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第95回
焼き鳥屋のホスピタリティ
 108円が1点、108円が2点…。100円ショップの店員が唱える「ひゃくはち」が、どうも耳につく。カゴいっぱいにお菓子を買った己の煩悩を数え上げられているようで、後悔と不安が押し寄せるのだ。
 
 その点、行きつけの焼き鳥屋はいい。焼き上がったそばから勝手に取って、欲望のまま貪り食い、満腹になる頃には何をどれだけ食べたのかわからなくなるのだが、串は1本70円均一で、会計は明朗。カウンターに残った串の数を店員に伝えるだけだ。印象に残るのは本数だけで、いくら使ったかは大抵憶えていない。だから懲りずに、また行ってしまう。
 
 書店員になりたての頃、実は私も100円ショップ方式で会計をしていた。1575円の単行本が一点、410円のコミックが一点という風に、馬鹿丁寧に。
 
 しかしある時、カゴいっぱいの写真集や詩集を会計するお客様の幸せそうな顔が、値段を読み上げるたびにこわばっていくのを見て、焼き鳥屋方式に変えた。1万円も本を買ってしまったと思えば後悔するかもしれないが、本を3冊も買ったという事実には、喜びしかない。東京ディズニーランドがパスポート制なのは、そういう理由からだと思うのだ。
 
 ビッグサンダー・マウンテンの入口で「大人1名1680円です」などと、いちいち値段を聞きたいだろうか。それはもはや全然夢の国ではない。
 
 本屋が着ぐるみを着る必要はないが、せめて焼き鳥屋のホスピタリティを見習いたい。
 
(三省堂書店神保町本店/新井見枝香)
 
(2018年3月13日更新/ 本紙「新文化」2018年3月9日号掲載)
               
 
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