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第30回 ゴーイングコンサーンを目指して
      〜山梨の老舗・朗月堂書店(3)
(前回からつづく)
 
 
 朗月堂書店の文芸書棚にある【俳句・詩集】棚もユニークである。
 棚割りは俳句、連歌、短歌から、飯田隆太、山頭火、夏井いつき、川柳、サラリーマン川柳、シルバー川柳ときて、のはらうた、詩集、谷川俊太郎、まどみちお、吉野ヒロシ、俵万智と続く。著者は見ての通り、新旧の代表的作家が勢ぞろいとなっている。
 この辺の棚が充実しているのには訳があった。同店の中山大樹店長によると、甲府市東部の町、酒折は短歌づくりが大いに盛んで、グループが多数存在するという。
 
 
 その酒折はなんと連歌発祥の地であった。このいわれはヤマトタケルの神話にさかのぼる。ヤマトタケルが東国平定の帰り、酒折宮で伴のものに、「新治 筑波を過ぎて幾夜か寝つる」と聞いたが、誰も答えられなかった。そんななか、警護のために、かがり火を焚いていた老人が「かがなべて 夜には九夜 日には十日を」と返した。「四・七・七」の片歌で問うと、「五・七・七」の片歌で答えたのである。これが、酒折宮が連歌発祥の地とされている所以である。
 このくだり、ロングセラーとなっている池澤夏樹訳『古事記(日本文学全集01)』(河出書房新社)にはこう記されている。
 
 
  甲斐に出た。
  酒折宮(さかおりのみや)にいた時にヤマトタケルが――
   新治(にひばり) 筑波(つくは)を過ぎて幾夜か寝つる
    新治と筑波を過ぎてから何晩寝たんだったか。

  と歌うと、火の番の老人がその先を続けて――
   かがなべて 夜には九夜(ここのよ) 日には十日(とをか)を
    日々を重ねて九泊十日となりました。

 と歌った。
 そこでこの老人を褒めて、東(あづま)の国造にした(210〜211頁)。
 
 
 この記文の存在が起点となったのか、1998年、山梨学院大学と酒折連歌賞実行委員会が主催、朝日新聞社、産経新聞社などが後援する「酒折連歌賞」が創設された。今年で20年・20回を数え、その受賞作品集がKADOKAWAから刊行されている。
 それが、酒折連歌賞実行委員会編による『言の葉連ねて歌あそび』(第1巻〜第4巻)である。第4巻の商品案内には「問いの片歌に答えの片歌を連ねる酒折連歌。20周年を記念した珠玉の作品集」とあった。
 
 
 連歌発祥の地、まして酒折連歌賞というイベントがあるのなら、連歌だけでなく俳句、川柳、短歌、詩の購入ニーズも強くなるにちがいない。
 朗月堂書店はこういう地域の動きやニーズにも対応し、売場と棚に反映させているのである。近くで本がらみのイベントをやっているのは承知していても、もしかすると、そこで終わっていないだろうか。朗月堂書店から学ぶべきことは少なくないと思われる。
 
 
 文学・出版の小分類は【古典文学・国文学・論文】と表示されている。だが、テーマの組み立ては、文章論(棚割りは天声人語、編集論、文章の書き方、一般小論文)、出版業界(出版業界、本の雑誌バックナンバー、書店とは?)、日本語(美しい日本語)、文学論(文学論、日本文学評論)、作家論(夏目漱石、森鴎外、太宰治)、古典(日本文学全集《河出書房新社》、源氏物語、古典名著、百人一首)と幅広い。
 文学や文章に関するテーマから、売れ筋キーワードで選び出された棚割りが、のびのびと展開されていることも伝わってくる。
 【岩波書店】の棚も独創的。小説のあとは、戦争考察、社会問題、社会学、宗教、新刊、全集、ブックレット、現代全書と続く。フィクションとシリーズ・全集の間にある人文・社会系が強烈にアピールされている。
 
 
4. 小学校学参書の棚づくり
 
 
 文芸一般書を堪能したあと、C館から店内通路を通ってB館、A館へと向かう。
 A館は学参・辞書、語学、コミックで構成される。学参・辞書売場は入口左側に展開。学参は手前から小・中・高校の順。小学学参は1架2連10本、中学も1架2連10本、高校は2架3連26本という堂々とした構えである。
 最初、店内をひと回りしたとき、学参棚が整然として収まりのよいイメージを発信していて、印象に残った。同店の学参書売場はなぜ整然としているのだろう? 中山店長にたずねると、それは小・中・高単位に什器を分けているからとのこと。その結果、小・中・高それぞれの什器をひと回り、もしくはひと当たりすると、ドリル、参考書、ワーク、ガイドなど学参書のラインナップが、ひと通り見られる配列になったのである。
 
 
 学参書売場のうち、ことに、まとまり感があると思われる小学学参を詳しくみていきたい。
小学学参書売場は、いましがた述べたように1架2連からなる。入口表側の1連5本はおもに参考書と問題集、反対側5本はドリルと準拠版が中心である。
 表側の棚からいくと、1本ごとの内容は、おおまかに中学受験もの、国語カルチャーもの・辞典関係、国語力・英語力・算数力、英語・理科・社会・パズル、そして最後がくもんカードになる。
 
 
 最初の1本目はおもに中学受験もの。
 1段目には重大ニュース本や学習年鑑があり、そのつぎから中学受験ものがスタートする。小学生であっても、知るべき社会の出来事や学ぶべき事柄を押さえつつ受験に臨むべき、という訴えだろうか。中学受験ものの流れは中学受験問題集、トップクラス問題集、中学入試科目別、中学受験対策、そして最後は厚ものの自由自在、総合的研究である。
 
 
 2本目は国語カルチャーものと辞典関係。
 1段目は、ことわざ、四字熟語、短歌・俳句、漢字童話、ことば、言葉力、語彙力、書き方などの国語カルチャーものが占める。
 この辺りは独特の切り口をつくりやすい。一般書的な学参読み物が少なくないからだ。小学生とはいえ、その一般書的な学参読み物がおもしろければ、学ぶ楽しさも倍化しよう。
 ついで2段目は百人一首辞典、歴史人物事典、国語辞典、漢字辞典、3段目は類語辞典、理科事典といった小学生向けの辞典が収められている。
 国語カルチャーものと辞典関係を収めるこの1本には、学習ポイントが暗記から思考に変わるなか、期待される論理力強化や論理志向を促し、そのベースづくりに役立つ棚にしたい、という思いがにじむ。
「暗記から思考へ」を促す国語カルチャー棚
 
 
 3本目は国語・英語・算数力を高める品揃えで、中学受験を見据えている。
 ここでの棚づくりは、1段目の作文力、漢字力、小学クロスワード、児童英語から、2段目の小学国語、おはなしドリル、ふくしま式、出口式ときて3段目の語彙力、書き方、中学への算数と流れる。
 
 
 4本目のテーマは英語、理科、社会、パズル。1段目が小学英語、2段目が小学理科と小学社会、3段目が算数、小学パズル、賢くなるパズルとなる。まとめていうとベーシック+パズルの棚づくりである。
 小学理科のところに、川村康文監修・三省堂編修所編『こどもかがく絵じてん』(三省堂)、齊藤隆夫監修『SUPER理科事典 四訂版』(受験研究社)、市村均・学研プラス編著『ビジュアル理科事典』(学研プラス)、秋山久義・清水龍之介・高木茂男・坪田耕三・石原淳監修『算数おもしろ大事典IQ 増補改訂版』(同)などの理科事典関係書があった。
 またソニー・グローバルエデュケーション著の『5分で論理的思考力ドリル』(学研プラス)と『5分で論理的思考力ドリル ちょっとやさしめ』(同)を算数棚で発見。この2冊、「シンプルながら意外と深い、珠玉の問題が満載」で「10歳から120歳までという超幅広い年代が取り組めるドリル」という(mojiru【もじをもじる】」サイトより)。
 
 
 5本目はくもんカード棚が中心。
 1段目はひらがな、カタカナ、書きかた、ことわざなど国語系、2段目は理科、算数、英語などその他が並ぶ。3段目からは用語・資料、要点、暗記などまとめの品揃えとなり、4段目の小学館の本物シリーズ、水王社の論理エンジンシリーズ、小学校入試問題に移行する。
 
 
 ここまで見てくると、しっかりした棚構成であることに感銘を受ける。思えば、小売業の基本は明快な分類と的確な陳列であった。書店の学参書売場でもその点は変わらない。朗月堂書店の学参書が印象深かったのは、まさにこの基本が徹底していたからにほかならない。
 小学学参書を最も購入するお客さまは親御さんであっても、本が好きになり読書になじむようになった小学生なら、遠からず売場を必ず回るようになるだろう。そのとき、探しやすく取りやすい売場になっているかどうか――それが小学生を固定ファンにできるかどうかの分かれ目となるにちがいない。
 
(次回につづく)
 

(書店・出版コンサルタント 青田恵一)

(2019年10月24日更新)
青田恵一プロフィール
福島県出身。書店勤務などを経て、現在、株式会社青田コーポレーション代表取締役。書店 ・出版コンサルタント。中小企業診断士。
主著『よみがえれ書店』 『書店ルネッサンス』『たたかう書店』 『棚は生きている』『たたかうお店のバイブル13冊』『理想の書店』(すべて青田コーポレーション出版部発行:八潮 出版社発売)
               
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