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第118回
ヘヴィ級のお問合せ
 退勤時間の15分前にもなると、気もそぞろである。まだ外が明るい早番の日は、なおさらだ。今日は何をして遊ぼうか。
 
 だが、そんなときに限って、ヘヴィ級のお問合せを受けるから不思議である。仕事というのは、サボれないようにできている。誰か見ているのか。
 
 たまたま取った電話はお客様からで、タイトルはわからないが、著者が「久坂部羊」であり、まだ読んでいない本を読みたい、とのこと。手元に本がないらしく、片っ端からタイトルとあらすじを読み上げていくしかない。それは読んだ、読んでない、と答え、時折「どんな出だしだったかしら」と言うので、冒頭数ページを朗読する。それを繰り返すうちにいくつか候補があがり、集めて取り置くことになった。
 
 「体が痛くて、とても売場を探し歩くことはできないの。助かったわ」入院前のまとめ買いなのだった。
 
 久坂部さんといえば医師の肩書きを持つ作家で、末期がんの告知や四肢切断、認知症の進行など、フィクションとはいえ重いテーマが多い。気が滅入らないか心配になったが、それを見透かしたように「ふふ、私って随分、悪趣味でしょ」と言い残して電話を切ったので、ちょっと笑ってしまった。
 
 枕元に「久坂部羊」を山積みした患者に、主治医は何を思うだろうか。時計を見ると、きっかり15分経っていた。今日も仕事は面白い。
 
(三省堂書店神保町本店/新井見枝香)
 
(2019年3月5日更新/ 本紙「新文化」2019年2月28日号掲載)
               
 
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