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第1回
「本を読まない」という大嘘
 僕は2011年秋、32歳の時に「星海社新書」を立ち上げました。コンセプトは「武器としての教養」。10代、20代に向けて強いメッセージを発するレーベルです。元々は光文社新書で『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』や『若者はなぜ3年で辞めるのか?』を担当してきました。この連載では、出版や編集の未来を、若い立場なりに考えていきたいと思います。
 
 「若者が本を読まなくなった」。よく聞く言葉ですが、本当でしょうか? 僕は大嘘だと思います。事実、僕が光文社新書時代に編集した本は、大学生や20代によく売れていました(新書の平均読者層は50代)。それは「若い人にメッセージを伝えたい」という著者と編集者の強い思いがあり、その層に響く構成・タイトル・文体・コピー・ビジュアル・営業施策などを徹底的に考えたからだと思っています。若者は本を読まないわけではない。単純に、彼らが求める本がないだけだーーこれが、僕が辿り着いた一つの結論でした。
 
 今は消費者の可処分所得ならぬ可処分時間を、コンテンツが奪い合う時代です。本は「誰が」「何を」「どういう風に」語るかが命ですが、同様に「誰のために」「何が」「どのように」語られているか、読者はシビアに見極めています。漠然と渋谷のスクランブル交差点の歩行者に遠くから石を投げるような本は、案外誰にも当たりません。「お前にぶつけてやる!」と胸倉を掴んで顔面に投石するくらいの意気込みがないと伝わらないし、今の読者はわざわざ時間やお金というコストを支払うこともない。
 
 ただ逆に言うと、真剣にそこらへんのことを考えて本を作れば、若い人だろうと必ず本を手に取ってくれると僕は信じています。「本が売れなくなった」と安直に嘆く人は、実は読者のことを信じていないのではないでしょうか。青臭いかもしれませんが、僕は信じたい。だから、光文社を辞めて、星海社という新たなステージで、10代、20代という本来のターゲットではない読者層に向けた新書レーベルを創刊したのです。
 
 創刊して2年が経った今、断言できるのは「やっぱり若い人は本を読むし、もっと読みたいと思ってもいる」ということ。これは僕が声を大にして伝えたい実感です。ちゃんと若者に伝える本を作れば、若者は読むのです。ただそのためには、座して待つのではなく手を尽くさなければなりません。「武器としての教養」というコンセプトを設定したのも、大学生協をメインの販売場所にしているのも、なるべく若手の新人に書いてもらうのも、若者が集うイベントを定期的に開催するのも、すべては「未来を担う次世代にメッセージを伝える」という目的を実現するため。あくまで本も一つの手段にすぎません。一番大事なのは、やはりなんと言っても、「目的」なのです。
 
 次回からは、それぞれの「目的」を達成するために、僕や、僕のまわりの人たちがチャレンジしている取り組みを、ご紹介していきたいと思います。
 
(文責=冨田薫)
(2013年8月2日更新 /本紙「新文化」2013年8月1日号掲載)
柿内芳文プロフィール
星海社シニアエディター、星海社新書編集長。1978年、東京都町田市生まれ。慶應大学卒業後、光文社に入社。光文社新書『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』『99.9%は仮説』などを手がける。2010年、星海社へ移籍。星海社新書『武器としての決断思考』『僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?』などがベストセラーとなっている。新書編集歴11年の自称「新書バカ」。ツイッターアカウントは@kakkyoshifumi
               
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