某大手出版社の今月の文庫新刊は約30「点」だった。30「冊」ではない。その30種類の新商品は新刊台の平積みだけではなく、必ず棚にも差す。そこがその本の本籍地となり、棚番として登録されるからだ。それを頼りに訪ねてくる人のためにも、最低1冊は常時居てもらわなければ困る。
しかしそれを1年間繰り返せば、棚差しは年間360冊ずつ増えることになる。棚1段約60冊として6段、つまりほぼ棚1本分だ。残念ながらリアル書店の棚は、4次元ではない。だから、定番ロングセラーである骨と皮を残して、血肉はどんどんリニューアルしているのが現実だ。
コンビニのアイスケースも、常に新商品が並び、流動的に内容は変化し続けている。だが、ハーゲンダッツのバニラはあり続ける。新潮文庫棚における太宰治の『人間失格』みたいなものか。あまり美味しくなさそうな例えだが。
何かのフレーバーがなくなれば、必ずある一定のファンが嘆くが、彼らが次の新商品に手を伸ばさないかというと、そんなことはない。基本、ハーゲンダッツが好きだからだ。
新刊が増えれば、棚にないタイトルも増えていく。本籍地を失った本がどうなるかは、言わずもがなだ。絶版状態になることなど、珍しいことでもなんでもない。そして、それを儚いと嘆くのも、私の仕事ではない。
(三省堂書店神保町本店/新井見枝香)
(2018年4月16日更新/ 本紙「新文化」2018年4月12日号掲載)
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