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第33回 ゆりかごから墓場まで
  〜生涯読書を美しく応援するパルコブックセンター調布店(2)
(前回よりつづく)
 
(5)棚をつくることの意味
 
 パルコブックセンター調布店の婦人実用書、その第1連であるファッションとライフスタイルの棚は、すこぶるエッジが効いている。
 第1連には、それだけでなく、もうひとつの特長が存在する。小分類の最初の棚割り設定が一種独特なのである。多くの棚で、いわば初球が変化球≠ノなっている。
 一部くり返しになるが、「美容」はエクササイズ、「ファッション」は着物、「収納・片付け」は防災、「ライフスタイル」はカリグラフィー、「手芸」はマスコットというように、スタートが他店に例の少ない、あっといわせる意表をつく棚づくりなのだ。
 そのことに気づいて伺うと、案に相違し、事はそう簡単でなかった。意表はついたのは棚づくりだけでなく、その売行きの良さだった。
 担当の新垣知子氏は「売れるものは先頭で目立たせるのが今井店長の方針なのです」と打ち明ける。店長である今井智香子氏がその方針を打ち出して、婦人実用書の棚が現在の形になったという。
 とはいえ、婦人実用書の一般的な棚構成と同じではない。この点については、他店と異なるテーマ構成がお客さまに支持されるよう、同店が類まれな主張性と編集力で新たな棚文脈を創りあげた、と読み取る方がふさわしい。もちろんお客さまのニーズに真剣に応えようとした結果においてである。
 このことを、さらに一歩踏み込んで吟味したい。棚たる舞台で意表をつくことは、お客さまに対し、例えば、「美容」のエクササイズ棚では「体を鍛えることは、やっぱり大事」とか、「収納・片付け」の防災棚では「家具が倒れないよう措置することは、どうしても不可欠」など、ものごとの再認識を促すことになる。少なくとも、この棚の前に立つお客さまには、そう感じて行動する方もおられよう。
 私はこの店のこの売場で、棚をつくることの意味をつくづく再認識させられた。
 
(6)第2連「料理と健康」、第3連「趣味と暮らし」の棚づくり
 
 第2連の「料理と健康」、第3連の「趣味と暮らし」の棚づくりにも少し触れたい。
 担当する新垣氏によると、2連目のセールスポイントは料理の基本についての関係書である。同氏は、アイテム数が多いことと細かく分類していることをあげる。同時に、料理家の本の販売にも注力している。伝説のスゴ腕家政婦、タサン志麻さんや、アイディア料理研究家のmakoさんなどの料理書である。
 第2連で最も動くのは健康本だ。新刊で回転がいいものは200冊から300冊動くという。
 その健康本の分類法はユニークだ。今井店長から「病気の本は頭から下におろしていくようにテーマを設定しています」と聞き、思わず腹落ちした。確かに「部位別病気」は脳、心臓、肝臓、腎臓、膵臓、腸の順であった。今井店長は「婦人実用書ではありませんが、スポーツでは球技と個人プレイを分けています」とも付言する。
 第2連に設けられた料理棚の「食の安全」や健康棚の「女性の医学」は、とりわけ生活色の強い特設棚である。料理棚の最後に「食の安全」を置くことも、健康棚のなかに「女性の医学」を配することも、同店の客層を考えれば、的を射た対応といえよう。
 
 第3連のウリは園芸書だった。「園芸」は棚2本。棚割りは、前から1本目がターシャ、べニシア、森の生活、盆栽、家庭菜園、多肉植物、2本目が庭づくり、小さな庭づくり、花、バラ、野菜、果樹とつづく。「このなかでは、小さな庭づくり関係書に力点を置いています」(新垣氏)。
 確かに、天野麻里絵著『一年中美しい 手間いらずの小さな庭づくり』(家の光協会)、有福創監修『思うままに楽しむ DIYを生かした小さな庭づくり』(成美堂出版)、山元和実監修『はじめての小さな庭づくり―小スペースをもっと素敵に』(同)などが面見せで、朝日新聞出版編著『一年中センスよく美しい 小さな庭づくり (アサヒ園芸BOOK) 』(朝日新聞出版)、小黒晃・木村卓功監修『基礎の基礎からよくわかる はじめてでもできる小さな庭づくり』(ナツメ社)、『玄関前や狭いスペースを植物で彩る 小さな庭づくり (ブティック・ムック1464) 』(ブティック社)といった関連書が1段近い棚差しで、強烈にアピールしていた。
 第3連の最前列に置かれた【占い】1本も動きがいいそうである。この棚は、最上段の暦からはじまり、風水、星座、占星術、タロットカード、誕生日、手相、姓名判断という構成。
 
(7)棚編集力を駆使するジャーナリズム的棚づくり
 
 注意を促すというか、警鐘を鳴らすというか、主張と狙いを持ち、かつ卓抜な編集力を駆使しながら棚づくりするのは、いうなればジャーナリズム的棚づくり≠ナはないだろうか。婦人実用だからジャーナリズム≠ニいう表現はそぐわない? いやいや、そんなことはありません。実用系ジャンルの棚づくりには、生活ジャーナリズムという観点があってもいいと思われる。
 ジャーナリズム的棚づくり≠ヘ攻めの施策といってよい。では、棚づくりでこの攻めの施策はなぜ必要なのか?
 棚づくりにおいて第1に大切なのは、なんといってもベーシックな品揃えである。だが、現在のトレンドに敏感な女性層がメインターゲットの場合、変化が感じられない売場では、すぐ飽きられもしよう。激しく揺れ動くニーズをとらえ、棚づくりに反映させなければお客さまの心はつかまえられない。その棚への反映のさせ方が、攻めの施策となる。だから、お客さまの変化動向をキャッチするには、攻めの施策が欠かせないのである。
 いずれにせよ、パルコブックセンター調布店の婦人実用書は、各棚において、攻めの品揃えをジャーナリズムの観点からつくられているといえよう。
 
(8)婦人実用書の新刊は攻め込んで売る
 
「一番の売り」 婦人実用書専用新刊棚
 
 攻めのシーンで、とくに重要な新刊の売り方についても触れておく。
 同店の婦人実用書で大手出版社の新刊は、一旦パターン配本で様子をみる。注目するのは、あまり著名でない出版社の新刊。そのなかで「これは!」と思ったものは、何冊かを必ず事前注文する。こうして入荷した新刊を、同店はどう展開するのだろうか?
 多くの書店では棚前平台かエンドに平積みするだろう。ところがどっこい、パルコブックセンター調布店では、「えっ! まさか」と驚かずにはいられない対応をする。店頭入口部分に3台並ぶ新刊棚のひとつを、すべて使って展開するのである。婦人実用書専用の新刊棚!である。
 それもこの新刊棚は、3台のうち、最もレジカウンターに近い、つまり一番いい場所を占めている。今井店長は「一番のウリなので」と、こともなげに答えるが、なんと力強い攻めの姿勢であろう。
 婦人実用書の新刊棚を持つ書店がないわけではない。とはいえベストワンの場所というのは稀である。メインターゲットを重視した新刊棚の構成――この点も、全国の書店が学んでいいところではないだろうか。
 
 新刊棚の平台ステージでは、テレビ出演がつづき飛ぶように売れている美木良介著『DVDでよくわかる! 120歳まで生きるロングブレス』(幻冬舎)や、佐久間健一著『モデルが秘密にしたがる体幹リセットダイエット 究極の部分やせ』(サンマーク出版)や、とがわ愛著『はじめてのやせ筋トレ』(KADOKAWA)、松井薫著『5秒腹筋 劇的腹やせトレーニング』(西東社)など、売れ筋のエクササイズ本が17点ほど結集し、見応えのある特設コーナーとなっている。
 この場所にこれらのベストセラーがあることで、売行きは何倍になっているのか。その辺りから、購入されるお客さまの「あった、あった、私の探していた本が一番いい場所にあった」という喜びの声が聞こえてくるようだ。このような芸当ができるのは、専用の新刊台があればこそ。
 ひとつ補足するなら、新刊台の商品は衝動買いするお客さま向けが多くなるが、同店では目的買いのお客さまのために、必ず棚に差すという。基本中の基本であるが、とりわけ売れている新刊ほど、そのことを忘れがちになる。見習いたい。
 
 
 ここまで見たように、パルコブックセンター調布店の婦人実用書売場は、攻めと守りのバランスが絶妙なのである。自店の婦人実用書売場がちょっと平板だなと感じられた方は、ぜひ同店を視察していただきたい。
 

(書店・出版コンサルタント 青田恵一)

(2020年1月24日更新)
青田恵一プロフィール
福島県出身。書店勤務などを経て、現在、株式会社青田コーポレーション代表取締役。書店 ・出版コンサルタント。中小企業診断士。
主著『よみがえれ書店』 『書店ルネッサンス』『たたかう書店』 『棚は生きている』『たたかうお店のバイブル13冊』『理想の書店』(すべて青田コーポレーション出版部発行:八潮 出版社発売)
               
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