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第81回
新井ヘヴィ賞
 異動して売場を離れたら、二の腕やふくらはぎの筋肉が衰え、体が重い。
 
 日がな一日パソコンを叩いていると、頭が重い、腰も重い。ついでにまぶたも重い。なぜならお昼に大盛りカツカレーを食べたから。そのせいで、胃まで重たくなってきた。
 
 このように「重い」という言葉には、あまりいいイメージがない。しかし私はあえて、第6回新井賞に「ヘヴィ」という言葉を付け加えた。また新井賞の話か! と思ったあなた。確かに、この連載では過去3回(19・34・45回)書いた。
 
 しかし、まだまだ世間の認知度は低い。新井賞とは、半年に一度、私が独断と偏見でナンバーワンを選ぶ文学賞だ。芥川賞が純文学で、直木賞がエンタメなら、新井賞は、ヘヴィ級。
 
 今までそれを意識したことはなかったが、振り返れば過去5作、棚板を突き破って地球の裏側まで沈みこむほど、重たい小説ばかりだった。そして、それだけに、その向こうの大気圏を突破して宇宙まで突き抜けるほど面白かった。小説好きにとって、「重い」はむしろ喜ばしい言葉なのだ。
 
 第6回新井ヘヴィ賞を受賞したのは、芦沢央さんの『貘の耳たぶ』(幻冬舎)。たとえばこの本をイヤリングにしたら、重すぎて耳たぶが釈迦如来のように伸びてしまうだろう。母親から生まれたことがある人なら、どうしたって自分と置き換えて読んでしまう物語だ。
 
 「もし私が5歳のとき、出生直後に取り違えられていたことを知ったら、お母さんは私を交換した?」私はこの重たすぎる質問を、未だ母にできないでいる。
 
(三省堂書店/新井見枝香)
 
(2017年8月7日更新/ 本紙「新文化」2017年8月3日号掲載)
               
 
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