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第111回
どっちも神様じゃないから
 応援を呼ぶチャイムが鳴った。鬼の形相で品出しをしていた男は、舌打ちをしながらレジに駆け付ける。
 
 しかし列の先頭に立つ女は、宇宙人のようなフォルムのヘッドホンを装着している上、スマホを見ていて気付かない。カッとなってほとんど怒鳴るように「いらっしゃいませーっ!」と声を掛けると、やれやれ散々待たされましたわ、とでもいうような小憎たらしい顔でこちらを見た。
 
 そして商品で満杯のカゴをドサッと置くと、いかにも手が痺れた、というように振ってみせたので、お待たせしました、と詫びる気はすっかり失せた。男が仏頂面で会計を終えると、宇宙人は今さらヘッドホンを外す。やべぇ。このクソ忙しい時にクレームだけは勘弁だ。そう思って身構えたら、なんと頭を下げたのである。
 
 「お手数をおかけしました」
 
 呆気に取られて、ありがとうございました、を言い忘れてしまった。
 
 あれは本気だったのか、それとも嫌みなのか。仕事上がりに立ち寄った弁当屋で、慣れない店員がもたもたするのを眺めながら考える。
 
 もう5分待たされたら、そして渡された弁当が間違っていたら、空腹の自分はどんな態度を取るだろうか。さっきまでそちら側だった自分は、笑って許すことができるだろうか。全然自信がなかった。
 
(三省堂書店神保町本店/新井見枝香)
 
(2018年11月13日更新/ 本紙「新文化」2018年11月8日号掲載)
               
 
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