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第32回 ゆりかごから墓場まで
  〜生涯読書を美しく応援するパルコブックセンター調布店(1)
 改装を成功させるのは容易でない。
 売上が落ち込み、起死回生のため改装することも少なくない。ところが、この改装がうまくいかず、それを機に撤退する店もある。こういう店には、改装の財源を商品の返品に求め、結果的に品揃えが劣化、客離れが生まれるケースも見受けられる。
 それはさておき、書店にアゲインストの烈風が吹きすさぶなか、改装が成功したという話を耳にした。その店こそパルコブックセンター調布店である。思えば書店道場に、パルコブックセンターを運営するリブロ(現リブロプラス)から、本部所属の馬場裕司氏と吉富圭氏が第3クール、昼間匠氏が第6クールにと、3人の方にご参加いただいている。そのこともあり、久々に同店を訪れた。
 本部とともに改装を成功に導いたのは、店長の今井智香子氏である。その氏が現在も指揮を執るパルコブックセンター調布店は、京王線は調布駅のすぐ近く、調布PARCOの5階に入居する。
 同店は開店当初、とりわけデザイン書やアートブックの品揃えに秀でていた。当時、棚の前に立ちながら、品揃えの深さにためいきをついたものである。いまもこれらは往年の見事さを伝えているが、現在はそれに加え、館全体のメインターゲットである女性層向けの婦人実用書と児童書の充実度が高い。今回はこの2ジャンルに焦点を合わせたい。
 
 
1. 棚編集の極み --婦人実用書
 
美しく鋭いエッジの効いた棚づくり
 
(1) 書店における婦人実用書の変遷
 
 ひところ書店では、婦人実用書を投げやり同然に扱う店もあった。それが最近、新規店や改装店のうち、努力する書店では、不思議にも婦人実用書が高水準のケースも目立つ。
 婦人実用書は、女性生活書あるいは生活書とも呼ばれるように、生活と時代の動きを反映し、より多種多彩になって売れ筋商品を増やしている。料理書や健康書のベストセラー本はその典型であろう。その結果、書店では、婦人実用書は固定客を増やし、売上を上げ続けられるジャンルとして、認知されてきたのかもしれない。
 くり返しになるが、婦人実用書の水準が高い代表的な書店のひとつが、パルコブックセンター調布店である。他の書店の参考になる点、多々あると思われるため、詳しくご紹介しよう。
 
(2)パルコブックセンター調布店の婦人実用書の概況
 
 同店の婦人実用書(店でのジャンル名は「趣味・生活書」)は、入口を入って右側、女性雑誌の対面に3連各9本ずつ並んでいる。このスケールにまず驚嘆する。同店のエリアマネージャーである馬場裕司氏に伺うと「同規模店の1.5倍から2倍はある」とのこと。
 その内容を表側からざっくり記すと、はじめの第1連がファッションとライフスタイル、第2連が料理と健康、第3連が趣味と暮らしになる。
 構成が巧みである。柱になる料理と健康を中央に持っていき、前面は若い女性客向けとし、後面では女性客全般向けのテーマで固めつつ、男性客の取り込みもねらう。奥に行くにつれ客層を広げていくという、にくい演出である。
 各棚を小分類単位で当たると、最初の第1連は、前から【美容】【ファッション】【インテリア】【収納・片付け】【ライフスタイル】【手芸】、第2連は、同じく前から【家庭料理】【保存食】【食材別料理】【各国料理】【パン・スイーツ】【ドリンク】【健康法】、第3連は同様に前方から【占い】【ペット】【園芸】【冠婚葬祭】【育児】【健康法】という流れになる。健康法は奥で向かい合う形をとる。
 
(3)第1連のファッションとライフスタイル棚の全容
 
 3連のなかで最も魅力的な棚は、最初に展開する第1連のファッションとライフスタイルの棚にほかならない。この棚こそ、女性層の重要なニーズに直接応える棚となる。それだけではない。この第1連は、店全体の右側半分の顔に当たり、その魅力でお客さまを引きつけ、かつ後ろ側に誘導する役割さえあると思われる。
 この意味で第1連目については、棚割りの組み立てを1本ずつ、つぶさに観ていきたい。ファッション系の本がいっぱいあるなぁ、と簡単にとらえてはいけないのである。
 前からいくと、1本目と2本目が広い意味での【美容】の棚になる。1本目の棚割りはエクササイズ、ヨガ、ピラティス、ダイエットの本。2本目はメイク、美容、アロマテラピー、ダイエット食という順番。
 そして3本目に【ファッション】がくる。棚割りは最初に着物がきて、骨格診断、大人のおしゃれ、ファッション関係という構成。
 同店で婦人実用書を担当する新垣知子氏は、「第1連で一押しの棚はファッション関係です。なかでも骨格診断の本に力を入れています」と語る。そして「ヨガの本では魔法のヨガに注目しています」ともつけ加えた。
 
 
 4本目の【インテリア】と5本目の【収納・片づけ】は、6本目の【ライフスタイル】に収れんされる棚構えのようにみえる。
 【インテリア】の棚割りは住まいづくり、DIY、インテリア、【収納・片づけ】では防災、ハウスキーピング、収納、家事の基本、片づけ、お金の基本、【ライフスタイル】ではカリグラフィー、海外雑貨、文具、和雑貨、さらに伊藤まさこさんや服部みれいさんなど暮らしのエッセイスト、折り紙、切り絵と流れる。
 7本目から9本目までが【手芸】の棚。7本目がマスコット、赤ちゃんニット、子ども服、洋裁、8本目がキルト、レース、バッグ・かご、ニット、ニット小物、9本目がアクセサリー、刺繍というのが棚割りタイトルである。
 こうみてくると、分類と棚割りが細かく正確、かつ独創的なことが伝わってくる。
 つけ加えるなら、どの棚も概ね5段のうち、上から1、2、5段が棚差し陳列で、なかほどの3、4段が面見せ陳列である。このシーンが美しい。その面見せ2段に平積みを2列加えたものが、おすすめ商品や定番拡販の舞台になる。
 ではこの第1連の棚は、どのような点が注目されるのか? 次はその件に触れていく。
 
(4)第1連のエッジの効いた棚づくり
 
 改めていう。ファッションとライフスタイルが中心の第1連こそ婦人実用書の見どころポイントになる。なぜかといえば、正統的な構成のなかに、訴求のカギとなる、先鋭的でピリリとエッジの効いた棚割りを挿入しているのである。それは少なくとも4テーマ存在する。その4つとは【美容】のエクササイズ棚、【収納・片付け】の防災棚、お金の基本棚、そして、【ライフスタイル】の頭にあるカリグラフィー棚である。1テーマずつ眺めてみよう。
 
〇【美容】のエクササイズ棚
 
 婦人実用書のとっかかりに配され、棚での先陣を切るのは、【美容】におけるエクササイズ関係書である。エクササイズ棚ではヨガやピラティスも強調されている(ダイエットはこのあとにつづく)。ピラティスとは体幹やインナーマッスルを鍛えるエクササイズのこと。
 この辺の棚はダイエットからはじまる店が多いが、そこをグッとこらえてエクササイズ棚からスタートするのは、お客さまにとり存在感のある棚にしたいという思いだろうか。
 単品でみると、エクササイズ棚では、古賀直樹著『はたらく女子のオフィスで「カベ」ストレッチ』(雷鳥社)、MAYUMI監修『腹筋を美しく見せる! 女子の体幹トレーニング』(成美堂出版)、森谷敏夫著『おサボリ筋トレ』(毎日新聞出版)、ヨガ棚では、Satori Sankara・久保玲子監修『YOGAポーズ大全』(成美堂出版)、崎田ミナ著・福永伴子監修『自律神経どこでもリセット! ずぼらヨガ』(飛鳥新社)、B-life著『自律神経みるみる整う 魔法のヨガ』(実業之日本社)、ピラティス棚では、石部美樹著、石垣英俊・高橋なぎ監修『新しいピラティスの教科書』(池田書店)、米田由紀監修『DVD付き はじめてのピラティス・プログラム』(朝日新聞出版)などが際立っている。
 
〇【収納・片付け】の防災棚
 
 近藤麻理恵さんの『人生がときめく片づけの魔法1・2 改訂版』(河出書房新社)が大ヒットするなど、ブームが定着してきたのが片づけ関連書である。これを含めた【収納・片付け】のなかに、それも冒頭に位置づけられた防災棚はとくに目を引く。
 防災棚は通常、婦人実用書のなかでは暮らしの知恵棚に置かれる。だが3.11以降、収納・片付けは防災の観点を持たねばならなくなった。それは間違いない。しかし、だからといって、この【収納・片付け】の最初の棚に、防災棚をもってくる店がどこにあろうか。と思ってしまうほどの、意表突く鴨越(ひよどりごえ)での逆落とし戦法≠ノよる棚づくりなのである。私の胸に、同店の問題意識の深さが響いてきた。
 ここには草野かおる著『4コマですぐわかる 新みんなの防災ハンドブック』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、三平洵監修『シニアのための防災手帖』(産業編集センター)、mini+SPRiNG編集部著『ひとりぐらしの教科書』(宝島社)などの関連本が並べられ、収納・片付けに関心を示すお客さまに、防災への警戒と準備の気持ちを喚起している。商圏である地域社会に対する書店の役割を想う。
 家事の総論的な本が多いハウスキーピング棚は、そのつぎとなり、収納・片付けはさらにその次に配される。
 
〇【収納・片付け】のお金の基本棚
 
 お金の基本テーマがここに組み込まれるのも、フェイントされるようで興味深い。片付けや整理の本のあと、断捨離本を経て、お金の本に至るのである。女性客のニーズに総合的に応えんとする、志を感じさせるコーディネートである。
 単品では、おづまりこ著『おひとりさまのゆたかな年収200万生活』(KADOKAWA)、おふみ著『夢をかなえるノート術』(エクスナレッジ)、丸山晴美監修『オトナ女子のためのお金の基本200』(宝島社)といった本に目が留まる。
 
〇【ライフスタイル】のカリグラフィー棚
 
 【ライフスタイル】の頭にあるカリグラフィー棚も、あまりの意外さに驚かされる。カリグラフィーとは文字を美しく見せる技法である。仕事上でも生活のうえでも、美しい文字は確かにそれだけで、ライフスタイルを伝えるために有効な武器となるだろう。
 小田原真喜子著による『カリグラフィー花物語(復刻版)』(日本ヴォーグ社)や『はじめてのカリグラフィーLesson』(日本ヴォーグ社)、三戸美奈子編著『カリグラフィー・ブック 増補改訂版 デザイン・アート・クラフトに生かす手書き文字』(誠文堂新光社)などが展示される。
 
(次回につづく)
 

(書店・出版コンサルタント 青田恵一)

(2019年12月27日更新)
青田恵一プロフィール
福島県出身。書店勤務などを経て、現在、株式会社青田コーポレーション代表取締役。書店 ・出版コンサルタント。中小企業診断士。
主著『よみがえれ書店』 『書店ルネッサンス』『たたかう書店』 『棚は生きている』『たたかうお店のバイブル13冊』『理想の書店』(すべて青田コーポレーション出版部発行:八潮 出版社発売)
               
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