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第85回
理想の接客
 毎朝、出勤前に某カフェで、グランデサイズの「抹茶クリームフラペチーノ(ホイップ多め)」を飲む。フラペチーノは、氷やシロップをミキサーで粉砕したシャーベット状のドリンクだが、美味しいのは夏だけではない。
 
 真冬の朝、駅からの道程で指先がかじかもうが、雪が降り積もろうが、私はフラペチーノを注文する。このひと時のためなら、唇を紫色に染めて出勤することも厭わない。
 
 しかし、ついにこの日が来てしまった。
 
 早朝から弾ける笑顔の店員に「グランデサイズの抹茶クリームフラペチーノですね?」と顔を見るなり先回りされたのだ。しかも、慌てて「ホイップを」と言いかけると、かぶせるように「多めですよね?」と。
 
 彼女は接客が得意な店員で、自信もあるのだろう。憶えていてくれたと喜ばれることを疑わぬ目で、微笑みかけてくる。
 
 しかし私は、ただただ恥ずかしかった。きっとバックヤードでは、抹茶クリームフラペチーノの人などと呼ばれているのだろう。ここでは、私を憶えて欲しくなかった。もしかして、私もそういう思いをお客様にさせてしまったことがあったのか。
 
 私は接客が好きだし、ある程度の自信もある。お客様に話しかけて、仲良くなったこともたくさんある。でもそれをウザいと思った人もいただろう。人の数だけ理想の接客があり、絶対の正解なんてないのだ。
 
 反省の意を込めて、私は今週一週間、フラペチーノ断ちをすることにした。彼女から「一週間ぶりですね」なんて言われないといいのだが。
 
(三省堂書店/新井見枝香)
 
(2017年10月10日更新/ 本紙「新文化」2017年10月5日号掲載)
               
 
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