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第31回 ゴーイングコンサーンを目指して
      〜山梨の老舗・朗月堂書店(4)
(前回からつづく)
 
 
 朗月堂書店の小学学参書売場の報告を続けたい。
 小学学参棚1架のうち、後ろ側の棚1連6本は、シリーズ別参考書と準拠版、ドリルが柱になっている。以下、棚1本ごとに棚割りテーマを列挙していく。それが、この棚の品揃えが一番伝わる方法と思えるからである。
 前から1本目はシリーズ別参考書で、1段目の陰山英男、サピックスブックス、つまずきをなくすから、2段目の小学正しい解き方ドリル、中学入試でる順、小学これでわかる、3段目の小学まるわかり、小学おうちゼミ、チャ太郎ドリルまで。
 2本目は準拠版。1段目の教科書ワーク、2段目の小学いっきに極める、集中学習、標準問題集、3段目の陰山ドリル、30日で完成の順。
 続いて3本目も準拠版で、1段目の教科書ぴったりテストからスタートし、2段目のZ会グレードアップ問題集、最レべ問題集、ハイクラステスト、3段目のZ会グレードアップシリーズに行き着く。
 準拠版について、店長の中山大樹氏は「準拠しているものがすぐにわかるように、各地区や学校の採択表を大きく掲示し、ふだん学参部門を利用されない方でも、分かりやすいような展開を心掛けています」という。
 そして4〜5本目は、各社のドリルで棚への平置き方式である。最後の6本目も各社ドリルであるが、上半分は雑誌のような表紙見せ陳列で、新興出版社の「ドリルの王様」シリーズと文理の「できる!!がふえるドリル」。下半分は棚への平置きスタイルになる。ドリルの陳列は、どの棚も整理が行き届いていて美しい。
 
 
 前回、同店の小学学参の分類と陳列がきちんとしている旨述べた。だが、これらの基本だけでなく、提案活動もしっかり実施している。例えば、注目の「うんこ漢字ドリル」シリーズ(文響社)は、入口の専用ラックで展開中であった。
 中山店長は、売れ筋キーワードについて「Z会関連、くもんのドリル、速読英単語、チャート式、準拠本などが毎年上位にランクインしています」と述べたあと、品揃えのコンセプトを「ロングセラーや定番を核にしながら、『うんこドリル』シリーズなどの新しい切り口の商品を+αとして組み合わせる形にしております」とコメント。定番+新機軸が学参書売場の必勝方程式であることを示唆した。
 さらに中山氏は、「近隣だけでなく、山梨県全体からの問合せも少なくありません。ガイドや準拠本などはなるべくそれに対応できるような品揃えを心掛けています」と打ち明ける。同店の歴史的努力の蓄積、ひいてはその結果としての商圏の広さを感じさせる話である。
 最近、発売になった雑誌『地域人(第50号)』(大正大学出版会)の書店特集には、朗月堂書店も取り上げられ、筆者の南陀楼綾繁氏が「客は県内全域にわたり、隣の長野県から訪れる人もいる」と評価しているのも、その裏づけとなろう。
 
 
5. 改装の全貌と成否
 
 
美しい外装とガラス越しに店内が透けて見える演出
 
 
 いよいよ改装の全貌についてお伝えするときが来た。朗月堂書店は、改装に当たってなにをどう変えたのか。それらは一体成功したのだろうか?
 同店の改装期間は2018年5月22日、23日の2日間、プレオープンは24日、オープンは25日だった。主な目的は、B館とC館に通路を通して全館をつなげ、お客さまが3つの館を自由に往来できるようにすることである。同店はこの改装を機に、ハード面だけでなく商品移動、かつブランドイメージの刷新を行い、「新しい朗月堂書店」へ生まれ変わった。
 改装を商品面、ハード面、ブランド面の順にみていこう。
 商品面で大きく変わった点は、まずは既述のように、C館入口に、新刊ゾーンや企画台などのキャンペーンスペースと山梨の本棚を設置したことである。
 次に注目すべきは、C館入口にあった児童書をB館に移したこと。理由は、そのB館の入口をなくすことで、お子さまが知らない間に入口から出てしまうという危険を回避すること、いわばお子さまたちの安全を守るためであった。
 B館にあった文芸・ビジネスや理工、芸術など一部の雑誌はC館に移動させた。B館の芸術書もC館に組み込まれた。その結果、これらのジャンルは書籍、雑誌ともC館に収まることとなったのである。
 
 
 ハード面では、すでに記したように、B館とC館の連絡通路をつくり、B館の出入口を閉じ、C館の入口を変えた。
 お客さまが回遊しやすくなる反面、両館とも通路分の棚が削られ、商品量は減らざるを得ない。それが売上を落とさないか、不安がなかったはずはない。品揃えのボリュームとお客さまの買いやすさ、どちらを取るのがベストなのか? 改装にこういった悩みは付きものであるが、同店は最終的に通路をつくることを決断した。お店の事情より「お客さまの利便性」を優先したのである。
 C館入口は全館のメイン入口という位置づけでバージョンアップした。具体的には、窓際棚をはずしたり低い什器を設置したりして、開放的な空間をつくった。さらに、入口外側にある庇(ひさし)から地面まで通す、センスある案内板を設け、館とジャンルをガイド中。これらはすべて、最初の導入部分で「新しい朗月堂書店」を印象づける狙いだった。
 ブランドイメージの刷新は、改装の際、必ず実施しなくてはならないものである。朗月堂書店では店内外の看板、大分類や小分類の表示などを、同店のイメージカラーであるグレーに揃え、統一感を鮮烈に打ち出した。棚割り表示はジャンル単位で色分けもしている。
 そして、忘れてならないのは外装面での変更である。「駐車場にある『朗月堂のP』看板を新調、C館前の車止めを含め、いずれもグレーで作成、さらに外壁の『ROGETUDO』の表示を統一しました。加えて各館の外側に館とジャンルの案内板を設置しております」(中山店長)。
 
 
 改装の結果はどうであったろうか。この質問に中山店長はこう答える。「3つの建物が繋がったことにより、全館を一度に見ていただけるお客さまが増えました。また、C館入口を大きく変えたことで『朗月堂全体が変わった』というイメージは持っていただけていると思います。売上に関してもプラスに転じています」
 このコメントを聞いても、改装は成功とみて間違いないと思われる。お客さま基準による店舗コンセプトの再構築を伴わない改装は、なかなか成功しない。私からみると、同店改装のどこを切っても、お客さま第一の思想が感じ取れた。そのことこそが、改装の成功を呼んだ最大の要因ではないだろうか。
 
 
まとめ. ゴーイングコンサーンを目指して
 
 
 今回の改装に同店はある狙いを込めたと考えられる。それは、店内各所に配している店内案内図から汲み取れる(「朗月堂本店のご案内図」参照)。
 どの館もガラス張りのため、店内が透けて見える(上の写真参照)。それぞれ、外からガラス越しに、もしくは入口から店に踏み込んだとき、最初に目に入るジャンルがポイントとなる。それらのジャンルは、A館はコミックと小学をはじめとする学参書、B館は児童書、C館は新刊ゾーン、山梨の本棚、催事・イベントコーナーである。
 A館が最もねらいを反映する。コミックと学参を強調することで若い読者層をつかもうとしている。B館の児童書も同じといえよう。
 C館の山梨の本棚はいうまでもない。郷土を愛する読者層は永遠になくならない。さらに新刊ゾーンと催事・イベントコーナーは、マーケティングでいうところの革新者(新しい商品やサービスを最も早い段階で受け入れる層)がお客さまとなることも多い。最も本を読む層のひとつ、と言い換えてもいいかもしれない。ここに力を注ぐことで長期的な固定ファンづくりが可能となる。
 ゴーイングコンサーンとは、継続企業とか継続的事業体といわれ、企業や事業、店舗を永続的に続けられるよう、経営を動かすことである。そのためには「成長する力=売上を上げ続けられる力」が必須となる。
 第1回冒頭で触れたNPO法人「本の学校」の企画「『売場クリニック』で売上をあげる〜朗月堂書店・店舗実習〜」でも発表したのだが、ゴーイングコンサーンを目指し、売上を伸ばし続けることができる、同店の仕掛けを5点にまとめたい。
 
 
   @巨大な郷土本コーナーで地元のお客さまをガッチリつかみ続ける
   Aネット書店や電子書籍、新古書店などへの対策としても有効といえる、ダイナミックな
    新刊ゾーンや催事・イベントコーナーで、出会いを演出する
   B近い将来、固定客となるかもしれないお子さま向けジャンル――児童書、学参書、コミ
    ックの売場は大きいスペースを確保し、かついい場所で展開する
   C家庭で実権を持つことが多いお母さん向けジャンルの婦人実用書を水準の高いものにする
   Dこれらを個別に強化するだけではなく、トータルに同時並行でレベルアップすることに
    より、長期的な売上アップを図る。この仕掛けの全体が売上を上げつづけるバネとなる
 
 
 これらのうち郷土本、新刊ゾーン、学参(小学学参)については今回、詳述してきた。児童書、コミック、婦人実用書は以前のレポート(第7〜8回)で報告している。各々の売場レベルが高かったのは、決して偶然でない。「ゴーイングコンサーンを目指す」という確かな理由があったことが、ここで証明されたことになる。
 
 
朗月堂本店のご案内図
 
 
 売場づくりと店づくりの精神について、現場を切り盛りする中山大樹店長はこう語る。
 
 弊社 朗月堂の社訓に「お客様に奉仕し、情報と文化をお伝えします。」という一文があります。今後、店の形や扱う商品が変わろうとも、朗月堂のこの考えが変わることはないと思っております。来てくださるお客様のため、接客・棚づくりという基本を日々精進していきたいです。
 
 
 的確なリーダーシップで現場を指導しつつ、山梨県内の他書店や図書館、読者とも連携し、読書推進活動を進める代表取締役の須藤令子氏も次のように決意を披歴した。
 
「お客様目線」は、弊社が一番大切にしている姿勢です。書店経営には逆風が強く大変な時代ですが、今後も商店街や県内の他書店、図書館などと連携を図りながら、地域を挙げての読書推進に取り組み、さらに皆様に読書の楽しさを伝えるべく、取り組んでまいります。
 
 
 書店では、もはや長期的な売上アップなどできるはずがない、そう考えている出版関係者は少なくないだろう。しかしおふたりのガッツが漲ったコメントでもわかるように、厳しい事態にあきらめないで不可能に挑戦する書店が、まぎれもなく厳存していることは疑いない。山梨というこの地においてである。
 
 

(書店・出版コンサルタント 青田恵一)

(2019年11月28日更新)
青田恵一プロフィール
福島県出身。書店勤務などを経て、現在、株式会社青田コーポレーション代表取締役。書店 ・出版コンサルタント。中小企業診断士。
主著『よみがえれ書店』 『書店ルネッサンス』『たたかう書店』 『棚は生きている』『たたかうお店のバイブル13冊』『理想の書店』(すべて青田コーポレーション出版部発行:八潮 出版社発売)
               
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