出版業界 専門紙 新文化 出版業界スケジュール 情報掲示板 連載コラム 編集長のページ
第96回
幻想古書店の世界観
 本の街、おらが街、この神保町には、本や人との縁をなくした者の前だけに現れる、不思議な古書店「止まり木」があるそうな。店主は自らを魔法使いと名乗る眼鏡英国紳士。扉を開ければ、本とコーヒーと彼の微笑みが、あなたを優しく迎えてくれる。
 
 作家・蒼月海里さんの「幻想古書店で珈琲を」(ハルキ文庫)は、読書に癒し″を求める若い女性に絶大な人気を集め、このシリーズの舞台である神保町へわざわざ遠方から足を運ぶ読者も少なくない。
 
 ある日曜日、レジで蒼月さんの本を数点、販売した。差し出したのは中学生と思しき娘だが、会計は母の財布である。カバーをかける間に、親子の会話が耳に入った。
 
 「お母さんも読んでみようかしら」
 「イヤッ! 絶対お母さんなんかにこの世界観はわかんない」
 
 買ってもらっているのに、ひどい言い草である。
 
 しかし「娘よ、その態度はいかがなものか」と思うほど私は大人ではなく、むしろ彼女の頑なさに激しく共感してしまった。すげぇわかる。その、あたしの大事なもんに気安く触んないでよ!って感じ。
 
 好きが極まると、この価値がわかるのは選ばれし者のみ、中でも私が世界で一番わかっている、と感じるものなのである。まだあどけない少女が使った「世界観」という言葉に、深い沼の香りがした。
 
 ようこそ活字の世界へ(英国紳士風に)。
 
(三省堂書店神保町本店/新井見枝香)
 
(2018年4月5日更新/ 本紙「新文化」2018年3月30日号掲載)
               
 
購読お申込み
「新文化」案内
会社概要
アクセス・地図
出版物
お問い合せ
メール送信
リンク

新文化通信社