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第84回
カツオのたたき
 新宿駅近くの居酒屋で、たった880円のランチバイキングにカツオのたたきが並んでいた。
 
 サニーレタスが敷き詰められた巨大なトレイにザッパーンって、そんな豪快にカツオのたたきをぶちまけてもいいものだろうか。ありがたいが、カツオに対して申し訳ない。私が恐縮してしまうのは、俳優の松方弘樹が大荒れの海で一本釣りをする絵が浮かぶからだろう。
 
 一対一の、命懸け一本勝負。
 「今日俺は、お前を釣る!」
 「ハンッ、わしはそう簡単に釣られる魚やないで!」
 
 ここぞというときには、網を投げるのではなく、釣竿一本で勝負だ。もちろんこれは「本」の話である。
 
 事前にアポを取り、出版社からやって来たるは、懐中に一冊の本を忍ばせた営業さん。
 
 「どうか、この本を読んでくださいますまいか」
 「むむ、わざわざこの一冊のために? その心意気、情熱、しかと受け止めましたぞ」
 
 もちろん本の内容が第一だが、出版社による一本釣り営業にはついつい心が動かされてしまうのである。
 
 ところで念のため調べてみたら、松方弘樹が釣ったのは巨大マグロで、カツオはその餌であった。
 
 なるほど、書店員が食いつけば、書店に来るお客様という巨大なマグロが釣り上げられるという寸法か。そういう意味では、私はまるでカツオだった。親近感が湧いたので、今度は思う存分食べてやろうと思う。
 
(三省堂書店/新井見枝香)
 
(2017年10月4日更新/ 本紙「新文化」2017年9月21日号掲載)
               
 
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