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第29回 ゴーイングコンサーンを目指して 〜山梨の老舗・朗月堂書店(2)
(前回からつづく)
 
活況を呈する「山梨の本棚」
 
 前回に次いで【山梨の歴史棚】である。
 この棚は、甲斐武田氏をテーマにした、ずらり並んだケース入りの本からスタートする。分厚い専門書は健在、それどころか着実に増えている。とくに歴史学者の秋山敬氏と歴史学者で古文書学者、図書館員の柴辻俊六氏の著作が目立つ。秋山氏の『甲斐武田氏と国人 戦国大名成立過程の研究』(高志書院)、『甲斐武田氏と国人の中世』(岩田書院)、柴辻氏の『戦国大名武田氏領の支配構造』(名著出版)、『戦国期武田氏領の展開』(岩田書院)等である。
 武田信玄、武田勝頼など武田三代の歴史書、川中島や長篠の合戦書も少なからず存在する。平山優著による『真田信繁』(角川選書)、『真田信之』(PHP新書)、『大いなる謎 真田一族』(PHP文庫)などの真田家ものも。棚割りはここから山梨県通史、山日ライブラリー、甲州史へとつらなっていく。
 そして棚は、網野善彦棚、中沢新一棚といった著名な学者棚に移る。網野善彦棚では、『無縁・公界・楽』『対談 中世の再発見』『日本中世の百姓と職能民』などなどの代表作を収める平凡社ライブラリーや、『歴史を考えるヒント』(新潮文庫)、『日本の歴史をよみなおす』(ちくま学芸文庫)とかの文庫作品のあと、『網野善彦著作集』(岩波書店)と『網野善彦対談集』(同)、このふたつの全集が展示される。
 中沢新一棚では『芸術人類学』(みすず書房)、『俳句の海に潜る』(小澤實との共著、KADOKAWA)、『吉本隆明の経済学』(筑摩選書)、『アースダイバー』(講談社)というように、こちらは単行本主体。ともに想像を上回る品揃えである。
 
 
 3本目の【山梨の読み物棚】は実業家、人物、スポーツ、作家、林真理子、神永学などの切り口で構成される。とりわけ活況を呈する棚といってよい。
 このうち実業家では小林一三、根津青山、人物では石橋湛山、大村智、中村紘子、米長邦雄、山本美香、ポール・ラッシュ、スポーツでは城福浩、平野美宇、横森巧、著者棚では適菜収、山田ルイ53世、マキタスポーツ、宮田律、作家棚では相川圭子、深沢七郎、山本周五郎にそれぞれスポットが当たる。
 ふと目に留まった松岡正剛・田中泯著『意身伝心 コトバとカラダのお作法』(春秋社)に心が動く。これらの間に発酵文化の棚もあり、小倉ヒラク著『発酵文化人類学』(木楽舎)、同著『日本発酵紀行』(D&DEPARTMENT PROJECT)といった本が陳列される。
 最後の4本目の【著名人棚】には、辻村深月、樋口明雄、『コウノトリ』(講談社)の鈴ノ木ユウ、『漫画ぼっちゃん』(岩波文庫)、『漫画吾輩は猫である』(同)の近藤浩一路などの著作が並ぶ。
 つぎは朗月堂書店から刊行された2冊の本。弥津勝次郎著『侠神 黒駒勝蔵』と和田元貴著『父母のためのサッカー入門』である。
 さらにそのつぎがクオリティの高い山梨の出版本コーナーで、山梨と出版の関係が追究される。木内是壽著『文豪の遺言』(アジア文化社)、橘田茂樹(きったしげき)著『太宰治と天下茶屋』(山梨ふるさと文庫)、山梨日日新聞社編『山梨の文学』(山梨日日新聞社)、『文芸思潮72号 特集:中上健次の文学世界』(アジア文化社)等が展示中。
 
 
 これだけ山梨の本を充実させたのは、同店が大変動の新しい時代を生きるお客さま、読者に対し、山梨の歴史と文化を知ることで、この地点から出発し、発想してほしいと呼び掛けたかったからであろうか。そんな気がしてならない。
 
 
3. 文芸書のエッセイ・ノンフィクション棚
 
 
 C館でひときわ、おもしろかったのは、文芸書のエッセイ・ノンフィクション棚である。
 朗月堂書店の広い意味でのノンフィクション棚は改装前から一新した。小分類表示はノンフィクション、食・旅エッセイ、老いエッセイ、コミックエッセイと簡潔であるが、内容は濃い。
 ノンフィクションは海外ミステリーの下段からはじまる。海外エッセイ・紀行文という特別あつらえの海外ノンフィクションを仲立ちにして、日本のノンフィクションの世界につなげていく。
 【ノンフィクション】の棚割りは、十代からの社会学、読んで学ぶ学習法、大人の雑学(算数・理科)、同(国語)、同(社会)、話のネタとつづく。それはつぎの棚のディズニー名言集、論語、菜根譚に流れ、ノンフィクション新刊棚になだれ込む。
 この辺の棚には、同店の読者を、雑学というより、情報や知識を有効に活用していく、いわばリテラシーカルチャー≠フ観点から、ノンフィクションの豊饒な世界に誘い込みたいという意図が感じ取れる。そこには、お客さまが充実した人生を過ごしてほしいという願いも込められている。揃えた本のコンテンツを駆使することで、仕事と生活が張り合いのあるものになればという願いである。
 
 
 ノンフィクション新刊には、守屋洋著『ぐでたま老子に学ぶ』(PHP研究所)、やまとけいこ著『黒部源流山小屋暮らし』(山と溪谷社)、渡邉五郎三郎監修『言志四録一日一言』(致知出版社)というような商品が面見せでセレクト展開されている。
 つぎの棚は地元には欠かせない山岳関連書。矢口高雄著『おらが村』をはじめとするヤマケイ文庫、とよだ時著『日本百霊山』などのヤマケイ新書、伊藤正一著『黒部の山賊』(山と溪谷社)、東雅夫編『文豪山怪奇譚』(同)といった山のノンフィクションミステリーがあり、「本屋大賞」ノンフィクション本大賞の角幡唯介著『極夜行』(文藝春秋)、服部文祥著『サバイバル登山家』(みすず書房)等々でつくる冒険・サバイバル棚に結びついていく。
 同店は郷土本だけでなく、郷土に絡むテーマも見逃さない! その間には『星野道夫著作集』(新潮社)、『アラスカ 光と影』(福音館日曜日文庫)などの星野道夫棚。
 
 
 朗月堂書店のエッセイ棚は、著者とテーマの二本立てが多く、同店独特の組み方といってよい。最初の【食・旅エッセイ】で、著者は東海林さだお、椎名誠、佐野洋子、外山滋比古、テーマは食エッセイ、暮らしの手帖社の本が柱となる。女性向けのエッセイ棚がワタナベ薫、エリカ、女性の本棚、ラブダイアリーといった著者とテーマで展開されるのも好ましい印象。
 エッセイ棚で、ひときわ力の入っているのが【老いのエッセイ】である。店長の中山大樹氏によれば、これは長年、朗月堂書店とともに歩んできた、50代以上のお客さまに贈る棚でもある。ターゲット対策の一つといえよう。
 老年学も著者とテーマのコーディネート。著者はまずは高峰秀子、五木寛之、木村耕一、瀬戸内寂聴、美輪明宏、といった同店でファンが多い著者の方々。これに医療・病、水谷もりひと著『日本一心を揺るがす新聞の社説』シリーズ(ごま書房新社)、皇室のはなし、そして老年学の新刊棚を挟み、老年の生き方のテーマが組み込まれる。
 この棚のあと、さらに老年の生き方本がベストセラーになった著者がつづく。佐藤愛子、曽野綾子、吉沢久子、日野原重明、上野千鶴子、弘兼憲史等の著者である。
 
 
 エッセイ・ノンフィクション棚で著者棚が多い点について、中山店長はこう語る。「これまで店内に分散していたエッセイ・ノンフィクションを、改装を機に文芸にまとめました。著者別棚もより充実を図りました。それは、当店では単行本が文庫化されたあともよく動いているからです」
 文庫化=単行本売り切りとなるのが現実だが、朗月堂書店では「文庫化されても単行本の動きが止まるとは限らない」という仮説のもと、単品管理を徹底しているのである。
 
 
 このあと登場するコミックエッセイ、俳句・詩集、文学・出版も充実した棚づくり。
 【コミックエッセイ】は、くるねこシリーズ、猫村さん、西原理恵子、そにしけんじ、キャラクターブック、ぐでたまと、とくに動きがよい著者とテーマがつづく。さらにここから著者別棚となる。高木なおこ、まめねこを挟み込みつつ、「あ〜か行」から「ら〜わ行」まで展開される。コミックエッセイになじみが薄いお客さまにとって、探しやすい棚になっている。
 
(次回につづく)
 

(書店・出版コンサルタント 青田恵一)

(2019年9月24日更新)
青田恵一プロフィール
福島県出身。書店勤務などを経て、現在、株式会社青田コーポレーション代表取締役。書店 ・出版コンサルタント。中小企業診断士。
主著『よみがえれ書店』 『書店ルネッサンス』『たたかう書店』 『棚は生きている』『たたかうお店のバイブル13冊』『理想の書店』(すべて青田コーポレーション出版部発行:八潮 出版社発売)
               
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