店舗鮮度のアップにつながっていることだ。その結果、売場はいつもフレッシュなのである。この底に、棚割りオペレーションへのチャレンジがあることは論を待たない。
 
2. 山梨の本棚
 
 つぎに食い入るように見つめてしまったのは、新刊ゾーンの左側の壁棚で繰り広げられる山梨の本棚である。改装前、山梨の本棚はC館中央部の壁棚に、文芸書と人文書のつなぎ役として2本あった。入口すぐの場所に移動しての大展開である。
 その奥に、江戸時代までの日本史を隣接させたのも成功している。山梨の歴史を軸に日本史をとらえ直しては、という朗月堂書店からの提案なのかもしれない。
 思えば、誰もが生まれた県、育った県、現在住む県、働いている県を持つ。それらの県が日本の歴史のなかでどのような役割を果たしているのか? そう考えると、みずからの県も全国の歴史も、より好奇心をそそられるにちがいない。そして歴史上の関心あるテーマを深く学ぶため、少なからずの関連書を読むことになるだろう。つまり、この郷土本と日本史がセットになった棚は、需要創造の棚なのである。
 
 以下、同店のハイライトシーンになった、パンチ力ある山梨の本棚を詳述する。
 この棚は、小分類に表わされる4つの視点から組まれている。それは山梨のガイド、山梨の歴史、山梨の読み物、山梨の著名人だった。1本ごとに見ていこう。
 最初は【山梨のガイド】である。ガイドといっても、そこは朗月堂書店、ただのガイドではない。1段目の郷土の本棚はDVDからはじまる。YBS山梨放送の「富士山 四季が織りなす霊峰富士(1〜2)」や「彩り 山梨の桜・水・紅葉」、ついで自然や暮らしに関するガイド読み物に入る。
 山梨郷土研究会の機関紙「甲斐」バックナンバー、長沢洋著『山梨県の山』(山と溪谷社)、南アルプス倶楽部編『南アルプスの花たち』(山梨日日新聞社)、村松昭著『南アルプス鳥瞰絵図』(信濃毎日新聞社)とつづく。
 次の段には、『南アルプス 歩きながら覚える』(山梨日日新聞社)シリーズ、村松正人著『やまなしの桜』(同)などの山日カラーブックスを含むシリーズもののほか、萩尾エリ子著『八ヶ岳の食卓』(西海出版)、山梨日日新聞社編『ちょこっと山梨のたちより温泉』(山梨日日新聞社)といった単品も多い。
 
 
 このガイド棚には、そらしど著『日本ワインに首ったけ(上下)』(新樹社)、三澤茂計・三澤彩奈著、堀香織構成『日本のワインで奇跡を起こす』(ダイヤモンド社)、ワインツーリズム監修『甲州・信州のちいさなワイナリーめぐり』(ジー・ビー)などで形成する山梨ワインの本コーナーも。
 加えてつぎの段には、山下昌彦著『甲府のまちはどうしたらよいか?』(山梨日日新聞社)、鈴木士郎ほか編『これでいいのか山梨県』(マイクロマガジン社)、四国がんセンター編著『がん専門病院からのメッセージ』(バリューメディカル)といった問題提起本が陣取る。
 そしてようやく棚は、NHK「ブラタモリ」制作班監修による『ブラタモリ』(KADOKAWA)の第2巻(「富士山 東京駅 真田丸スペシャル上田・沼田」)と16巻(「富士山・三保松原 高野山 宝塚 有馬温泉」)や山下孝司・平山優編『甲信越の名城を歩く 山梨編』(吉川弘文館)などのガイド読み物へ。
 この棚の本は、おそらく一般の書店で手に入りにくいものも、数え切れないほどあるだろう。改装前に比べ、直取引の点数はどれほど増えているのか。手間やコストより、出会いを演出しようという志を感じさせる棚たちである。
 
(次回につづく)
 

(書店・出版コンサルタント 青田恵一)

(2019年8月22日更新)
青田恵一プロフィール
福島県出身。書店勤務などを経て、現在、株式会社青田コーポレーション代表取締役。書店 ・出版コンサルタント。中小企業診断士。
主著『よみがえれ書店』 『書店ルネッサンス』『たたかう書店』 『棚は生きている』『たたかうお店のバイブル13冊』『理想の書店』(すべて青田コーポレーション出版部発行:八潮 出版社発売)
               
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