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第87回
脱稿しました。
 「脱稿おめでとう」という言葉を初めてもらった。「お疲れ様」よりは素敵だが、なんだか気恥ずかしい。
 
 実は先日、書き下ろしのエッセイを無事書き終えたのである。12月に秀和システムより発売予定だが、コンピューターの話ではない(念のため)。
 
 私にとって本を作ることは、焼肉屋が牧場に留学するようなものだった。自分が提供している商品がどのように作られているのかを学び、生産者が込める育てた牛(本)への想いを知った。書店員として心持を新たにする貴重な体験ができた。
 
 ただ、ひとつ気になっていることがある。編集者から戻ってきた原稿に、赤字がないのだ。完璧ということなのか、匙を投げたのか、恐ろしくて確認できない。何度読み返しても、自分では最高に面白いのだが、なにしろ人生でこんなにまとめて文章を書いたのは初めてのことである。冷静な判断ができているとは思えない。
 
 店頭で、何故自分の本が一等地に展開されていないのか、あんなに面白いのに何故ランキングに入っていないのか、という著者の応対をしたことがある。すげぇ自信だなと思って読んでみたが、どうして面白いと思えるのかがちっともわからなかった。
 
 でも、書いてみてわかる。自分で面白いと思えないものを書く人などいないのだ。ただその感覚が他人と大きくズレているということを、本人だけがわからない。私は怖い。
 
(三省堂書店/新井見枝香)
 
(2017年11月7日更新/ 本紙「新文化」2017年11月2日号掲載)
               
 
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