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第116回
眠たくなる本
 先日、お客様から相談を受けた。テレビを見て遠方から私に会いに来たという、同年代くらいの女性だ。
 
 実は1時間前から店内をウロウロして、こちらの動向をうかがっていることには気付いていた。老婆心ながら、もし今、どこかの店員に片思いをしていて、気付かれていないだろうと思って買い物のフリをしながら相手を見つめているなら、ほぼ気付かれていると思った方がいい。仕事中の店員という生き物は、お客様の邪念に敏感だからだ。それに、本を手にとって開いているが、全く読んでいない目というのは、見ればわかるものである。
 
 「本を読もうと思っても寝てしまうんです」。彼女は真剣な顔で、どうしたらいいでしょう…、と視線を落とした。その手には『本屋の新井』(講談社)がある。それもまた、睡眠導入剤になるのだろうか。
 
 音楽には、子守歌というものが存在する。ジャイアンの歌が睡眠の妨げになるのは、ヘタクソだからだ。美しい旋律のような文章が眠りを誘う、ということもあるだろう。
 
 実際私も、読みながら寝るなど日常茶飯事だ。大好きなバンドのバラードで立っていられないほどの睡魔に襲われることもあるし、甘い香りの紅茶で突っ伏しそうになることも、好きな人との会話で猫のように丸まりたくなることもある。
 
 会計をしながら私は答えた。「つまり読書が気持ちよすぎるってことじゃないでしょうか」。
 
 私の本を枕に、楽しい夢が見れますように。
 
(三省堂書店神保町本店/新井見枝香)
 
(2019年2月4日更新/ 本紙「新文化」2019年1月31日号掲載)
               
 
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