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第68回
POP研究員
 あの時、プロポーズを受けていたら今頃は…。という後悔は無意味だ。
 
 私は一人しかいないし、その瞬間はもう二度と訪れない。だから、どちらがより幸せだったかを比べることは出来ない。私はそれと同じ感覚で、本に手描きPOPを付けていた。その本をその瞬間に売ることを、POPを付ける場合と付けない場合とで比較することが出来ないからだ。
 
 だから業務ではなく趣味と位置付けることで、結果を考えないようにしてきた。読んで面白かったから勧めたい、ただそれだけの自己満足だ。営業している限り棚整理が終わるということはありえないし、埃は絶え間なく降り積もるから、結果が見えないPOPは、どうしても時間外に描くことになる。
 
 しかし、営業本部に異動して、ふと、ある実験を試みたところ、驚くべき結果を得たのである。
 
 ほぼ同規模の店舗で、同じ銘柄の本を同じ面数積み、片方の店舗にだけ手描きPOPを付けた。すると、5倍10倍とみるみる売上げ冊数に差が開いていった。私は慌てて数字を記録し、何かの細胞を発見した研究員の如く、上司に報告した。様々なデータで証明ができれば、「POPを描く」ということが、確実な販促業務として認められる日が来るかもしれない。
 
 それができるのは、今ここにいる私しかいない。寿退社しなくてよかったかもしれない。と、思いたい。
 
(三省堂書店/新井見枝香)
(2017年1月30日更新/ 本紙「新文化」2017年1月26日号掲載)
               
 
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